4日目、けっこん
氷のダンジョンがとけそうだよ!
「いや、慌てる必要はない。私の制御を離れたからといってすぐにダンジョンが崩壊するわけではないのだよ」
ああ、しばらくは大丈夫なんだね。
ダンジョンから脱出するまでは大丈夫そうかな?
「慌てる必要がないからと、のんびり話しておるのも間抜けじゃろう。服が濡れてしまうのじゃよ」
ああ、そりゃあ大変だね。
風邪ひいたら困るよ。
「然らば、シュラちゃんとナデシコチャンと合流した後、直ちに脱出致しましょう」
ああ、仲間と合流しないとね。
撫子ちゃんは要領良さそうだし、心配はいらないだろうけど…
「おーいっ! テンゴクーっ!」
噂をすればなんとやら、撫子ちゃんが滑ってきた。
って!
氷の床をもの凄い速さで滑ってきたよ!
「氷が滑ってめっちゃ楽しぃぃぃぃぃぃぃ…」
ああっ!
もの凄い速さで滑って通り過ぎて行ったよ!
どこ行っちゃうの!?
下への階段まで滑ってっちゃったよ!?
ちょっと山吹さんみたいだよ!?
「ふむ。ダンジョンの床が滑るのを楽しむ、とはな。そういう環境もダンジョンとして面白いのか…」
何やら氷精さんが今後のダンジョン運営について考え出したよ。
仕事熱心だね。
マウプーとは違って真面目な精霊なのかな?
「テンゴクさーん! ジゴクちゃーん! 助けて下さーいっ!」
撫子ちゃんにやや遅れてシュラちゃんも床を滑ってやって来た。
撫子ちゃんと違って氷の床をおっかなそうにぷるぷると震えながら滑ってるよ!
だけど、自分の能力の『翼』に掴まりながら滑ってるからまだ大丈夫そうだ。
「それじゃあ、『創天』!」
「然らば、『造地』!」
ぼく達はシュラちゃんの前方の天井付近に『創天』の術で『天盤』を出して、床の近くに『造地』の術で『地盤』を出した。
辺りに回復の光が満ちているせいか、術を使ってもMPが減ってないね。
「はーっ… 助かりました。急に床が滑り出すなんてもう信じられませんよ。敵が出なくて良かったですけど、私はお姉ちゃんみたいに上手く動けなくて…。それにしても、いったい何があったんですか?」
シュラちゃんが円盤に掴まって一休みする。
滑る床って慣れてないと怖いよね。
「ふむ。トラップとしても面白そうだな…」
氷精さんは真面目。
うん。間違いないね。
「ダンジョンが機能停止したので御座います」
「へっ!? 機能停止って、メンテナンスですか? これ、回復ポイントが暴走でもしたんですかね?」
未だに辺りに充満している緑の光。
それが集まって大きな塊になっている『天球儀』と『地球儀』の方を見ながらシュラちゃんが言う。
「だいたい当たってるよ」
ダンジョンマスターの氷精がフリーズしてる間に、回復ポイントのクリスタルを暴走させてしまった、とは言いにくいけどね。
よし。
ぼくはドラゴンに掴まって移動しよう。
丁度、空を飛ぶドラゴンで良かった。
「こっ… こちも掴まらせていただきます!」
ジゴクの呼び出したドラゴンは飛べないからね。
いつの間にか『地盤』の方に移動して、ちょっと寂しそうに「ぷしゃっ」って火を吐いてるけど、氷の床に出ようとはしないね。
火を吐いてるくらいだし、氷がちょっと苦手なのかな?
「あれ、この子は一体… 新しい術って召喚の術だったんですか?」
「うん! ぼくの召喚したのがこっちの飛んでる方で、ジゴクが召喚したのがそっちの火を吐いてるドラゴンだよ」
ジゴクとぼくがドラゴンに掴まって円盤の方まで移動する。
ウロボロスってドラゴンに進化する種族なんだっけ…
名前は何が良いだろね。
うん。
氷の床はとっても滑った。
しばらくは円盤の上に乗っておこう。
どこでも足場が出せる能力ってこういう時は本当に便利だね。
「アビスちゃんもドラゴンに掴まってこっちにおいでよ」
ドラゴンがアビスちゃんの方に飛んでいく。
このドラゴンってぼくがやって欲しいことをちゃんと理解して行動してくれてるみたいだよ。
特に指示してないのに自分の意思で行動してくれたよ。
そうだ。
本当に生きてるドラゴンなら、ちゃんと面倒みないといけないよね?
召喚した責任っていうのがあるような気がする。
「よい。今の余であれば、っと…」
ドラゴンに向かって断りを入れて、ふわりと、アビスちゃんが舞い上がった。
こっちに向かってジャンプしただけなのに、あまりにも鮮やかな動きだ。
そして、空中で体をひねり、くるくると回転したかと思うと今度はすたりと着地した。
体操選手みたいだよ!
しかも、ツルツル滑る氷の地面で今の動きは凄いよね!
アビスちゃんの運動神経が、こんなに良いとは知らなかった。
「ふむ。今の余には『闘士』のジョブ魂が二つも入っているのじゃ。そして、元より知識だけはあるのでな。それを使えば、この程度の身のこなしは雑作もないことなのじゃよ」
そっか!
ぼくとジゴクの『闘士』のジョブ魂がアビスちゃんの中で合体してたんだよね。
マスター闘士とか、闘士・改とかって名前の職業になるんだろうか?
「なんだそれは!? ゴーレム幼女の中にジョブ魂が二つだと!? さっきのあれが成功したということなのか!?」
おっと、氷の精霊さんが驚いてるね。
氷精はアビスちゃんのことをゴーレム幼女って呼んでるみたいだ。
面白い呼び方だね。
なんにしても、ぼく達もけっこう頑張ったからね。精霊を驚かせるくらいの成果を出せて嬉しいかな。
「ひゃあー! とうとうですか! とうとう、テンゴクさんとジゴクちゃんの魂がアビスちゃんの中でけっこんしちゃったんですか!?」
「えっ!? 結婚してないよ!?」
シュラちゃんが何やらもの凄い勘違いをしている!
物凄く興奮した様子だ!
ぼくは全力で否定するよ!
「なんと! 結婚とはもしや、ラブラブカップルが至る先に待つと云う究極の儀式のことで御座いましょうか!?」
ちょっと!
ジゴクの結婚観が凄いよ!
大きく間違ってはない気がするけど、大きく間違っている気もする!
「そうですよ! そのけっこんですよ!」
そんな!?
シュラちゃんが全力で肯定したよ!
結婚が究極の儀式って、異世界では一般的なイメージなの!?
「ふふっ。異世界では魂を結ぶと書いて『結魂』と呼ぶのじゃよ。地球でいえば婚姻届を出すことに当たるのじゃ」
「へっ? それをしちゃったってこと?」
確かに、アビスちゃんの中でジョブ魂は合体しちゃってるもんね。
魂が結ばれたって言えなくもない。
いや、どちらかと言えば結ばれてしまっているよ!
「否じゃ。実際の『結魂』とは、今では自身のパートナーの魂を『名苻』に登録することで夫婦として登録することを指すのじゃよ。魂を合わせるなど本来は不可能なのじゃ。魂が結ばれるという言葉だけがシュララバという少女の中で一人歩きをして、今回のジョブ魂合体を『結魂』だと思い込んだ次第じゃな」
「ああっ! じゃあ、まだ『結魂』もしてなかったんだよね!?」
ぼくは何故かほっとする。
別にジゴクと結婚するって考えても心底嫌では全然ないのに、無性に慌てて否定したくなる魔力が『けっこん』という言葉にはあるんだろう。
うん。
小学生が結婚だなんて法律でも認めてないんだから、言ってみれば犯罪だもんね!
「無論じゃよ。とはいえ、二つの魂の性質が混ざって生まれた者を、異世界では子と呼ぶんじゃよ。確かに『結魂』はしておらんのじゃが、テンゴクとジゴクのジョブ魂を宿す今の余は、言ってみればお主らの子どもじゃな」
もう!
それじゃあ、ジョブ魂が合体出来るなら年上だって子どもになっちゃうよね!
「パパ、ママと呼ぶべきかの?」
アビスちゃんが良い顔で笑ってるよ!
流石にそれは呼ばれたくない!
ヘルだけで十分だよね!
「今まで通りでお願いします!」
デートで結婚の話をする。
今回はとっても自然な展開でした。
さて、色々あった4日目もそろそろ終盤に入ります。




