2日目、異世界さんぽ
穴の中は地上と同じで、どこまでも砂ばかりの殺風景な場所だった。
地下なのに、照明もないのに明るくて変な感じ。
って、地下なのにどこまでも砂ばかりって、果てが見えないって、おかしいよね。普通なら崩れるよ、絶対。
いや、崩れたら困るけどさ…
リフトの近くには扉が一枚だけあって、でも壁はない。どこかに通じてそうな意味ありげな扉だった。
案の定というか、山吹さんはその扉を開くので、ぼくたちは扉をくぐった。
すると景色が一変した。
闇が広がり、木々がざわめき、ちょうちんがいくつも灯って通路や建物を照らしている。
所々に鳥居まであって、ちょうちんの灯りの中で映えていた。
日本の、夜の神社という感じだった。
「異世界なのに純和風なんですね」
そうぼくが言うと「ここの管理者は日本人なんだよ」と山吹さんは教えてくれた。
「二人とも、ここには何度か来るだろうし、道を覚えておくんだよ」
そう言って山吹さんは、近くにある三つならんだ提灯の、その真ん中をぐいっと引っ張った。
すると、少し離れた暗闇の中にちょうちんがいくつか灯り、闇の中から大きな社が現れた。
「まず、あの建物は罠だから行っちゃ駄目だよ」
えっ!あそこに行くと完全に思ったよ!
「あいつは性格が悪いからね。見えてるものは全てが罠だと思っといた方が良いくらいだよ」
触るな危険と言いながら、山吹さんは大きな社に背を向けて、暗闇の中へと足を踏み出した。
すると、山吹さんの足取りに合わせるように石の灯籠が順番に灯っていく。
あ、映画か何かでこういうシーンを見たことあるよ。
「十二番目と十三番目の灯籠の間を左に曲がって入るんだ。その先が本当の入り口だよ」
いち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ、と数えながらぼくたちは行く。
そして十三番目の灯籠に灯りがついて、ぼくたちは左手の方向に曲がる。
「ぼっ」と音がして、ぼくたちの行く手の方に青白い人魂が現れた。
いや、火の玉、かな。お化けじゃないと思いたい。
「気にせず歩くよ。今度は六つ目の人魂が出るまでね」
人魂でした!
いや、ただの呼び方だけで、本物じゃないかもしれないよね!
「えっと、これって人の魂なんですか…?」
本物だったら怖すぎるけど…
「ん? あぁ、ただの言葉の綾ってやつさ。これは本物じゃないよ」
山吹さんの言葉にほっとしてしまう。あやって言葉の意味は分からなかったけど、本物じゃないなら良いんです。
だけど、続けて山吹さんはこう言った。
「この世界には、本物もいるけどね」
いたずらっ子みたいな顔で笑う山吹さん。
あぁ… 異世界ですもんね… 居てもおかしくないですよね… 幽霊くらい…
女の子はやっぱり平然としているので、怖がりなのはぼくだけのようだった。
あれ?
左手にヒヤリとした柔らかい感触があることに気付く。
いつの間にか、ぼくは女の子と手を繋いで歩いていた。
多分、これはきっとはぐれないようにって無意識で繋いだだけで、怖いからじゃないからね!
暗いからだよ!
だけど、人との繋がりがあると思うと安心するよね。
気付いてしまうと少し恥ずかしかったけど、ぼくはこの手を離すことができなかった。
でも、はぐれないように、だからね!
ぼくが自分の心に言い訳をしていると、女の子がこっちを見てにこりと笑った。
「手を繋いでいると安心するものですね」
そう、穏やかな口調で言う。
「そ、そうだね!」
ぼくは穏やかでない口調で返事をする。
だめだこれ。学校の友達に見られたらカップルとか言って茶化されるやつだ。
なんだかほっぺが熱くなってきた。
だけど、手は離せなかった。
でも、おばけが怖いからじゃないからね!




