4日目、招星
「『招星』で御座います」
ジゴクが『招星』の術で『地球儀』を動かして、ぼく達の乗っている『地盤』の近くまで運んできてくれた。
これに乗って降りようっていう算段だ。
だけど、『天球儀』と『地球儀』が離れてしまったせいか、『天球儀』の中に詰まっていた回復ポイントの光が溢れてしまった。
すぐには消えそうにないけど、今はこの緑色の光が唯一の光源なんだよね。
完全に消えちゃう前にダンジョンから脱出したい。
「ぷしゃっ」
『地球儀』の球体の上に、いつの間にか『地盤』の上から移動していたらしいジゴクのドラゴンが乗っていた。
こっちにいたと思ってたのにあっちからやってくる不思議生物は相も変わらずぷしゃっと火を吐いていた。
「此方に乗って降りましょう」
「うん。どうせだし、ぼくも『天球儀』を呼んどこう。『招星』!」
ぼくが『招星』の術で『天球儀』を呼び寄せる。
うっすら透けている白い巨大な球体が、自分の方を目掛けてすすっと真っ直ぐ飛んで来る。
自分で呼び寄せてるのにちょっと怖くて一瞬止めてしまったけど、その後にちゃんと『地球儀』の所まで運んでこれた。
『天球儀』と『地球儀』が再びセットになったよ。
「あの『天球儀』の膜の中に入ったら、その中の『地球儀』の方に引っ張られるから、落ちる心配はないけど重力の向きの変化に注意してね」
注意点を説明してから、ぼくは『天球儀』へと飛び移る。
ぴょんっと飛んで、べたんと落ちた。
足で着地できずに、うつ伏せ状態で『地球儀』に貼り付くみたいに落ちたぼく。
壁に貼り付く雨蛙になった気分。
ちょっと格好悪いけど、すぐに立ち上がったし、外からははっきりとは見えないはずだしセーフだよね。
「ひゅーるるるっ」
「ぷしゃっ」
おっと、二匹のドラゴン達にばっちり見られていたようだ。
まあいいんだけどさ。
次にジゴクがぴょんと飛んで落ちて来た。
ぼくはちゃんと受け止めて、ジゴクを地面、いや『地球儀』の上に降ろしてあげる。
「ありがとう御座います」
「うん、ちゃんと受け止めれて良かったよ」
次にシュラちゃんが飛んで来た。
うん。
自身の前方に『翼』を出して一旦それに掴まって、重力の方向を確認してからしっかりと足から着地してきたよ。
「これ、少し楽しいですね」
「流石に着地が上手だね」
前衛職って言うだけあって、やっぱり運動神経や勘が良いみたいだ。
その次にアビスちゃん。
身体ひとつで空も飛べるんじゃないかってくらいに華麗に身を翻して着地を決めた。
「やはり、『闘士』のジョブ魂が二つもあればな。急な重力の変化に適応することも無理ではないようじゃ」
「ジョブ名は『闘神』とかにしても良いかもね」
「ふむ。『天地魔霊』で『闘神』とは、些か大袈裟な感もあるがの。採用しておこう」
山吹さんはジョブ魂なしで重力の変化を楽しんでたんだけどね。
そういえば、山吹さんのレベルはマウプーに聞くと分かるって言ってたっけ…
最後に、ちょっぴり巨大化したマウプーに乗って青磁くんが降りてきた。
あ、その手があったね!
ちゃんと氷精も抱えてきてくれてるし、
「テンゴクくーん。マウプーを使わせてもらったけど良かったかな?」
「ああ、うん。マウプーも嬉しそうだし、全然大丈夫だよ」
「やっほっほーい! マスターの意向を察して自ずと行動に移す。良くできる天魔とはこのリプシー・マウレイのことに違いないよ! こんな素晴らしい使い魔のマスターになれるなんて、テンゴクくんってば果報者だね!」
その自画自賛がなければもっと良いんだけどね。
うん。
何かと助かってはいるんだけどさ。
それにしても、マウプーと青磁くんの、ぼくの呼び方が同じっていう…
さて、『招星』の術はまだ有効みたいで少し念じるだけでぼく達を地面の方まで運んでくれた。
地面と言ってもダンジョンが傾いてるから、ここは元は壁だったんだけどね。
それにしても、『地球儀』の上に乗ったまま移動したんだけど、術の効果で『地球儀』がある足元の方向に常に重力がかかってるから落っこちる心配はなさそうだった。
遊園地で身長制限のかかってるアトラクションみたいな怖い感じは一切ない。
目を瞑ってたら移動してるって気付けないくらいの安定感。
何にしたって静かに移動出来るのは便利だね。
「よっと…、これは小さい地球みたいな術なのね。回復の光とダンジョンの水滴もここに集まってきてるし、熱帯魚とか育てるのに良いかもね」
撫子ちゃんの居る床の方に行こうとしてたのに、逆にこっちに撫子ちゃんが乗り込んできたよ。
でも、空中にぷっかりと浮かぶ球体の中に、色とりどりの熱帯魚が游いでたら確かに綺麗かも…
地球の海で術を使えたらやってみたいね。
「それで、ダンジョンの非常口ってどこにあるの?」
ぼくはダンジョンの非常口担当らしいマウプーに聞いてみる。
「はははのはっはーん。テンゴクくーん、とっても大きな勘違いしてるみたいだねー。このリプシー・マウレイはダンジョンの緊急脱出ゲート用のマナを管理しているだけなんだよー? 実際のゲートの場所とかはさ、そこで固まってるダンジョンマスターのシェイプーに聞いてくれないとね! リプシー・マウレイにはさっぱり分からないのさ!」
態度は大きくて自信満々なのに、肝心なとこで…
「このクリオネもどき、役立たずなんじゃないの?」
ああっ!
撫子ちゃんが思ってることをそのままズバッといっちゃった!
「ななっ! ななななばなななっ!ばなーなっ! ちょーっと待ってよ、ナデシコちゃーん! このリプシー・マウレイがいかに役に立つ素晴らしい精霊改め天魔なのかってこと、今すぐテンゴクくんが説明してくれるからさ!」
うん?
ぼくが説明するの?
ふよふよとマウプーがぼくの方に飛んでくる。
「さささささっ! お願いマスター! 今までのリプシー・マウレイの大活躍を説明してあげて! あることないこと言っちゃってー!」
「いや、あることないこと言ったりはしないけどね。マウプーは空飛べたり、身体を大きくしたりできるから役に立つよ。言動が軽すぎて自分本意でどうしようもないとこあるけど、少なくとも悪意はないと思うし…」
「わー! テンゴクくーん! さすがマイマスター! 絶対的な擁護力! 理想の保護者、ここにあれっ!」
うん。
上司をヨイショしまくる部下をやらせたらマウプーの右に出る者はそう居ないかもしれない。
「何にしても、今ここで役に立つのはそっちの雪うさぎもどきの方なんでしょ? なんとか起こせないの?」
うん。
もっともだ。
ちょっとドライだけどもっともだったよ。
よーっし、ここがお役立ちポイントだよマウプー。
「元精霊のマウプーは良い起こし方知らない?」
うん。
精霊のことは元精霊に聞いてみよう。
「うーん。そのうち起きてくるんじゃないかなー?」
うん。
普通の答えだった。
ぼくは試しに、氷精のひんやりとした柔らかな氷のほっぺをぷにぷにしてみる。
それでも起きて来なかった。
うーん…
氷の雪うさぎさん…
おとなしいと可愛い…
「ふふん。出るだけならもう少し待っておれば良いのじゃよ」
おっと、アビスちゃんが自信ありそうに宣言したよ。
「何かあるの?」
「うむ。ダンジョンが落ちるほどの非常事態なら、それはヤマブキの出番というわけじゃ。そのうち壁をぶち破って入ってくるであろうよ」
ああ、ヤマブキさんが来てくれるんだね。
それなら安心だ。
「やった! ヤマブキ様が助けに来てくれるんですね!」
おおっと、シュラちゃんが大喜びだよ!
シュラちゃん、さっきから少し元気がなかった気がするから山吹さんが来てくれるなら安心だね。




