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HEAVEN AND HELL  作者: despair
五日目
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五日目、放って置いたら大問題


 ええっと、ぼくとジゴクを赤い糸が繋いでいた。

 運命的な思い込みにおける赤い糸じゃなくて、しっかりと目に見える物理的なやつだ。

 糸を触っても特に感触はないけどね。


「恐らくじゃが、虚数領域の一部にリンクした状態で極化したことにより、リンク経路から染みるようにマナが絆に作用したんじゃろうな」


 よし、アビスちゃんの説明が分からない。

 虚数領域って初めて聞いた。

 ぐるぐる麺とかとはまた別なのかな。

 ぼくとジゴクを繋ぐ赤い糸をぼやっと見ながら「ふーん」と返事をしたけれど、我ながら立派な生返事だったと思う。

 幽体を見れる状態で極化したのが原因みたいだけど、それでどうして赤い糸が結ばれるんだろうね。


 シュラちゃんが「お二人はやっぱり運命の絆で結ばれているんですねえ」ってうっとりしてる。

 うっとりしてるってことは赤い糸があることにはなんの疑問も抱いてないってわけで、つまりはそこには納得してるってわけだ。

 受け入れているってわけだ。

 それはそれで何か言いたくなったけど、それでも撫子ちゃんみたいに爆笑されるよりは良い。

 本当に楽しそうに笑ってるから釣られてこっちまで笑いたくなっちゃいそうだけど、うん、笑いごとじゃない。


 これは笑いごとじゃないんだよ。

 だけど、だれもこれが一大事だなんて思ってないよね。

 ぼく自身も糸が繋がっている相手がジゴクだから不快ではないし、ジゴクだってそう思っているようだ。

 今さら心がちょっと繋がってたって、そこには逆に安心感しかないよね。

 いっそ撫子ちゃんが爆笑してくれてるから問題があるって思えてるところがあるかも。


 そう、地球に帰ったときのことを考えよう。

 赤い糸がこのまま繋がりっぱなしだったら流石に地球で目立っちゃう。

 撫子ちゃんの腹筋だって大変なことになるだろう。

 それに、例えばかくれんぼでもしようものなら赤い糸を辿るだけですぐに見つかっちゃうだろう。

 日常生活で不都合が多そうだ。


「これって地球でも繋がったままなのかな?」

「糸そのものはマナで構成されておるようじゃ。地球では可視化まではされんじゃろう。余程の霊感を持つ者でもない限りは見えんよな」


 霊感があると見えちゃうんだ!

 っていうか霊感ってなに!

 さらっと重大なことをいわれちゃったよ。

 今日は朝から濃い展開だよ。

 っていうかまだ朝か。

 ああ、もう異世界で思いもよらないことが起こるのにも何だかなれてきたし、地球では見えないのなら一先ずは問題ないかなぁ…

 うん。

 地球に行っても糸が見えなくなるだけならジゴクも安心みたいだし、問題なさそうだ。



「ちっ」


 ん、舌打ちみたいな呟き…

 ゴルバンさんだ。


「疑うとか信じるとかよ、そんなんじゃねえんだが…」


 何やら言いたいことがあるみたい。

 不機嫌ってわけでもなさそうだ。

 黙って続きを聞いてみよう。


 あっ、爆笑してる撫子ちゃんはちょっと静かにして欲しいかな…

 とか思ったら青磁くんが撫子ちゃんを脇に押してってくれた。

 流石に察した撫子ちゃんも笑うのをやめてくれた。

 これは青磁くんとも以心伝心してるのかもしれない。

 まあ青磁くんは元々から色んなことに気が利くからね、うん、ありがたい。


「見せたいものがある。ついて来てくれ」


 うん、ゴルバンさんは真剣だ。

 さっきリリアラちゃんへの祝福は成功した。

 だけど、まだ何かあるんだろう。


「ふむ。『ウロ』じゃな?」


 アビスちゃんが何か察したようだ。

 ゴルバンさんも軽く頷いてそれを認める。


「あれを何とかできないなら、どんな神が居たってこの世界は終わりなんでな」


 そう言って歩き出すゴルバンさん。

 よく分からないけど一緒に行ったほうが良いんだろう。

 アビスちゃんも「ふむ。行っておくべきじゃろ」とか言ってるしね。


「ウロ? 世界の終わりって?」


 ぼくはアビスちゃんに聞いてみる。

 それが本当ならけっこう怖いんだけど…


「なに、マナの空洞じゃよ。放っておけば世界の終わりとは、確かに間違ってはおらんがな。流石に大袈裟(おおげさ)な言い方じゃな」


 んー?

 マナの空洞?

 でも確かにね、放っておけば大問題なんて言い出したらさ、そりゃあ大抵の問題は放っておいたら大問題になるだろう。

 父さんだって放って置いたら色々と大問題になるだろうさ。


 あっ、父さんがどこか近くにいるんだよ。

 うーん、放っておきたい問題が身近にあったね。

 いやいや、放って置いたら大問題って可能性を今考えてたとこだったよ。


 流石に帰りが遅いぼく達を父さんが探しに来ないとも限らないだろう。

 そうしたら、先日のウガリットの街みたいに大変なことになりそうな予感しかしない。

 小包が届いただけで住民が避難しちゃうんだからね。

 本物が来たらどうなることやら想像もしたくない。


「えーっと山吹さん。一応父さんに、皆で出掛けるから心配しないでいっそ先に帰って良いって連絡して来てもらえませんか?」


 父さんの話題ってだけで小声になっちゃうぼくがいる。

 いや、エルピーですら父さんが近くに居るとか言ったら取り乱しかねないわけで、そりゃあ内緒話にもなるよね。

 正直、まともに父さんへの連絡を頼めそうなのが山吹さんしか居ないっていう時点で、やっぱりまともな父さんではないんだろう。

 アビスちゃんとは喧嘩しそうだし、シュラちゃんは怖がるだろうし……


「ああ、大丈夫。キザシの旦那の想定通りだから気にするなってさ」

 山吹さんがちょっと苦笑いを浮かべ、やっぱり小声で答えてくれた。


 ん?

 どこかで隠れて連絡とってるのかな?

 そんなぼくの怪訝そうな表情を見て、山吹さんが教えてくれる。


「いやあ、旦那にね、とにかくこう言っておけって言われてるんだよね」

 なるほど。言いそうだ。

 そして、それをわざわざ言っておくってことは、父さんの方から連絡はいらないって言っているようなものだ。

 つまりは放って置いてくれと言っているわけだ。

「山吹さんが申し訳なさそうにする必要は全くないです」

 いや、本当に。

 

 さて、放って置きたい問題で、放って置いたら大問題の父さんが、なんと先手を打って放って置いてくれと言ってたわけだ。


 ぼくにはもう、大問題が起きる予感しかしなかった。



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