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HEAVEN AND HELL  作者: despair
五日目
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五日目、リリアラ救済その5


 ぼく達は幽体離脱少女のリリアラちゃんに祝福を与えることを告げた。


 かつてこの異世界に居たという神様。

 その神が『ムクロ』と呼ばれる無属性の人達に行っていた救済行為を『祝福』と呼ぶらしい。

 無属性の人は自分の魂にマナを上手く取り込めず、仮死に近い状態で、身体だけがマナの作用によってぎりぎり生かされている。

 魂が身体から拒絶されている状態に近く、その拒絶反応が全身の激しい痛みとして知覚されるらしい。

 まさに生き地獄。

 幽体離脱できるのが唯一の救いだろう。


 シュラちゃんとかの異世界の地底で暮らす無属性の人達は、碧さんから貰った名苻(みょうぶ)によってマナをしっかりと取り込むことができるんだとか。

 今回はぼく達の『極化』の術でマナを操作する能力と、アビスちゃんの知識を合わせて、ムクロのリリアラちゃんに自分達で名苻(みょうぶ)を授けようって作戦だ。


 ぼくにはムクロとか、名苻(みょうぶ)を授けるっていうところの、その仕組みの詳しい部分は難し過ぎて理解出来ていない。

 だからこれは、実に人任せな作戦なんだけど…


「あなた達は本当の神様なのですか?」


 リリアラちゃんが瞳を潤ませながら聞いてきた。

 幽体なのに涙が出てきそうだ。


「うん。それを証明するためにもぼく達は君を助けたいんだよね」


 おっと、普通に喋っちゃった。

 もうちょっと威厳ありそうな喋り方をした方が良かったかな。

 そして、別にぼくは自分が神様だと思ってるわけではない。

 異世界に居た神と同じ祝福をリリアラちゃんに与えることで、『終末論者(カンパネラ)』っていう人達の信用が得られるだろうっていう作戦なんだよね。

 つまりは、自分たちが神様だと証明したいわけじゃなくて、神様がやってたことと同じことが出来るか試したいってのが実際のところなわけだ。

 何にしたって、これで人助けになるなら、できることくらいはやっておきたいよね。


〔ふむ。締めるところを確りと締めておけば、他は好きに立ち居振る舞えばよいじゃろ。元居た神もそう偉そうな奴ではなかったのじゃ。それこそ、今のジゴクと似た感じかのう〕


 ふーん。

 んじゃあ、出来るだけジゴクっぽく行こうかな。

〔うむ、余はその間に儀式の準備にとりかかっておくのじゃ〕


‐では、こちは精一杯に己らしく振る舞いましょう‐


 おっと、ジゴクが張り切っているよ。

 ぼくの見本になれるってところが嬉しいようだ。

 これはしっかりと見ておかないとね。


 ジゴクが鼻息ふんすと気合いを入れて、リリアラちゃんに見得を切る。


「然らば則ち天宇地廬。リリアラ様のお体が孤影悄然と過ごされる様はこち達にも真に心苦しく。それも劇毒に浸るが如くの強い痛みに苛まれ続けているとのこと。それでもその幼き精神がこれほどに生気溌剌と壮健である様は正に得難いものであり、こち達がリリアラ様に祝福を与えようと感奮興起となることも当然の理なので御座います」


 うんうん。

 ジゴクの台詞を聞いたリリアラちゃんがぽわぽわっと気の抜けた表情になった。

 不思議なものを見るような目になっている。

 これは仕方がないかな。

 気合いの入ったジゴクの言葉は、この小さな女の子には難解過ぎたに違いない。


 なんといっても、ぼくにもジゴクの話は難しかったんだからさ。


‐なんと!こちの気合いは間違っていたので御座いましょうか!?‐


 うーん。

 間違いってことはないよ。

 小さい子ってまだそんなの言葉を知らないからさ、相手の知識に合わせた対応が必要っていうか……

 うん、小さいのにアビスちゃんみたいな理解力を持ってる子はいないと思っといて間違いないかな。

 でも、子どもに合わせるのが神様らしい振る舞いなのかも分からないし、ジゴクらしさ全開って意味では良かったと思うよ。


‐テンゴクの励ましの気持ちがありがたく。されどもこちは己の不甲斐なさに苦虫を噛み締ざるを得ませぬ‐


 うーん。

 そんなに気にしなくて言いと思うけど…

 次はぼくの喋る番だし、さっきのジゴクの真似を、そう、できるだけ頑張ってみるよ。


(かたじけ)なく御座います‐


 ぼくは地面に転がっているロウガくんをちらりと見る。

 妹思いのこのお兄さんのためにも頑張らないとね。

 ぼくは精一杯のジゴクの真似をしてみよう。


「そこで寝転んでいるロウガくんもさ、リリアラ様を助けて上げたいって本当に強く願っていたからね。ぼくは彼のためにもリリアラ様に祝福を授けたいので御座いますって思うんだ」


 よし。

 ぼくにできるだけのジゴクの真似は出来たよね。

 うん。

 リリアラちゃんもぽわぽわと気の抜けた表情のままだし、これはジゴクの時と同じ反応だから上手くいったに違いない。


 あれ?

 リリアラちゃんの幽体のその表情にぽたぽたと汗が流れ出している。

 幽体も汗とか出るんだね。


「か、神様がどうして私に様をつけるんですか!?」


 うん?

 あれ?

 そりゃあジゴクは誰にだって様付けなわけだし……


 って、そりゃあ不思議に思うよね!

 ぼくだって急に神様が現れてテンゴ様とか言われたらすっごく疑問符を頭の上にたくさん浮かべちゃうに決まってるもんね。

 突然現れた見知らぬ女の子に様付けで呼ばれただけで、ぼくも何だかくすぐったく感じたものだ。

 それが突然現れた神様に様付けで呼ばれたらさ、そりゃあ自分はいったい何様なのかと疑問を抱いて当然だよね!


 うん。

 ジゴクの真似をすることに頭がいっぱいで、リリアラちゃんがどう思うのかまで考えてなかったよ!


「ええっと…」


 ぼく達はなんと答えるべきかな……


 ぼくとジゴクは顔を見合わせて考えた。


 ぼく達の後ろから、ゴルバンさんのいぶかしがるような声が聞こえる。

 エルピーも何だか心配そうだ。

 正面からは、変な質問をしちゃったんじゃないかとあたふたするリリアラちゃんがこっちを見つめてくる。


 これは焦ってしまう!

 寝転んでぴくりとも動かないロウガくんを見るとちょっとほっとしてしまうくらいの焦りを感じるよ!


〔良いのじゃ。余の準備は終わったのじゃよ。少し強引な展開とはなれど、ここは儀式を始めてしまおうぞ〕


 あ、よし!

 そうしよう!


‐そ、そうで御座いますね!‐


 うんうん。

 ちょっと締まらない展開になってしまったけど、せめてここからは堂々と振る舞うようにしよう。


「何故って云うのは後で分かるよ」


 これからリリアラちゃんと仲良くなっていけば、ジゴクが誰にでも様をつけて呼ぶことはすぐに分かってもらえるだろう。


 ぼく達はリリアラちゃんに堂々とお願いする。


「「リリアラ・フォルトリアよ。その名を我らに奉れ」」


 今までのあたふたが嘘みたいに、今のは立派な態度で言えたと思う。

 余計に胡散臭い感じになってないかな?


「は、はい!」


 あ、リリアラちゃんが了解してくれたね。

 断られなくて良かったよ。


「「ならばいざ、『天地結びの祝の儀』!!」」


 そして、儀式が始まった。


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