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HEAVEN AND HELL  作者: despair
五日目
198/214

五日目、空飛ぶテントでシュラちゃんと



「テンゴクさーん、大変です!」


 ゆっさゆっさ


 ゆっさゆっさ


 寝袋が揺すられて、ぼくは目を覚ます。


「テンゴクさん! 大変ですよ! パニックが大混乱です!」


 ゆっさゆっさと心地良く揺れる寝袋。

 ぼくは確かに起きるつもりだったけど、これはもう少しくらい寝転んでいたくなる。


「うーん、あと5ゆさゆさで起きるからー」


 起きたい気持ちと、寝てたい気持ちの妥協点。


「もう、しょうがないですねー。絶対ですよ!」


 ゆっさゆっさ

 ゆっさゆっさ

 ゆさゆさ

 ゆさゆさ

 ゆっさゆさ


 うん。

 寝れそう。


「はい、起きて下さい。外は大変なんですから」


「うーん。おはよう」


 ぼくは仕方なく目を覚ます。

 ああ、シュラちゃんの『翼』で寝袋を掴み上げて揺らしてたみたいだね。

 そりゃあハンモックみたいで心地よかったわけだ。


「何かあったの?」

 テントの中に居るのはぼくとシュラちゃんだけだった。

 寝袋も二つだけ…

 あれ?


「はい。ご覧の通り、起きたらテントの中に居たのは私達二人だけだったんです」


 そう言いながら、シュラちゃんがテントの入り口を『翼』で開いた。


 外からオレンジの光が射し込んでくる。

 夜の暗闇は欠片もなくなっていた。

 そして、どこにも地面がなかった。


「って、テントが空を飛んでるよ!?」


 確かに、外が大変なことになっている。


「はい。テントが空を飛んでいるんです」


 ふわりじゃなくて、びゅーんって飛んでる感じ。

 だけど、風はそんなに感じないのが不思議だ。


「どうなってるの!?」

「どうなっているんでしょう?」


 シュラちゃんにも分からないようだ。

 そういえば、混乱してるって言ってたっけ……


「どうしよう?この状況って何が考えられると思う?」

「えっと、確認なんですけど、地球ではテントって空を飛ばないんですよね?」

「うん。飛ばないよ。」


 まずは地球と異世界の常識の確認から。

 これは最近のお約束になってきた。

 だけど、あんまり役立ったことはない気がする。


「テンゴクさん達が術を使ってテントを飛ばしたんじゃないんですよね?」


 ぼくは頷く。

「今まで寝てたからね。何もしてないよ」

「そうでした」

 シュラちゃんも頷き、ぼく達は頷き合ったってわけだ。


 空飛ぶテントの中で二人ぼっち

 物知りアビスちゃんも、我らがジゴク参謀もここには居ない。

 つまり、ぼくとシュラちゃんで今の状況をどうにかしないといけないわけだ。

 よし、とりあえず仲間を増やそう。


「うーんと、『天魔召喚:ヘル』」


 ぼくの召喚の術で空中にジゴクに似た女の子が現れる。

 デフォルメされた造形の、小さな身体に大きな頭、一目で人間ではないことが分かる。

 ぼくとジゴクの意識が繋がった時に生まれた一つの人格が、夢の世界で一人の天魔となった存在。

 それがヘルという女の子…


「このバカテンゴク!」


 現れるやいなや、ヘルがぺちっと蹴ってきた。

 相変わらずの乱暴者のようだ。

 そんなヘルをぼくは両手でやんわりと受け止める。


「どうしたの?」


 ヘルは何やら怒っているようだ。


「どうしたって、それはこっちの台詞よ! 碧様に消されてから一回も呼んでくれてないじゃないの! 凄く心配したんだからね。いったい、あれから何してたのよ!?」


 どうやら心配をかけてしまってたみたいだ。

 それは悪いことしちゃったね。


「あれから、ジゴクとアビスちゃんとぼくの三人で氷精の祠でデートしてたんだよ。そこでダンジョンが落ちちゃったけど、ぼく達は運よく『天盤』と『地盤』の間に居てさ、助かったんだよね。だから大丈夫だよ」


 心配しなくて良いよってぼくは伝えたつもりだった。

 だけど、ヘルはそうは受け取ってくれなかったみたいだ。


「何よそれ! デートだなんてズルい! どうして私を呼んでくれなかったの!?」


 うん。

 確かに呼んでも良かったかもしれない。

 でも、デートってそんな大人数でするものじゃないってイメージだったからなあ…


「よし、今度はヘルとちゃんとデートするからね」


 どうやらデートがしたかったらしいヘルを、ぼくは次回のデートに誘った。

 ぼくの人生で、人をデートに誘うなんてことがこんなにあるとはね。


「どうして私があんたとデートしなきゃいけないのよ!?」


 だけど、そこは素直に「うん」とは言えないのがヘルなわけで…

 いや、ぼくとのデートは本当に嫌なのかもしれないけど、ジゴクとのデートは絶対に嫌じゃないはずなのがヘルなんだよね。


 だから、ぼくは素直に理由を答えることにした。

 どうしてって聞かれんだし、これは答えて良いに決まってる。


「そりゃあさ、ヘルがさっき『デートだなんてズルい。どうして私を呼んでくれなかったの』って言ってたからだよ」

「ばっかじゃないの!? 私があんたに誘われてデートに行くわけないでしょ!? ちゃんとママに… ジゴクちゃんに誘って欲しいんだからね!」


 うんうん。

 1日を経てもヘルがヘルらしいままで良かった。


「えっと、この状況でも和気あいあいとデートのお話をされるのは流石だと思うのですが、そろそろ今の状況をどうにかしませんか?」


 おっと、そうだった。


「今の状況って何?」

「こちらです」


 シュラちゃんがテントの入り口をぴらっと開く。

 そこにはオレンジ色の空が流れている。


「何よこれ!?」


 信じられないものを見たと驚くヘル。

 うんうん。


「起きたらこんな状況だったんだよね。ぼくとシュラちゃんだけが空飛ぶテントの中に居たんだ」

「何よそれ!ママは無事なの!?」


 ヘルがジゴクのことをママと呼んでも訂正しないほどに狼狽えているようだ。


「うーん。ヘルならジゴクを召喚出来るから無事かどうかは確かめられるけど、だけど、逆にこっちの危険な状況に巻き込んじゃったら嫌なんだよね」


「そうね。確かにこんな危険な場所にママは呼べないわね…」

「あっ、もしも今テンゴクさんがどこかに召喚されてしまったら、私はここに一人ぼっちってことですか!?」


 ああ、確かにそれもそうだ。

 ぼくが居ないなら召喚の術で呼んでみようっていう発想はあり得るわけだ。

 ジゴクがそんなうっかりをするとも思えないけどね。


「もしもの時のために契約しとく?」


 昨日はしっかり者の撫子ちゃんの疑いが消えなくて、結局はシュラちゃんとも契約してなかったんだよね。


「そうですね。できればジゴクちゃんと契約したかったのですが、このさい仕方がありません」


 ヘルもそうだけど、シュラちゃんもジゴクのことが好きだよね。

 比べられてるようでぼくは少しだけショックかも。


「ふふん。テンゴクって人望ないんじゃない?」


 にやにや笑いながらぼくの顔の周りを飛び回るヘル。

 ずいぶんと嬉しそうだねまったく。


「あっ、違いますよ!ジゴクちゃんって 乱堂汕圖らんどうさんずに狙われているから、いつでもジゴクちゃんに呼んでもらえる方が安心かなっていうだけで、私にとってはテンゴクさんもジゴクちゃんと同じくらいに大切です! 仲間ですから! 守りたいです!」


 もう、こういうことを臆面もなく言えるのは異世界の人らしいね。

 自分はシスコンだと言い張って譲らないロウガくんも、きっと特殊というわけじゃないんだろう。

 ぼくは面と向かって言われるだけで照れてしまいそうだ。


「ありがとう。でも、ヘルが居るから『地霊契約』もできるよ」

 ヘルも『地術』が使えるから『地霊契約』をすることも可能だ。

「嫌よ。私だってママに無断で契約の術を使うなんてことしたくないもの。あんたはヘブンが勝手に色んな人と契約してても良いの?」


 ああ、それは嫌かも。

 自分を軽薄だというヘブンなら、とんでもないのと勝手に契約しちゃってそうだけど、それをぼくは笑って済ませそうだけど、それでもやっぱり嫌ではある。


「そういうわけですので、テンゴクさんよろしくお願いします」

 シュラちゃんが恭しく頭を垂れる。

「うん。シュラちゃんがここに取り残されたら困るもんね。よし、『天魔契約』!」


 ぼくが術を使うと、シュラちゃんのクリスタル型の名苻(みょうぶ)が現れた。

 シュラちゃんがそこに手をかざし、無事に契約が結ばれたようだ。


「ふふふっ、契約完了です。これでいつでも呼んでもらえますね」


 テントが空を飛んでいる今日、初めてにっこりと笑顔になったシュラちゃん。

 人にいつでも呼ばれるなんて迷惑な話だとぼくは思っちゃう方だけど、シュラちゃんにとっては嬉しいことだっていうのが少し不思議だ。


「さて、これからどうしようかな」


 いざとなったら安全な場所でヘブンとヘルに召喚してもらえば良いわけだし、どうにもならないって程の状況ではないようだ。

 そろそろ心を落ち着けて、少しは真面目に考えてみよう。



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