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HEAVEN AND HELL  作者: despair
五日目
208/214

リリアラ救済、その3

ムクロという病に侵されている幽体離脱少女のリリアラちゃん視点その3。ほっこり病んでます。


 自身をシスコンという兄様

 何よりも妹を大切に思う者に与えられる称号だと言って誇らしげな兄様

 本当に嫌な兄様だ。

 私がムクロとして苦しんで生きていることも知らないで自分を正義だと思い込んでいるところは滑稽だよ。

 それだけじゃない。

 兄様は私のことなんて何も知らない。

 大切に大切に大切にって、どこまでいってもそれだけだ。


 ちゃんと考えるとイライラするから普段はこんな風には思わないようにしてる。

 ロウガ兄様には感謝だってしているもの


 私は動くことも喋ることもできないムクロ

 私のことを兄様が知らないのは仕方のないことだ

 理解できないのは当然のことだ

 こんな兄様にイライラしてしまう私の方が悪いに決まっている


 だから、私がもしも動けるようになったらさ

 真っ先にロウガ兄様に知ってもらうんだ

 私はこんなに苦しかったんだよって

 私はこんなに痛かったんだよって

 ちゃんと知ってもらおう

 思い知ってもらおう

 私を生かしてくれたことを後悔してもらおう

 私は生まれたことをこんなに後悔しているのだから…


 えへへへへへ


 悲痛に歪む兄様の表情はどんなだろう

 それを想像するだけでこんなに楽しい気分になるってことに

 どうして今まで気付かなかったんだろう

 今までの人生が本当にもったいなかったね

 あっ、私はムクロだから人生じゃないかも…

 ほぼ生きてないもんね。

 人半死半生…?

 うーん、しっくりこないね。

 でも、言葉なんて何でも良いよね。

 よし、ムクロ人生ってことにしとこう!


 えへへへへっ

 今日はとっても良い気分だよ。

 ロウガ兄様が家の外に私を連れ出すっていう久しぶりの環境の変化

 それが私に新しい気付きをもたらしてくれたんだよね


 ありがとう!

 ロウガ兄様!


 おおっといけない。

 ちょっとトリップしちゃってた。

 身体から抜け出してるときは自分の心の声が大きすぎるんだよね。

 状況は…

 ゴルバンと兄様が言い争ってるけど、エルピテ様が間を取りなそうとしてくれてるみたい。

 だけどゴルバンが優勢って感じかなー


「神官様には(わり)ぃがよ、俺は見たこともない神を信じるほど間抜けじゃねえんだ!」


 ゴルバンの台詞ももっともだよね。

 急に神様が降って湧いたと言われるより、急に兄様と神官様の頭がおかしくなったって可能性の方がまだありそう。

 神を信じたい神官様と、私を助けたいロウガ兄様の願望がシンクロした妄想だって説を私は推すよ。

 そもそも、いくら神だからってムクロを助けられるとは限らないんじゃ…



「ひゅーるるるっ!」



 ん、

 なんだろ?

 空に何かの声が響いて…

 あっ、また別の謎生物だよ!

 ひょろひょろしてて細長いけど、あれもドラゴンなのかなー?


「テンゴク殿ぉぉぉぉっ!!!

 ジゴク様ぁぁぁぁっ!!!」


 神官様がまた吠えた。

 元気な人だね。


 ピシャッ


 おおぅ…?

 今度は空が光ったよ?


 まるで空を引き裂くように光の筋が迸り、ロウガ兄様のすぐ側

 ドラゴンさんの居る辺りまで落ちてきた。

 あれ、ドラゴンさんは居なくなってるね。

 今の光でやられちゃった?


 あっ、ちょっと離れたとこに移動してるね。

 無事で良かった。

 一瞬でやられてたら苦しむところがみれないもんね。


「御雷光だと!? 」


 おっと、ゴルバンは今の光を知ってるみたいだね。

 ごらいこうっていうんだねー


「そうだ! ゴルバンよ! これぞ神鳴り!これぞテンゴク様とジゴク様なのだ!」


 神官様もテンション二割増しで喜んでるよー?

 ちょっと気持ち悪い顔になってるね。

 神官様は御雷光を神鳴りって呼ぶんだね。

 どっちが本当なんだろうね。


「確かに今のは神の放つ不可避の一撃みたいだったがよ。それにしてはいくらなんでも弱すぎだろうが!」


 ふーん。

 ゴルバンって解説役なんだねー


「ゴルバンよ! 奴らは確かにどう見ても雑魚ではあったがな。それでも神ではないという証明にはならんだろう! 見よ!」


 ロウガ兄様がフォローになってない内容のフォローをしながら剣で空の一点を指し示した。


 わあっ!

 何あの白いのと黒いのの丸いの!

 空を飛んでる!?

 こっちに向かって飛んできてる!?


「おおっ! テンゴク様! ジゴク様! テンゴク様ぁぁぁぁぁ!!!! ジゴク様ぁぁぁぁ!!!」


 ううっ…

 神官様ってやっぱり気持ち悪い……

 でもでも、空からやってくる白くて黒くて丸いのの中には何かがいる。


 白い男の子と

 黒い女の子

 あれがテンゴク様とジゴク様なのかな!?


 その二人の白と黒のオーラの周りを、やっぱり白と黒の御雷光が迸り続けながら弾け続け、空を光が駆け巡っている。

 ついさっきの、ロウガ兄様に当たりかけた時の御雷光よりも繊細にコントロールされているようだ。

 それぞれの御雷光が小さく弾けているけれど、それは砂粒が流れているようなさらさらとした心地の良い音で、まるで上品な歌唱のようだ。

 時折、強く弾けることもあり、それは野蛮な咆哮のようでもあったけれど、不思議と歌唱とも調和していてずっと聞いていたくなる。

 実に素晴らしい繊細でいて大胆な演奏である。

 これが神鳴りなのか!

 なんてね。


 とにかくこれは見た目も綺麗で良い感じだよ。

 神官様も感極まってて涙がヤバいことになっている。

 ちょっと演出に力が入りすぎていて中身が追い付いてない感じもするけど、それでもずっとこの時間が続けば良いなって思ってしまう。

 こういうのには疎そうなロウガ兄様ですら見とれているようだしね。

 いつもは私にしかそういう顔をしないっていうのに、ちょっとショック…

 いや、あれも兄様の変態性の現れだったのかな…

 ううん…

 私があの神様とやらにムクロを治してもらえたとしたら、この危ない兄様と実際に接することになるんだよね…

 ちょっと憂鬱だよ。

 本当にこの時間がずっと続けば良いのになぁ



 うん?

 白黒の輪がふわりと広がって…

 白黒の二人を包み込んで…


 バチンッ


 弾ける音がしたかと思った次の瞬間、白と黒の二人が私のすぐ側に立っていた…

 うわぁ!

 どうしてこんなに早いのかなっ!?

 御雷光っていうのは高速で移動する技だったんだね!


 ううーん…

 それにしても、近くでまじまじと見てみると…

 この白と黒の二人…

 なんだろう…

 ちょっと変な感じ…

 この二人を見ていると動けなくなる…

 すごく惹かれる…

 黒と白の二人が私を見ているような…

 まるで…

 見つめ合っているみたいな…


 って!

 あれれれれれっ!

 うそうそうそうそうそっ!?

 身体から抜け出している私は今まで誰にも見られることがなかったのに!

 私がひょこりと動いてみると、二人の四つの(まなこ)もひょこりと動いてこっちを追ってくる!


 ひょっとして、この二人ってば私が見えてるの!?


「何だか思っていたより元気そうだね」

「然り。身体はピクリとも動きませぬが、心が踊っておられます」

「ああ、あっちが本体なのかな」


 神様が私を見つめて喋りかけてくる。

 馴染みのない感覚に、私は誰かに存在を認識されることが初めてだったのだと思い至る。

 それはとても嬉しくて、

 私は…


「テンゴク様ぁぁぁぁ! ジゴク様ぁぁぁぁ! その御立派な御姿に我は感涙を禁じ得ませぬぞ!」

「何だ! リリアラの心が踊っているとはどういう意味だ!」

「まさかの本物の神かと一瞬思っちまったが、よく見りゃギジンのまがい物じゃねえか!」


 うわあ

 何だろう。

 今日はとっても賑やかだね!

 こんな日もたまには良いものだ。


「だけどさ、私の初めての人とのコミュニケーションを全力で邪魔しなくても良いんじゃないかな! 本当にみんな、もっと私みたいに苦しめば良いのに! そしたらちょっとは謙虚になるんじゃないかな…」


 えへへへへっ

 苦しむみんなを想像するとよだれが出てくるよー


 へっ…?

 あれ…?

 白と黒の二人だけじゃなくて

 さっきまで騒々しかった男三人が総じてぽかーんとした顔でこっちを見てるよ…

 あれれ…


「見えてますか?」


 皆がこくこくと頷いた。


「聞こえてましたか?」


 皆がこくこくと頷いた。


 うわわっ!

 私が見えてた!

 しかも喋ってた!


「リリリリリリリリリリリリリアラララララララ!!」


 まるで壊れた目覚まし時計みたいな奇声を発してロウガ兄様が地面に突っ伏した。

 うん。

 びっくりしたよね。

 驚きすぎて卒倒しちゃうよね。


 私も絶賛びっくりしてるからさ、ちょっと分かる!

 何せ身体は生まれてこのかた此処までずうっと卒倒中なわけだしさ!

 って、それは違うか…


 私ってば、初めて人に向けて喋った言葉が「みんなもっと苦しめば良いのに」だったわけだよね!

 いくらなんでも心の声がだだ漏れ過ぎだよ!



残念ですが、次回からテンゴク視点に戻ります。

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