氷精の祠のシェープル・リリーム その2
しばらく見ていたが、三人で手を繋いだり、必殺モードになったりと、何がしたいのかよく分からない。
ゴーレム幼女はジョブ魂が無いからオーラが出ないと言っているが、そんなのは当然だ。
しかし、どうして必殺モードで手を繋ぐのか、そこが理解不能だった。
『すまんが声に出して喋ってくれんかの?』
そうか!
ゴーレム幼女が二人に言った言葉でようやく分かった。
テンゴクとジゴクというこの地球人達は、オーラの繋がりから心を伝わせているのだ。
つまり、今では伝説の恋人と呼ばれるあの二人に匹敵する相性の良さだということか!?
いや、心の中だけで会話が成り立つというならそれ以上であるということか。
『ごめんごめん。今度はぼく達のジョブ魂をアビスちゃんに使えないか試そうかなってね』
『これは申し訳御座いませぬ。然らばテンゴクとの手は離しておきましょう』
くっ…
このような伝説クラスの相性の良さを誇る二人の間に立つというのは…
さぞかしゴーレム幼女は辛かろう。
『ふん。ジョブ魂は、それを最初に使用した者のもつ潜在的なオーラの質に染まるのでな。本人にしか使用できんよ』
ふむ。
正体不明のゴーレム幼女はやはりまともな思考ができているようだ。
ジョブ魂は他人には使えない。
オーラの相性がどれほど良くとも、その質まで同じということは有り得ない。
一度所有者のオーラに染まれば、それ以外の者には使用できないのがジョブ魂なのだ。
しかし、テンゴクとジゴクはそれでもジョブ魂を出して『インストール』を試みた。
結果は当然のように失敗。
しかし、まだ何やら相談し始めたようだな。
諦めが悪いのは時に見苦しいものだ。
『そうじゃよ。もう分かったろうが、余にジョブ魂がない時点で無理な計画だったのじゃよ。更に言えば、仮に余がオーラを出せたとして、そのオーラが意識が繋がる助けになるとは思わん方が良いのじゃ』
『何故で御座いますか?』
『余とお主らはオーラの相性が最悪だからじゃよ。今も余の体にお主らのオーラが弾かれてるように感じぬか?』
ふん。
確かにこれは絶望的な相性の悪さだな。
下手をしたらオーラで相手の体まで弾きかねないだろう。
諦める以前に、この三人が意識を繋ぐなど不可能だとここから見ていてもでも分かる。
「ふむ。ならば方法ははっきりとしました」
ぬ?
幻聴か?
そうでなければ相当の愚か者が居るようだな。
『なんじゃと!? お主は引き際を知らんのか。この世界が、異世界そのものが、余とお主達の以心伝心を全力で拒んでおるようなものなのじゃぞ!?』
その通りだな。
ここはゴーレム幼女の言葉を聞いて、しっかりと諦めることが良いだろう。
そうでなければ、いずれ石精の祠を立ち入り禁止にした以上の事件が起こりかねない。
もっとも、私が何もしない以上はこのダンジョンでは何もおこらないだろうが…
後で巫女様への報告をしておけば良いだろう。
『ふふん』
ジゴクとやらがまだ諦めきれないのか、それでも不適に笑っているが…
これも少々不快になってきた。
一度、他の三人の方がどうなっているか見てみるか。
ナデシコとセイジとシュララバの三人は、っと…
『一階の敵はこんな感じかな』
『近接職が二人だけでも何とかなるものなんですね』
『まあね。私も伊達にここまで一人で戦ってきたわけじゃないしさ。それに近接二人って言ってもシュラちゃんに守りを任せとけるからさ、私が攻撃に専念できて戦いやすいよ』
『確かに、私は攻撃するのって苦手です。ナデシコお姉ちゃんがいると戦いやすいですね』
これだよ!
これこそが異世界でのダンジョン内での正しい会話だよ!
なんでこんな普通の会話が心地よく感じるんだ全く!
ここで氷精が「ならば、こち達は今より世界と戦いましょう」という台詞を聞いてジゴクちゃんに脅威の一つでも感じていたら違う未來もあったかもしれませんね。




