1日目、それから何度も
それから何度も誘拐された。
逃げては拐われ、拐われては逃がされ、街の中を1日中追い回された。
壁の裏から、マンホールの中から、屋根の上から、池の中から、空の上から、神出鬼没に現れる父さんのせいで父さん恐怖症になりそうだ。
最後に電車に乗って逃げようとした時は、電車のドアが開いたら中に父さんが乗っていた。ぼくの行動を予知してるんじゃないかってくらいに動きを読まれていた。そこでぼくの心はぽっきりと折れた。
いや、本当は逃げられる気なんて最初からしてなかった。だって、家出でもしない限り父さんから逃げるのは不可能だ。誘拐犯が家族だったら逃げられっこない。
それでも、なんとなく捕まりたくなくて逃げてたけどもう嫌だ。っていうかまだ手足をロープでぐるぐる巻きにされてて動けないんだけど。
擦り傷やら疲労やらで身体中が痛い。捕まるたびに暴れてたので疲労こんぱいだ。
父さんが「良い一日だったな」と言う。「ふざけるな」とぼくは思った。
誘拐された後にうっかり喋ると、父さんが思い出したようにガムテープを口に貼ってくることを学習したぼく。いや、身に沁みたぼくは、今日はもう言い返さずに無言でいることにしたのだ。
父さんは昔からとんでもないことを唐突に始めることがあったけど、ぼくを今日ほど虐げてきたことはない。
そうだ。ぼくは虐げられた。これは虐待だ。「父さんに誘拐されました。」って然るべき場所で主張するべきだ。誰に言うべきかなって考えて、最初に浮かんだ顔が父さんだった。
それじゃあ意味がなさすぎる。それにしても疲れたな。そういや晩ご飯食べてないよね。ここってどこだろう。
とかっていう考えが頭のなかでぐるぐる回ってる。ぐるぐるぐるぐる…