2日目、鏡の中で、天職編
いきなり鏡の中に引きずり込まれるとか…
「ホラー映画かっ!」
心臓に悪いアトラクションは注意書きが必要ですよ、碧さん!
「びっくりしましたね」
女の子は、やっぱりびっくりしたようには全然見えなかったけど、これはもう、驚くと言う振る舞いを知らないからなんじゃないかって思えてきたよ。
よし、ここは演技指導だよ。こんな感じで怖い目にあった時は…っと…そうそう…左手は腰に当てて…右手でビシッと…うんうん…後はさっきのぼくみたいに…っと…よし!
「「ホラー映画か!」」
鏡の向こうから見てるかもしれない碧さんに、二人でビシッと言ってみた。
そう言えば、繋いでいた手が離せていた。鏡の中では呪いも効かないようだ。
鏡の中の世界は広くはなく、小さな公園くらいの広場がぽつんとあるだけだった。
何をしたら良いんだろう?
天職と、みょうぶ、だっけ…さっさと貰って此処から出たくなってきた。
なんだか怖いんだよね。何が起こるか分からない異世界で、助けてくれる人が近くに居ないのってさ…
けっして、繋いでいた手が離れたから不安なんじゃないよ!
それにしても、ここって何もないけど…
っと、ぼくは辺りを見渡して…
あぁ、ここ、円形の広場の外側というか壁の部分がぐるっと一周隙間なく鏡なんだ。
ぐるりと丸い筒状の鏡の内側にいるんだと思う。
上の方はどうなってるんだろう…
果てしなくずっと、鏡が続いているようにも見える。
異世界の中の鏡の中の世界って、もうわけが分からないね。
あれ、上の方から光が降りてきてる。
青白い光と、赤黒い光
二つの輝きが、くるくると絡まるように回りながら降りてきていた。
青と赤の光が、周囲をぐるりと囲む鏡に写り、きらきらと瞬く光の輪っかみたいのが幾重にも重なって見える。幻想的な光景だった。
近付いてくると、その光がジョブ魂だってことが分かった。山吹さんが持ってたのと同じような人魂みたいな形。
どっちかがぼくのってことかな?
二つのジョブ魂はぼくたちのすぐ上の方に降りてきている。
このまま身体に吸い込まれていく予感がするけど、避けたらどうなるのかな?
ぼくは身体をすすっとずらしてみると、ジョブ魂も同じようにすすっとずれて動いた。
うわ、これ避けれないよね?
女の子が、ぼくを追いかけて動き回るジョブ魂と、それが写っている鏡を眺めて「綺麗ですね」と呟いている。
そうこう遊んでるうちに、ジョブ魂が吸い込まれるようにぼく達に入った。
ぼくが青で、女の子が赤だった。
頭の中に『天術使い』という言葉が浮かんだ。これがぼくの天職なんだろうね。妄想でなければ、だけど。
「ぼくは天術使い、らしいんだけど、きみは何だった?」
そう聞くと女の子は、「こちは、」と前置きし、真剣な顔で、口ごもった。
私には何も聞こえませんでしたとか、幻聴じゃないですか?とか言われたらどうしよう…
女の子は、深呼吸を一度して、覚悟を決めたように、ぼくを真っ直ぐに見ながら言う。
「ちじゅちゅちゅかい!」
…
うん、噛んだね。
この作品はフィクションであり、実在する、人物・ 地名・団体とは一切関係ありません。
また、科学的な現実との相違は作中ではマナの働きによるものであり、実際の円筒状の鏡の中から見える景色とも一切関係ありません。
実際にはどう見えるんでしょうね?




