氷精の祠のシェープル・リリーム その4
前回に続いて氷精視点。
少しの休憩を終えて、デート組の三人だけが二階の最初の部屋に留まっていた。
どうやら、先ほど覚えた技を試すようだ。
地球人の高レベルスキルの効果は私も気になる。
しばし観察してみよう。
『よっし、それじゃあ早速『天龍』と『地龍』を使ってみようかな』
『消費MPを節約するなら当然で御座いますね』
ふむふむ。
『天龍』と『地龍』か。
それは一体なんという職業の技なのだろうな。
そして『天龍』が発動した…
ようなのだが、何の効果も現れてはいなかった。
たまにある残念なスキルの一つなのか?
『何か条件があるのじゃろうな。術の説明はなんとなっておる?』
『ああ、確か『天を結ぶ龍』だったかな』
『こちも『地龍』の術は『地を結ぶ龍』との説明が御座います』
『うん。同じだね』
なんだと?
テンゴクの術が『天龍』で『天を結ぶ龍』で
ジゴクの術が『地龍』で『地を結ぶ龍』だということなのか?
相性が良いだけあって、使うスキルの内容まで似ているということか?
『では試しに、『地化』『造地』『地球儀』』
今度はジゴクが術を発動させたようだ。
随分と名前に『地』のつく術ばかり使うのだな。
しかも、どれも効果がはっきりと分からない。
黒い円盤と黒い球が現れたが、それが周囲に影響を与えているようには見えないのだ。
『いずれかと反応すれば良いのですが…。『地龍』!』
むっ…
『地龍』の術が使用されたと同時に、ダンジョン内に何やら異質な気配が…
これはまさか…
まさか本物のモンスターなのか?
『ドラゴンだっ!』
体は小さくも、確かに種族はドラゴンのようだな。
まだ進化しそうな個体だが、いかんせん詳しいことは分からない。
見たところ魂らしきものも持ち合わせているようだし、異世界の生命体には間違いない。
しかし、レベル20程度で本物のモンスターを造り出す術など有り得ない。
絶対にMPが足りないはずなのだ!
通常の低レベルで使用できる召喚術は、データとして既に登録されているモンスターの作り物を召喚して使役することができる能力でしかない。
本物のモンスターを生み出して、それを召喚する。
それはマスターレベルの召喚術士でしか有り得ない。
しかし、ダンジョンマスターである私に解析できない異世界の生物ということは、間違いなく本物のモンスターだろう。
だとしたら、このモンスターが既に何処かに存在していて、それを連れてきたという可能性が最も高いのか?
そんなモンスターが野放しにされていることには少々の不安を覚えるが…
『ぷしゃっ』
火は吐いているが凶暴性は見られないようだ。
呼び出した術者に対して好感的な感情は持っているのだろう。
火の吐き方がそうアピールしているように見える。
ならば様子を見ることにしよう。
『ふむ。『地盤』を目標に術を使いました故、そこに現れたので御座いましょうか?』
『ああ、そうなんだ?』
『然り。次は『地球儀』を目標にしてみましょう…』
むむっ…
言うが早いかモンスターの反応が一瞬ロストして、そしてまたすぐに現れた。
黒い円盤から黒い球へと移動したようだな。
『はて、これは意識した方へと移動するので御座いましょうか?』
なんだと?
しかし今のモンスターの移動はそういうことなのか?
『あっ、ドラゴンがあっちこっちに移動してるよ!』
バカなっ!
MP消費もなしに移動を繰り返しているだと!?
『地龍』の術者の意思によって移動しているようだが、術者には何の消耗も見られない。
つまりはこのモンスターの能力…
いいや、それだけではないはずだ…
先ほどの『地化』、『造地』、『地球儀』という術の場所だけを移動しているようなのだ。
このことからも、何かがあるはずだ。
MPを消費せずに術者の意思通りにモンスターを移動させるという、まるでパッシブスキルのような、世界の法則を書き換えているかのような術とは一体…
『しかしのう。これは召喚術という感じでもないのじゃな。アバターでもなければ精霊でもない。お主は一体なんなのじゃ?』
ゴーレム幼女にも分からないか。
まあ、それも当然だな。
おおっと、ゴーレム幼女がモンスターへと近付いて…
危ないっ!
『ぷしゃっ』
『あついのじゃ!』
ほっ…
ただの威嚇だったようだな。
ゴーレム幼女が無事で良かった。
『ふむ。プログラムで設定された行動とはやはり違う。もしやあやつは本物のモンスターなのやも… しかしそれを生み出す術など…』
ほう。
それを検証するために近付いたということか。
やはりゴーレム幼女は大したものだな。
『よし、じゃあぼくも…』
むっ、今度はテンゴクの方が何かするようだな。
『『天化』! 『創天』! 『天球儀』!』
なんだこれはっ!?
今の術で急にダンジョン内の力場に急激な変化が起きただと!?
黒い円盤が白い円盤と、黒い球が白い球との間に妙な空間を形成しやがった!
見た目は変わらないが、おそらくは『天化』と『地化』された場所だな、そこも妙な空間になってるようだ。
あり得ねえだろ!?
理術かよ!?
まるで世界の法則を書き換えているかのように見えるぞ!?
こんな術が発動時のMP消費だけで済んで良いわけがない!
つまりは何かがおかしい!
いや、そうだ!
世界の法則を書き換える…
術名にやたらと『天』と『地』が含まれている…
これはつまり…
『天地術』なのか!?
なぜ!?
地球人の天職が異世界のかつての神のような能力なのだ!?
いや、そもそも二人で一つの能力を分けてるということか!?
何もかもがおかしい
何もかもがおかしい!
何もかもがおかしいのだ!!
いや、だとしたらあの二匹のモンスターは…
そうか!
『天空』の守護者『ウロボロス』!
『地核』の守護者『ヨルムンガンド』!
その進化前の形態なのだ!
くっ!
地球人の天職というものがこれほど奇想天外だとはな!
やれやれ…
少し平静を失っていたな。
やはりこの者達の行動はしっかりと見張り、巫女様へと報告しておこう。
余りにも危険性が高い。
どうやら、ただの精霊である私には荷の重すぎる案件のようだしな。
『それじゃあ、以心伝心を再開だね!』
なんだと!?
まだ諦めていなかったのか!?
どうして三人ともやる気になっているのだ!?
また手を繋ぐのか!?
いや、デートだからそれは良いのだが…
いや、これはデートと呼べるのか?
こいつらデートで何をする気なんだ!?
『『天極』!』
『『地極』!』
なんじゃこりゃあああああああああっ!!
……………
………………………
発動したその術を見て、私は不甲斐なくも恐怖したのだ。
そして、情けなくも気絶してしまったようだ。
私が次に目覚めた時、私の存在するダンジョンの管理室には大音量のアラームが鳴り響き、ダンジョン内は回復ポイントから吹き出す緑の光に満たされていた。
氷精視点は今回で最後です。
次回はシュラちゃん視点で氷精の祠のボス戦になる予定。




