五日目、朝からバーベキュー
朝ご飯に追加された串料理。
アスパラを豚バラ肉で巻いたものと、玉ねぎやとうもろこしの焼き野菜。
そして焼き肉が!
朝食の並んだちゃぶ台から少し離れた場所に別のテーブルが置かれ、そこにバーベキュー料理がところ狭しと並べられている。
まさか食事っていう習慣のない異世界でバーベキューが食べれるなんて思わなかった。
朝ご飯にしてはボリュームが多いけど、うん、これは食べずにはいられないよ!
「本当は晩御飯用に親父と仕込んでたんだけどね。兆の旦那にかっさらわれちゃったんだよ。もう焼いちゃったのは仕方ないから食べちゃおっか」
なるほど、山吹さんと店長が仕込んでくれたようだ。
山吹さんが大好きなシュラちゃんのテンションもちょっと上がってるね。
晩御飯はいったいどうなるんだろう?
だけど食べずにはいられない。
なんだろ、異世界に居るとお腹は空かないけど、食べたら食べたでいつもよりいっぱい食べれるみたいだね。
でも、どれも父さんの出したミニ太陽で焼き上げたってあたりが正直どうなのって感じだけどね。
火加減ってなんだっけ?
お肉も野菜も同じようにミニ太陽の光線で攻撃してただけなのに、どれもこれもがきっちりと良い感じに焼き上がっている。
不思議だね。
シュラちゃんのバリアを一瞬で消しとばしたミニ太陽なのに、バリアよりバーベキューの方が丈夫なのかな?
「いやあ、やっぱり私は地球の方々にはついていける気がしないですよ」
串を頬張りながらシュラちゃんが愚痴を言い出した。
はふうってため息をついてるよ。
美味しそうに食べてるのに、合間にため息が入るせいでまるでやけ食いにも見える。
「そうかな?」
ぼくとしてはシュラちゃんの頑張りにこそ頭が下がる思いでいっぱいなんだけどね。
文化やら慣習の違いについてくるなんてそんな必要は何処にもないわけで、更に言うなら父さんが関係してることには関わったりしない方が良いに違いないとぼくは思う。
地球の食事にはすっかり馴染んでるみたいだし、それで十分なんじゃないかな。
そもそも仲間なんだから、ぼく達はお互いに歩調を寄せ合って行くのが良いに決まってるしね。
「はい。そうなんです」
だけど、そこは主観の問題だ。
例えば、ぼくという一人称視点の物語では見えない思いがシュラちゃんの中にはあるに違いない。
だから、ぼくは純粋にそれが聞いてみたくなった。
「どの辺が着いていけなさそう?」
ちゃんと知っとかないと、これからシュラちゃんに居心地悪い思いをさせちゃうかもしれないもんね。
「えっとですね。バトルが始まったのかと思っていたら、急にこのお料理が出来上がっていくところとか、どうしてこうなるのって考えていたんですけど、さっぱり分からないんです」
なるほど、それはぼくもどうかと思う。
でもそれで理不尽なまでに美味しいバーベキューが出来た。
地球人のというよりは、父さんのやることだからね。
父さんについていけないのはどうしようもない。
「それもですよ。私の『翼』がバリアごと消し飛ぶようなあんなすごい技をワドウキザシが使うのはしょうがないっていうか、何せワドウキザシなんですから当然のことだとは思うんですけど、それをテンゴクさんとジゴクちゃんが何とかしちゃったわけですよ。しかもわりと簡単そうにです。私の存在価値はあれでゆらいじゃったわけですよ」
ぼく達を守ろうとしてたのに、実際にはその必要がなく、逆にぼく達に守られてしまった今回のシュラちゃん。
ぼく達を守ると何度も繰り返して言っているシュラちゃんにとって、今回は逆に守られてしまったことで自身の存在価値が揺らいでしまったってことか。
「でもあれって、ぼくとジゴクのMPを全部使っちゃう技だからさ、何度も使えないし。しかもアビスちゃんとも以心伝心してようやくさっきみたいに上手く出来たんだよね。ぼく達はシュラちゃんみたいに一人じゃ戦えないしさ。あとさ、逃げてくださいって言って父さんの攻撃からぼく達を守ろうとした時のシュラちゃんは格好良かったよ。ありがとうね」
今回の相手は仮にも父さんなのだから、流石に殺意までは感じなかったっていうのも大きいよね。
もしも知らない人に襲われていたら、ぼくもあそこまで冷静にはいられなかっただろう。
「こちも兆様についての知識が多少なりともありました故、その言動をあまり真に受けないようにと努めておりましたが、そうでなければシュラちゃんのように勇敢ではいられなかったでしょう。つまり、シュラちゃんが格好良かったということです。いつもありがとう御座います」
ジゴクもぼくと同じ意見のようだ。
何度も以心伝心してるだけのことはあるね。
もっとも、あんなに怖がってた父さんに立ち向かえるシュラちゃんは本当に格好良いから当然ではあるけどさ。
「その通りだ。シュララバ・ラプトパよ。チテイジンの勇気ある者よ。お前は確かに立派だったぞ」
ロウガくんもシュラちゃんを褒める。
シュラちゃんもこれにはびっくりしてる。
だけどロウガくんの表情はちょっと暗いね。
椎茸の串焼きが気に食わなかったのかな?
だけどむしゃむしゃと食べてるんだよね。
「俺はあの強大な力を前に消されることを覚悟した。しかし、それは生きることを諦めたとも言えるだろう。ただ、恐怖で動くことすら出来なかったのだからな。なんとも情けないことだよ」
ふっと吐き捨てるように言うロウガくん。
異世界人の父さんに対する怖いっていう感覚がぼくには分からないけれど、まあ全面的に父さんが悪いに違いない。
恐怖で動けなくなったことを情けないと言い、俯きながら焼き椎茸を食べるロウガくん。
おっと、シュラちゃんの時と違ってフォローする言葉が浮かばない。
何せ父さんに睨まれて動けなかったことには違いないわけで、自称シスコンのロウガくんは妹さんと関係のあることならきっとさっきのシュラちゃんみたいに頑張っちゃうに違いないんだろうけど、そうじゃないときにへたれてたって別に……
あっ、そうだよね。
そうだった。
ロウガくんはシスコンなんだよ。
「ロウガくんもさ、さっき父さんに立ち向かってたのがシュラちゃんじゃなくて妹さんのリリアラちゃんだったらさ、もっと助けようとして頑張れたんじゃないかな?」
リリアラちゃんの名前を出した途端にロウガくんの表情が一変した。
へたれが般若に変貌したね。
「リリアラをあのような者に近付けてたまるか!」
勢いよく椎茸を噛み千切るロウガくん。
だけどそのロウガくんの後ろには父さんが居た。
「あのような者とは随分な言い様だな。いったいどういう者なのかしっかりと教えてくれないか?」
「ぐなぬっ!」
ちゃぶ台の方で朝食を食べていた父さんとアビスちゃん。
当然、今のロウガくんの台詞は父さんにも聞こえてしまったわけだ。
今は実際には妹さんもここにいないわけで、流石に狼狽してしまうロウガくん。
ぼくが焚き付けちゃった感じだね。
やっちゃった。
「朝食をちょっと取られたくらいで攻撃してくるような人のことだよ!」
言ってやったよ!
きいてないけど!
「ふん。俺が今回お前達の護衛をするのだぞ。あまり鬱陶しいことを言うようなら、俺はお前の妹など見捨てて帰っても良いということを忘れるな」
ああ、父さんが店長の代わりなんだよね。
この先の展開がちょっと不安になってきた。
「なんだと!? いや、それは心強い、のか…」
うんうん。
父さんがロウガくんの妹さんを助ける為に来たって言っても過言ではないもんね。
きっと過言なんだけど、まあロウガくんには関係ない部分に違いない。
うん。
「ならば非礼は詫びよう。リリアラのことをよろしく頼む」
真摯に謝るロウガくん。
まったく、妹さんのことになると振る舞いが格好良くなるね。
「気にするな。基本的にお前達で何とかしろ。さっきも言ったが手加減が苦手でな。里の奴らが俺を攻撃してきた場合、そいつらがどうなるかは保証しないぞ」
ああ、それって駄目なやつだよ!
絶対にやり過ぎなやつだ!
やっぱり店長の方が良かった!
「リリアラのためだ。仕方あるまい」
ロウガくんも!
ちょっとシスコンが過ぎてかなり危ない!




