2日目、異世界チュートリアル説教編
コツっと床を叩く音がして、ぼくは目を覚ました。
あれ、寝てたっけ?
状況がよく分からないけど、床の感触がほっぺに冷たかった。
ぼくが上半身を起こすと、目の前には、心配そうな顔でぼくを見る女の子が居た。
「てんご様!無事ですか!?」
なぜだか、とても心配されていたので、ぼくは頷きを返す。
女の子の後ろから、山吹さんもこちらを覗き込んでいる。
「目が覚めて良かったよ。こんなところで死んでたら、本当に笑えないよ」
そう言って、ぼくの後ろを睨み付ける。
女の子が手を差し出してくれたので、ぼくはよいしょっと起き上がった。
えっと…
あっ!ぼくって死にかけてた!?
心臓が止まってたんだっけ!?
呼吸は出来なかったよ!
生死の狭間をさ迷ってたんじゃ…
じゃあ、心臓マッサージとか、じ、人工呼吸とか、されちゃったのかな…!?
コツッ!と、ぼくの考えを中断するように、床を叩く音が後ろで鳴った。
後ろを振り替えると、
「三十二秒っ!!」
そう怒鳴られた。
三十二秒…!?えっ?何がだろう…
怒鳴られるのは山吹食堂で慣れてたけど、やっぱり怖かった。
黒い袴…巫女服…?を着た大人の女性は、とても怒っていた。
この人が碧さん、だよね。
「お前が床で寝っ転がってた時間だよ。私の貴重な時間を三十二秒も無駄にした罪を償いたまえ」
あっと…
そんな短かったんじゃ救命活動的なのをされた心配はいらないよね…っと思った。
そこは大問題だから、真っ先にそう思った。
いや、三十二秒で怒られてるのも大きな問題だけど…
どうしたら良いのかな…
そもそも、ぼくは何もしてないんだよね…
「ふん、お前は自分のせいで気絶したのだと自覚をしているんだろうね?」
ぶんぶんぶんっと首を横に降った。
えっ、ぼくが何をしたんだろ…?
「覚えておくことだ。お前は私の『停止』の魔法に抵抗しなかったんだ。それどころか受け入れて、肉体にのみ及ぼすはずだった効果を精神にまで広げてしまった。気絶で済んだのは僥倖だったと思いたまえ」
えっと、自覚は無いけど何かしたみたいだ…
いや、何もしなかったからなのかな…
すごく怒ってるし、謝った方が良いんだよね…
「さて、三十二秒分は怒ったので気が晴れた。ヤマブキ、さっさとチュートリアルとやらを始めなさい」
気が晴れたって言ってるけど…
「えっと、すいませんでした…」
そう、ぼくは謝っておく。
すると、「これ以上、くだらない言葉を私に聞かせるな!」と怒られてしまった。
自分が怒りたかっただけで、ぼくの反省は不要だったのかな…
まるで父さんみたいに自分勝手な考えの人だな、とか思っていたら、
「今度、心のない謝罪を私に聞かせたら、怒るだけじゃあ済まさないよ」
う…
怒らせたから謝っておいた、っていう思いを見透かされてたのかもしれない。学校とかじゃ、大人が怒ってたら謝らなきゃいけないって空気ができるからって、大人なら誰もがそれを望んでるわけじゃないよね。
さっきの形だけの反省が申し訳なくて、ぼくは「ごめんなさい」と言ってしまう。
碧さんは今度は、「ふん、さっきよりはマシになったか」と言って、にこりと微笑んだ。




