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HEAVEN AND HELL  作者: despair
五日目
212/214

五日目、リリアラ救済その7



 ぼく達が地上に降りると、歓声とともにエルピーが駆け寄ってきた。

 ちょっと怖い。


「テンゴク様とジゴク様の晴れ姿、我が宿願がここに叶ったこと確かに拝見致しました!!」


 うん、知ってる。

 大きな声で叫び続けてたもんね。

 今も涙が出てらっしゃるけど、なんとも非常に暑苦しい表情だ。


 遅れてやってきた終末論者カンパネラの里の人達からも嬉しそうな声が聞こえる。

 それ以外の怪しむような、雑魚にしか見えない神のような存在との接し方に戸惑うような、そんな声もちらほらと聞こえる辺り、エルピーよりも余程に精神面が健全で良かった。


 おっと、

 ロウガくんが、、、まだ倒れてる。

 うーん、念願の妹の元気な姿が見れそうだっていうのにまだ気絶してるって残念だろうね。

 ロウガくんが起きるの待ってから祝福の儀式してあげた方が良かったかな。

 うん。

 寝たきりの妹が幽体離脱してたっていうショックはぼくに想像できるようなものではないのだろう。

 そういうことにしておこう。


 ぼく達は極化を解く

 MPが0になったけど、今日は朝ごはんをしっかり食べたおかげかそんなに辛くはない。

 少し気だるい感じがするけれど、それもちょっと走った後とかの感じに近い。

 幽体離脱の真似をしていたアビスちゃんも身体へと返っているし、祝福の儀式は無事に完了、めでたしめでたし。


 さて、あと気になるのはリリアラちゃんだね。

 身体が動くことを確かめながら、一つ一つの動作ができる度に嬉しそうに笑っている。

 そこだけ見ると微笑ましい光景だ。


「えへへ、身体が動くよ。全然痛くないよ」


 うん、良い笑顔。

 ぼくも手術が成功したお医者さんになった気分でにこりとする。


 リリアラちゃんは四本の足で立ち上がり、ぼく達の方へとゆっくりゆっくり歩きだす。

 幽体で動くのとは感覚が違うのだろう。

 一歩ずつ踏みしめるように、転ばないように、慎重に、慎重に、、

 何だか雛鳥の巣立ちを見守っている気分になってきた。

 少しずつ足取りが軽やかになってくる。

 なるほど、四本も足があるとね。


 そう、リリアラちゃんには足が四本ある。

 もちろん、はいはいしているわけじゃない。

 最初に前に真っ直ぐにしゅっと伸びた足を、後から追いかけるように伸びてくるぎこちない足、、

 足だけじゃなく、手も、顔も、全てが2セット、、

 なるほど、リリアラちゃんの幽体がちょこっと離脱しているみたいだ。

 動きも表情も幽体の方が自然に動けてるようで、実体の方がちょっとぎこちない。

 実際に動かしたいイメージ通りに動けている幽体と、そのイメージに追い付こうと頑張っている本体のズレが出ちゃってるみたいだ。


 って、これ見えちゃって良いのかな?

 ゴルバンさんや、他の人には見えてなさそうだよね。

 普通にリリアラちゃんを見守ってる感じだもんね。


 ぼくはジゴクの方を見る。

 ジゴクがぼくの方を見る。

 ぼくとジゴクはうんと頷き合う。


 やっぱり、ジゴクにも幽体が見えてるようだ。

 アビスちゃんに幽体を見れるように意識のチャンネルを合わせてもらったって話だったけど、これがまだ解除されてないってことだよね。

 まさかこのままずっと見えたままだったらどうしよう。

 リリアラちゃんの幽体ならまだ良いけど、地球に帰っても幽霊とか見えちゃったら本当に怖い。


 さて、リリアラちゃんがぼく達の前に来た。

 初めて自分の足で歩いたっていう達成感。

 自由に動けるっていう解放感。

 何の痛みもないって本当に素晴らしい。

 もう最高の気分です、って思ってるみたいだ。

 何せリリアラちゃんの幽体さんがそれはもう本当に嬉しそうに、とても饒舌に心境を語っていらっしゃるのではっきりと分かる。

 すっかりと身体と幽体が分離しちゃっているけど、あれは大丈夫なのかな?


 本体の方は真顔のままだった。

 まだ表情とか作るの難しいんだろう。

 うん。

 幽体のおかげで育まれた心に、寝たきりだった身体の方が追い付いていかないんだろう。

 幽体は見えちゃってたらまずいやつだ。

 心の声だだもれ状態だもんね。

 リリアラちゃん以外の人の心の声や幽体は見えてないから、これはきっと幽体離脱が出来ちゃうリリアラちゃんだから起きてる現象に違いない。

 この件は後でアビスちゃんに相談してみよう。


 ごきげんな幽体を見ないことにすると、リリアラちゃんはとっても頑張って歩いてきたようにしか見えない。

 そんなリリアラちゃんの本体がぼく達の前で恭しくお辞儀をした。

 その頭の上では幽体ちゃんが「よしっ、ちゃんと神様に気に入られるぞー」って息巻いている。

 本体とのギャップが面白いね。


 あっ、幽体ちゃんと目があった。


 気まずい沈黙、、、


 ふよふよと幽体ちゃんがこちらに飛んできて、、、


「えっと、見えちゃってます?」


 ぼく達は頷く。


「ええっと、身体から出ないで頭の中で考えごとをするのって、どうしたら良いんでしょうか?」


 うん。

 そこに疑問をもったことはなかった。

 ぼくは身体から幽体を出して考え事をしたことがないし、想像もつかないよ。

 ジゴクと以心伝心しながら会話したりっていうのが近いかもしれないけど、、


「それはぼくにも分からないけど、アビスちゃんっていう子が幽体離脱に詳しいからさ、後で聞いてみよう」


「さすが神様! ありがとうございます!」


 にこにこと勢いよくお辞儀するリリアラちゃんの幽体。

 本体は無表情のままだったけど、わずかに頭を下げているようだ。

 この身体と意識とのギャップが身体からはみ出しちゃう原因のような気もするね。

 意識と身体のギャップって、まあ、それがどういうものなのかはさっぱり分からないんだけどさ。

 なんにしたって幽体離脱のことはアビスちゃんに聞いてみた方が良いだろう。

 意識が何とかのぐるんぐるんとか何とか言ってたし、何よりアビスちゃんも幽体離脱しちゃってたわけで、かなり詳しいはず。

 ジゴクも同じように考えているようだ。

 何せ、ぼく達は幽体を見れるようにしてもらってるだけで知識は全くないんだよね。


 ぐるんぐるんってエンタングルメントだったか、ジゴクもその言葉を覚えていたみたいだけど意味は分かってないようだ。

 流石にエンタングルメントが遠淡求流面塗では絶対にないだろう。

 ジゴクは横文字が苦手みたいだ。


 リリアラちゃんの幽体がふわりとこっちに漂ってきて、その後を追いかけるように身体の方がゆっくりと歩いてくる。

 ぼく達の前にやってきたリリアラちゃんの幽体の頭を撫でてみる。

 うん。

 すり抜けた。


「まずは体の方を動かすのに馴れるように頑張ろうね」


 撫でた手がすり抜けたのが気まずくて、それを誤魔化すように励ましてしまった。


 なるほど。

 実は年下だけど見た目はぼくと同じくらいなシュラちゃんや、見た目は幼いのに中身は達観している感じのあるアビスちゃんとは違うね。

 リリアラちゃんは見たままの幼い雰囲気そのままの小さい子に見える。

 ちょっと病弱だったっていうだけの、ついでに幽体離脱ができるっていうだけの普通の女の子に見える。

 なんだか逆に新鮮だよね。

 だから、ぼくはついつい年上のお兄さんを気取って頭を撫でてしまった。

 軽い気持ちで励ましてしまった。


 軽い気持ち。

 だけどリリアラちゃんにはそうではなかった。

 喜びと幸せの、その全てがそこに詰まっているかのような喜色満面の笑顔。


「はい! 私の全ては神様に尽くすためにあるのです! 神様の望みに応えられるように全力で励みますから!」


 とても嬉しそうに、とんでもないことを言うね。


「さあ、私の身体よー! 頑張れー! 」


 リリアラちゃんの幽体の声援を受けて、リリアラちゃんの身体が一生懸命に歩み出した。

 ふらふらとした身体の、一歩一歩はずっしり重くて

 まるで雪山に登山でもしてるみたいな一生懸命さに、

 ぼくの心がずきりと痛んだ。

 ぼくのせいで無理させちゃってるんだよね。


 何とか近くまで来たところで、

 ふらりと、

 リリアラちゃんが倒れてくる。

 もう限界だったのか足がもつれてしまったようだ。

 ぼくはその小さな身体を受け止めた、今度はちゃんと身体の方だからしっかりと受け止めた。


 なるほど、今のぼくは神様の役なんだっけ。

 軽い気持ちで言ったことにも、深く重く受け止められてしまうってわけだ。

 ちょっとした言葉でも、相手に無理を強いてしまう。


 それはとても嫌だった。


「ひゃー! 神様ごめんなさい! 私の身体の不甲斐なさってば、こんなに惨めで役立たずー! 」


 あわあわしている幽体ちゃん。

 身体を必死に起こそうとして、だけど伸ばした腕がすり抜け続けている。

 これはリリアラちゃんのせいじゃない。

 惨めだなんて思わない。


「大丈夫だよ。無理はしないで、ゆっくりと出来るようになったら良いからさ」


 なだめるように、できるだけ優しく伝わるように言ってみる。

 ちゃんと言えたかな?


 なぜかエルピーが感涙して咽び泣いてるみたいだけど、そっちはちょっと置いとこう。

 あっちも後で大変そうだなあ。


「でもでも、せっかく動けるようになったのに、こんなのじゃ役に立たないですよ!」


 幽体ちゃんの必死なアピール。

 身体のほうも小さく首を振っている。


 うん。

 気持ちは分かってしまう。

 だからこそ困った。

 頑張りたいのは分かるけど、ちょっと無理があるよね。


「おいおい、頑張って歩いてるとこに(わり)いんだけどよ」


 威圧的な野太い声がぞんざいな口調で丁寧に話しかけてきた。

 ゴルバンさんだね。


「いくら祝福されたっつってもな。流石にMPが回復するまでは休んでた方が良いんじゃねえか?」


 ん?

 MP切れ?

 幽体が元気そうだから分からなかっただけなのかな。

 確かに身体の方だけ見たら疲れてぐったりしてるだけのような……


「えっと、MPないの?」


 ぼくはリリアラちゃんに聞いてみた。

 ちなみに身体の方に。


「えーと、人生で最高に調子が良いのが今なのは間違いないです。身体が思った通りに動かないだけで、なんともないと思うんですが、、、」


 幽体の方から返事が来た。

 身体の方は何だかぐったりしていて話すのも苦しそうに見えるけど、なるほど、これでも過去最高のベストコンディションなわけだ。

 だから調子が良いのか悪いのかも、MP切れなのかも分からない、っと。


 うん。

 これはゴルバンさんが正しそうだ。

 どう見てもベストコンディションには見えなかった。

 頑張って歩いていたけど、あれは雛鳥の巣立ちどころか、実は燃え尽きる前の蝋燭の最後の煌めきみたいなものだったのかも。

 最後の力を振り絞って歩いていたんだろう。

 限界だったんだろう。

 本人にとっては絶好調でも、お医者さんが見たら休みなさいって言ったに違いない。

 そんな子に向かって「頑張ろうね」なんて言っちゃったわけだよ。


「とりあえず、一度ゆっくり休んでみようね」


 ぼくの自己嫌悪の嫌な気持ちがリリアラちゃんに向かないように、必死に隠して穏やかに言う。

 ちゃんと言えたかな。


「はい。神様の言うとおり、です」


 ちょっと残念そうに、だけど真っ直ぐに幽体が身体に帰っていく。

 肝心の身体の方は目を閉じて、、、


 すぐに寝息が聞こえてきた。

 うん。

 良かった。

 ゆっくりと休んでもらおう。

 これで一安心、だよね。


 さて。

 ぼくの中の嫌な気持ちは、ちゃんと誰にも気付かれなかったようだ。


 もっとも、ジゴク以外には、だけどね。



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