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HEAVEN AND HELL  作者: despair
4日目、夢編
197/214

4日目、HEAVEN&HELL


「お見合いごっこじゃと?」


 怪訝そうに聞いてくるアビスちゃん。

 どうして今、そんなことをするのかって思ってるんだよね。

 それももっともだと思う。


「うん。コドモちゃんって夢の中でしか出てこれないからさ、普段は色んなことを我慢していると思うんだよね」


 今日の朝、お姫様抱っこされた時にジゴクが嬉しかったことを知ってるって言ってたし、ジゴクのどこかでコドモちゃんの意識もあるのかもしれない。

 そうだとしたら、それは例えば小さな子どもがベッドの上でずっと身動きもとれず、窓の外の情景に思いを馳せるしかない状態なわけで……


「ぼく、コドモちゃんとは夢の中でしか遊んであげれないからさ、夢の中では一緒に遊んであげたいんだよね」


「てんごく! そういうところが大好きだよ! でもでも、こちが寂しかったの気付かれてたんだねー」


 どうやら、コドモちゃんは気付かれてないと思っていたようだ。

 そもそも、甘えん坊が寂しがり屋でない方が珍しいよとぼくは思ってる。

 それに、小さい子どもが周りに気を使っちゃうのって、ぼくは好きじゃないんだよね。


「ふむ。それもお主らしいがの。まあ良い、余もそのお見合いごっことやらに付き合うとしよう」


「アビスちゃんもするー?」

「うむ。余にもお見合いさせんと拗ねてやるのじゃ」


 アビスちゃんが拗ねたふうを装う。


「あー、アビスちゃんが子どもみたいだよー」

「見た目は余の方が真っ当に子どもらしいじゃろ?」

「えー、見た目は小さいけどね。こちみたいに喋る時はひらがないっぱいな感じじゃないと大人みたいだよー」

「ふむ。それは余のプライドがどうにも許さんのじゃよな。悔しいが、お主には見習うべき所も多い。遊び終わったらテンゴクへの自然な抱き付きを余にも教えて欲しいのじゃ」

「うん。いいよー!」


 ぼくの目の前で不穏な契約が交わされてしまった。


「アビスちゃんって私のこと嫌いなんだと思ってたけどテンゴクに抱っこしてほしいだけだったんだねー」

「何を言うのじゃ。だけではないからこうやってお主に出遅れてしまっているのじゃよ」

「ふーん。もっと素直になりなよー」


 コドモちゃんがぼくに近付いてくる。


「こうやって、ぎゅーってしたり、抱っこしてってお願いするだけだよー」


 ぼくに抱き付いてくるコドモちゃん。

 ううん、ぼくの眠りも深くなって来てるんだろうか、さっきよりは恥ずかしくなくなってきている。

 いや、みるちゃん先生の目がないからかな……


「あれ?そう言えば先生はどうしたの?」

「ああ、別の場所で勇者と魔王と戦っとるよ。あれも色々と思うところがあるらしい」


 勇者と魔王と戦うみるちゃん先生、ちょっと想像できない。


「ふうむ。それにしてもコドモ様は本当にテンゴクのことが大好きなので御座いますね」

「そうだよー! だって、こちはテンゴクに生んでもらったんだもん!」


 うん?


「コドモちゃんって、昨日の夜に急に出てきたような……」


 ぼくが何かしたっけ?


「もー! 昨日のこちはね、まだジゴクちゃんの中の幼い部分のこちだったんだよ。だけどね、テンゴクが言ってくれたんだよ。こち、その時の言葉をちゃんと覚えてるんだからね。えっと、『ジゴクちゃんの幼い部分が1人の人格として歩き出したんじゃないかな。ちゃんと精神ねんれいそーおーの、小さい子どもみたいな経験もさせてあげたいな。夢の中くらい素直になって良い』ってね!」


 ああ、色々と言ってしまってるぼくが昨日の夜には居たようだ!


「すっごく嬉しかったんだからね! こちが一人の人格になれたのってそれからなんだから!」


 なるほど、

 夢の中でぼくに認められたから、ジゴクの中の幼い部分がコドモちゃんっていう人格になれたってことか…

 いや、人格って本当にどこからが人格なのやら分からないね。

 でもまあ、ぼくの言葉で一人の人格になれたっていう意味で、ぼくがコドモちゃんを生んだ、っと……


 確かに、昨日の夢の中では今みたいにジゴクとコドモちゃんはそれぞれ一人の人間として別れてはいなかったっけ。


「『夢の中くらい素直で良い』とまで言ってしまっておったとはな。それでは存分に甘えられても文句は言えまい」


 うーん。

 夢の中の自分の発言にまで注意しきれないのは問題かもしれない。

 希薄な意識で変な約束しちゃったらどうしようね。


「じゃあ、いくよー!」


 コドモちゃんがぼくとジゴクの手を取って引っ張っていく。

 すると、コドモちゃんの前方に謎のゲートが現れて、ぼく達はそれに入り込んでしまった。


「ふむ。器用なものじゃな」

「えへへー」


 アビスちゃんが感心している。


 ゲートを抜けたその先は氷精の祠だった。

 コドモちゃんが夢の中にこの氷のダンジョンを再現したみたいだね。


「それじゃあ、さっそく結婚式をはじめまーす!」


 コドモちゃんが式の開始を宣言する。

「って、結婚式!?」

 お見合いごっこじゃなかったっけ?


「そうだよー。今の話で気付いちゃったんだけど、テンゴクとジゴクちゃんは以心伝心で結魂してて、ヘブンとかヘルとか、それにアビスちゃんもね! 子どもがいっぱいいるようなものみたいだし、お見合いはもう手遅れだよね!」


「なんと!然れども、結婚式は一生に一度の重大な儀式なのでは御座いませんか!?」


 そりゃそうだ!

 お見合いが手遅れだなんてそんな末期はなんて病気だ!


「ごっこじゃよ。結婚式ごっこなら大丈夫じゃろ?」

「そうだよー! 結婚式しようよ!」


 うーん。

 まあ、ごっこなら良いかな?

「ごっことはなんと素晴らしい発想なので御座いましょう!」

 ジゴクも感激してるしね。


 うーん、

 これはやるしかない、かな。

 夢の中でくらい素直で良いと言ってしまったぼくに、この展開に言い返す言葉はない。


「では、準備は余に任せるのじゃ」


 アビスちゃんがぼく達にふわりと光を投げ掛けてきた。

 その光を浴びると、ぼくの服装がタキシードに、ジゴクの服装がウエディングドレスになった。

 そしてコドモちゃんは牧師役みたい!


「わあ、ジゴクちゃんきれい! こちもあれ着たいよー!」


「今回のお主は牧師役じゃ。遊びとはいえ順番はある。役割はしかと果たすが良いのじゃ」

「むー、しょーがないなー。次はこちがドレス着るからねー」

「うむ。その次は余の番じゃ」


 どうやら、この遊びは一回で終わりではないようだ。


「あれ、コドモちゃんは牧師のやり方知ってるの?」

「あっ、この本に書いてるよ。 なんじやめるときもー すこやかなるときもー って!」

 服装とともにカンペもしっかりと渡されてたようだ。


「後はギャラリーじゃな」


 そう言うと、今度は壁の方へと光を投げかけるアビスちゃん。

 そして現れるたくさんの人達。

 夢の中だからって何でもありだね!


 現れたのは…


 撫子ちゃん、

 青磁くん、

 シュラちゃん、

 山吹さん、

 メルシエさん、

 エルピー、

 ロウガくん、

 マウプー、

 シェイプー、

 ヘブン、

 ヘル、

 天苔、

 地苔、

 トケイちゃん、

 ヒツジちゃん、

 理想のテンゴク


 本物じゃあ無さそうだけど、この旅を始めてから出会った人達が集まっている。


「改めて見ると、今日は出会いの多い日だったね」

「然り、本日もまた様々なことが御座いました」


 うん。

 今日は朝から、ぼくのクラスメイトの撫子ちゃんと青磁くんがラプトパの宿を訊ねてきて、担任教師のみるちゃん先生の異世界(イツ・ルヒ)での住まい、魔女の館に行ったんだよね。

 シュラちゃん、最初は凄い緊張してたっけ…


 そこで夢の世界に入って、闇天国(ダークテンゴク)闇地獄(ダークジゴク)ちゃんに出会った。

 二人とジゴクの意識から生まれた人格だったけど、『天魔契約』と『地霊契約』の術で天魔ヘルと地霊ヘブンとして独立した存在になったんだよね。

 そして、みるちゃん先生をキラキラの目で見つめてやっつけてっと……

 うん、あの屋敷と先生は怖かった。

 だけど、あの場所でシュラちゃんが撫子ちゃん達と仲良くなれたみたいで良かったね。


 その後は、マウプーとの約束と宿代を稼ぐ為に碧さんの所に行ったんだよね。

 そこで何故か捕まっていたアビスちゃんと仲間になって…

 あ、ここでもシュラちゃんが凄い緊張してたっけ…

 結局はジゴクとアビスちゃんの言い合いが煩くて、碧さんに追っ払われちゃったし…

 シュラちゃんには悪いことしちゃったね。


 そこから何故か三人でデートしようって話になって、氷精の祠に出掛けたんだよね。

 うん、氷精の祠の中でも色々あったっけ…

 一番は、デートの甲斐あってアビスちゃんが『天地魔霊』になったことかな。

 あれでアビスちゃんの何やらがどうにかなって…

 ああ、結局は秘密もまだあるみたいだけど、隠し事はなくなったって感じだね。

 情報を小出しにしてくるけど、それはきっとぼく達のことを慮ってるからでもあるんだろう。

 そういえば、氷精の祠ではシュラちゃんが活き活きしてたっけ、ぼく達のデートって聞いて一番テンションが上がってたのもシュラちゃんだったかも…


 そして、あれやこれやでダンジョンが落ちちゃったんだよね。

 山吹さんが颯爽とやってきてご飯を食べて、そこから異世界(イツ・ルヒ)の地上に出たんだけど、いきなりロウガくんが襲ってきた。

 でも、ロウガくんはとても妹思いのお兄ちゃんだったみたいで、その妹を助けるからっていう条件で仲間になってくれたんだよね。

 明日はロウガくんの妹のリリアラちゃんをぼく達が助けるって話だし、これは責任重大だ。


「あー、テンゴクとジゴクちゃんが二人の世界にいっちゃったよー」


 ぼく達の回想をコドモちゃんが吹き飛ばす。

 そうそう、今日の最後は夢の中で勇者くんと魔王ちゃんにぼこぼこにされたのと、コドモちゃんと仲良く遊んだこと、になりそうだね。


「ああ、ごめん。色々と思い出しててさ」

「然り、本日の思い出を回想していたので御座います」


「もう、二人でずっと見つめあってたよ。本当は見とれてたんでしょー?」


 うん、

 確かに、ぼくはドレスを纏ったジゴクを綺麗だと思ってて、

 ジゴクはタキシードを着てるぼくを格好いいと思ってるのは心から伝わってきてる。

 見とれてないとは言えないね。


 それにしても、参列者の半分近くがぼくとジゴクと同じ顔だけど、

 眼が合うとそれぞれに「結婚おめでとう!」って言ってくる。


「まあ、流石にほとんど本物ではないのでな、動きはワンパターンじゃよ」


 これはシュールだった。

 トケイちゃんとヒツジちゃん。

 天苔と地苔。

 そして理想のテンゴクは本物らしくそれぞれの決め台詞的なのを言ってくるけど…

 あれ、理想のテンゴクって人格になっちゃったのかな……


「それじゃあ始めるよ! テンゴクとジゴクちゃんはこっち立って!」


 ぼく達は牧師の格好のコドモちゃんの前に立つ

 夢の中とはいえ、大がかりな結婚式ごっこの始まりだ。


「テンゴクはー やめるときもー すこやかなるときもー」


 コドモちゃんが子どもっぽい口調で牧師ごっこを始め…


 そして、ぼくの意識は最高に微睡んでいった………





微睡みの中で結婚式ごっこは続くようですが、次回から五日目です。

4日目を書いてる間にリアル時間で一年経ってるとか………

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