4日目、シュラちゃんvsロウガくん
ジゴクのドラゴンがロウガくんのスキルで出した炎を全部食べてしまった。
その後も、ロウガくんがダークフレイムスラッシュやら、ダークフレイムクラッシュやらを使ってきたけれど、どの技もジゴクのドラゴンにとっては大好物のようらしい。
「なんなんだこいつは!?」
あっちにいけと追い払おうとしているけれど、ドラゴンはよっぽど炎の味を気に入ったのかロウガくんにべったりだ。
「この度は上質の炎をご馳走いただき実にありがとう御座います。されど、なんなんだこいつはとは言われましても、このドラゴンにはまだ名前が御座いません。仮にジゴクのドラゴンとでもお呼び下さいませ」
ジゴクが深々とお辞儀をする。
「なんだと!? これがドラゴンなのか!? しかもドラゴンを飼い慣らしているだと!?お前達は一体…」
「ぷしゃっ」
じろじろと見てないでご飯をちょうだいとばかりに、ジゴクのドラゴンが火を吐いた。
「くっ、何にしても敵ということだな!」
ロウガくんがジゴクのドラゴンに応戦する。
だけどレベル75のロウガくんを餌としか見てないようで、軽くあしらいながらも炎が出たらはむはむするジゴクのドラゴン。
それにしても、あの子は他人の火を食べるのに、自分の火はぷしゃぷしゃと気前良く吐き出してるよね。
それって自給自足に切り替えたりはできないのかな?
同じ火でも成分が違うんだろうか?
人間が酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すみたいな感じかな。
ドラゴン達はどうやら召喚したぼく達よりは強そうだね。
ロウガくんはドラゴンを飼い慣らしてるって言って驚いていたけど、さっき召喚したばかりだから、飼い慣らしているというよりは元々賢くて人懐っこい子達だっただけなんだけどさ。
なついてくれてるのだってきっと術の力だ。
ぼく達自身の力ってわけじゃない。
驚かれても素直に自慢はできないよね。
そういう意味では、自分の魂の力で術を使えるシュラちゃんやロウガくんの方がどう考えても凄い。
ダークフレイムなんとかーって技をぼくも出してみたいよ。
ロウガくんみたいにジゴクのドラゴンとも仲良く遊べそうだしね。
おっと、ロウガくんが全身にまとってたマントを脱いでるね。
茜色の髪の毛がオレンジ色の空の下で鮮やかに踊っている。
本気モードに入ったんだろうか?
だけど、戦ってるはずなのにぼくからはジゴクのドラゴンと遊んでるようにしか見えないけど、
「うーむ。そろそろ本題に入らせてもらっても良いかのう?」
「あっ、何かあるんだったね。でも、ロウガくんの方がこっちの話を聞いてくれるか分からないけど…」
地面に突き刺されても元気な人に大人しくしてもらうのって、少々骨が折れそうだ。
「そうじゃな。よし、シュララバよ。お主のスキルであやつを攻撃してみるが良い。それであやつも分かるはずじゃよ」
「私の、ですか?レベル75の人に通用するとは思えませんよ?」
「よい。できるだけ派手な大技で頼むのじゃ」
シュラちゃんの攻撃ってバリア系だよね。
バリアで攻撃することに意味があるんだろうか。
「私の技って、そんなに派手なのはないんですけど… バリアとブロウとどっちが良いでしょうね」
派手な技を要望されてシュラちゃんが戸惑っている。
「あっ、派手な技かは分からないんだけど、マウプーの加護の効果がシュラちゃんに丁度良いかも」
まだ覚えてないスキルでも1日に1回だけ使えるマウプーの加護はぼくとジゴクにはもう不要だけど、シュラちゃんにこそ必要な感じだよね。
「マウプーの加護って、このアクロアイトって呼ばれていた腕輪ですよね?」
透明な宝石のあしらわれた腕輪を掲げるシュラちゃん。
オレンジ色の空の光の中で煌めいていて、やっぱり本物の宝石みたいだ。
「そうそれ、ぼくと契約してからのマウプーの加護ってさ、まだ覚えてないスキルでも1日1回だけ使えるっていう効果になってるみたいだよ。シュラちゃんもまだ覚えてない凄い技が使えるんじゃないかな?」
「本当ですか!? それじゃあひょっとして…、ああっ、確かに使えそうです!」
使えそうか意識を自分の内側に向けるだけで分かるのも、やっぱり自分の魂を持っているからなんだろうか。
第六感というか、魂感みたいなのが異世界の人達にはあるのかもしれない。
「へえー。マウプーの加護ってそんなに凄い効果だったんだね。シュラちゃんが高レベルのスキルまで使えちゃったらかなり強くなるんじゃない?」
山吹さんの何気ない一言。
だけどそれが、シュラちゃんにとってはもっとも嬉しい言葉なわけで…
「はいっ! ヤマブキ様も見ていて下さい! 『盾鎧武闘』のとびっきりのスキルを使います!」
うん。
シュラちゃんがとっても張り切っている。
山吹さんに良いとこ見せるチャンスだもんね。
「いきますよ! ロウガ・フォルトリア!」
威勢良く宣言するシュラちゃん。
うーん。
格好良い。
ぼく達の冒険が物語になったら、きっと主役はシュラちゃんだろう。
「ぬ、このドラゴンだけでも厳しいとはいえ、お前はどうみても雑魚だろう! あんまり俺を舐めるなよ!」
ロウガくんも威勢良くシュラちゃんに向き直る。
「ぷしゃっ」
ジゴクのドラゴンだけがつまらなそうに、餌はもうないの?といった様子で虚空に向かって炎を吐いた。
「舐めるなよってそれはこっちの台詞です!たったのレベル75くらいじゃ、ちっとも怖くありません!」
シュラちゃんが四枚の『翼』を展開する。
いつもと同じ、鳥の足のようにも見える真っ白な『翼』
だけど、それを見ただけでロウガくんが目を見張ったのが分かった。
「なんだと!」
驚いてるよね?
シュラちゃんの『盾鎧武闘』って、けっこう珍しいのかな?
「もう!『無属性』だからって驚くのは失礼ですよ! そして、本当に驚くのはこれからです!『盾鎧武闘』の奥義!」
シュラちゃんが『翼』を自身の前方に展開する。
「『絶対堅固の守護天使』!」
四枚の翼が光ったかと思うとそれぞれ変形したよ!
スマートなフォルムで高機動で空を飛び回るタイプの戦闘ロボみたいな感じ!
大きさは元の『翼』と同じくらいで、色も真っ白のままだけど、とっても格好良い!
「凄いよシュラちゃん!」
ぼくは興奮した。
「ありがとうございます! ヤマブキ様はどうですか!?」
だけどシュラちゃんはぼくよりも山吹さんに褒められたいようだ。
そりゃあそうなんだろうけど、ちょっとだけ悲しくて興奮が少し冷めた。
いや、でも格好良いのは間違いないよ。
「うん。良い感じだよ! だけど戦闘中に余所見は良くないね!」
「はいっ! ありがとうございます!」
確かに戦闘中だったね。
気が散るような会話は仲間の足を引っ張りかねないことだったよ。
ぼくも注意しよう!
だけど、とうの戦闘相手のロウガくんが誰よりもうろたえていた。
「なんだと… お前は一体何者なんだ…!?」
「戦闘中に余計な考えはダメですよ! 高機動『翼デバイス』展開!」
四体の『翼』が空中を飛び回る。
飛び回ってる!
いつものシュラちゃんの『翼』は動きが少なかった分、余計に凄いって思えるよ!
「『純化障壁』!」
シュラちゃんがスキルを使った。
高機動になった『翼』がバリアをまとったよ!
バリアが張られたままで飛び回り、ロウガくんへと突撃する!
「さらに、『純化風撃』!」
おおっ、突撃しながら衝撃波を放つロボ!
格好良い!
もちろん全弾命中したよ!
「ちいっ!」
再び飛び回るロボを鬱陶しそうに見るロウガくん。
そんなにダメージなさそうだよ!
「レベル差があると流石に倒せませんか… だけどまだまだ!」
変わらず戦闘体勢のシュラちゃん。
だけどロウガくんは両手をかかげた。
「降参する!」
おっと、ロウガくんが急な降参宣言だよ!
「へっ?降参ですか? いえ、良いんですけど…」
おっと、シュラちゃんがちょっと残念そうだよ!
何故か新キャラとの戦いになることが多いシュラちゃんです。




