氷精の祠のシェープル・リリーム その1
テンゴク達が氷精の祠に入ってからの氷精視点の話です。
3/18サブタイトルを前回の精霊視点の話に合わせて変更しました。
私の名前はシェープル・リリーム
しがない氷精である
今日も私の担当するダンジョン、『氷精の祠』に客が来たようだ。
子どもだけの六人組とは珍しい。
地球人が四人
異世界の民が一人
そして、最後の一人は…
いったい何者なのだ?
いや、それよりもだ。
パーティーの中にテンゴクとジゴクなる者が居るようだ。
先日、石精の祠へと大量のマナが流れていった事件の原因として巫女様より御触れがあったばかりだが、それがまさか私のダンジョンへと来るとはな。
しかし、私は慌てたりなどしないのだ。
巫女様も、テンゴクとジゴクのやることは見過ごすようにと仰っていたことだし、私は何があっても石精のように間抜けな真似はしない。
テンゴクとやらはワドウキザシの息子だという話だが、それでダンジョンを作り替えてまで復讐などしようものなら、私まで石精の二の舞であるからな。
ここは慣用な心で見過ごし、関与しないと魂に刻んでおくべきだな。
『おおっ!なんとも美しいダンジョンで御座います!』
地球人の子どもが感動しているようだ。
ふふふっ
それも当然だな。
氷とはそこにあるだけで人に感銘を与えるものなのだ。
さらに、この氷精の祠ではダンジョン壁である氷の透明度の高さが多層の照明の光を通してしまう程であり、その折り重なった光に包まれたダンジョン内の美しさは他の追随を許さないのだよ。
氷精の祠こそがもっとも芸術的なダンジョンだと自負しているのだよ!
もっとも、人の身には少々寒いようだがな。
防寒具を忘れて、それでも寒さを甘く見たパーティーが先へと進み、いくつも全滅してきたが…
彼らは大丈夫そうだな。
しっかりと防寒具を用意してきたようだ。
『それじゃあ、私とシュラちゃんでモンスター倒していくから、あんた達はちょっと後から来なさいよね』
何だと?
たったの二人で進んでいくつもりなのか?
いや、ナデシコとかいう地球人の子どもは、前回も一人でボスまで進んでいたか。
ボスには勝てぬと今度は人数を増やして来たようだが…
しかし、レベル的にボスとまともに戦えそうなのはナデシコとやら一人だけなのではないか?
今度はセイジとやらも戦うのだろうか?
まあ良い。
何があっても今回は傍観するだけだ。
下手な操作をして氷精の祠まで立ち入り禁止にするわけにはいかない。
何せ、通常時はマナを消費しない石精の祠とは違い、氷精の祠には大切な役割がある。
もしも立ち入り禁止などになれば、間違いなく巫女様に迷惑をかけてしまうだろう。
私にこの責任感がある限り、氷精の祠は大丈夫であろう。
しかしなんだ。
セイジとやらの扱いで少々揉めているようだな。
戦えぬ者を連れていくのは確かにリスクであろうが、パーティーを組んでいるのに今さら揉めるというのは見苦しいものだ。
しかし、地球人であればジョブ魂を使えば何とでもなるだろうに、セイジとやらも相当に頑固なのだな。
『そういえばさ、アビスちゃんって天職はなんなの?』
むむっ。
アビスとやらはあの謎の個体だな。
地球人とも異世界の民とも違う。
かといって終末論者達ともやはり違う。
ゴーレムが人の姿をしているような不気味さがあるのだが…
『実はまだ碧の所でジョブ魂をもらっておらんのじゃよ。つまり、うむ、今の余は無職の幼女じゃな』
はあ?
ジョブ魂を貰ってないなら名苻だってまだだよな?
それがどうしてダンジョンに入ってこれたんだ?
しかもパーティーまで組んでるなんて意味が分からないのだが…
『えええええっ!?』
『なんと!?』
『いや、幼女は別に無職で良いんじゃない?』
『それもそうだね』
『だけど、それって敵が出たらどうやって戦うんですか!?』
幼女は無職でも良いのか!?
まさか本当にゴーレム幼女なのか?
地球人の感覚はよく分からんな。
本当に、敵が出たら地球人はどうやって戦うんだ?
幼女に武器が使えるとは思えんのだが…
ゴーレム幼女ならそれなりに戦えるのかもしれないが…
『あれ、だけどさっき名苻は出せてたよね?』
『ああ、あれは頑張ったら何とか出せたのじゃが、されども中身は全て白紙だったのじゃ』
はあ!?
名苻は出せただと?
しかも頑張ったら何とか出せただと?
普通出せるか!
ゴーレム幼女が頑張っただけで名苻を出せたら、巫女様も苦労せんだろ!
中身が白紙とはいえ、パーティーを組めたなら正確に機能したということ…
流石にイレギュラーとして私も対応せねばいかんのではないか?
いや、巫女様がテンゴク一向を見守る方針ということだったな。
まだ何も害はない。
ここは様子を見るべきだったな。
ふん。
和気あいあいと会話をしているだけなら確かに害はないな。
しかもデートか。
くくくっ。
このダンジョンが逢い引きに最高の環境だということか?
その通りだ!
分かっているではないか!
『それじゃあ、ぼく達の初めてのデートになるわけだけど…』
ふはははは。
初デートに氷精の祠を選ぶとはな。
それはもう一生忘れられぬ思い出となるだろう!
『ならば、以心伝心致しましょう』
ん?
どういう意味だ?
心が通じ合うってことか?
しかし、氷精の祠での素敵なデートでどれだけ親密になったとして、それを目標にデートするのか、地球人って奴らは?
いや、三人でデートをしてる時点で何かがおかしかったな。
『はん! 少しは理屈の通ったことを喋っていると思っておったが、買い被っておったようじゃの! 出来ることと出来んことの区別もつかんとはな!』
ふむ。
どうやら、このテンゴクとジゴクの発想の方がゴーレム幼女よりもおかしなもののようだ。
ゴーレム幼女はその有り様こそ不気味だが、言ってることはまとものようだしな。
『やらぬ内に諦めるなど愚の骨頂! 少しは自分で考え、思うように行動しても良いでは御座いませんか!』
うぬ。
そう言われると、試すくらいはしてみるべきだと思ってしまいそうだな。
『うん、アビスちゃんと以心伝心する方法を探してみよう』
予想通り、テンゴクとやらが感化されたようだ。
『なんじゃと!? テンゴクまでそのようなことを!』
『然り。テンゴクであればアビス様が何やら複雑な事情を一人で勝手に背負っているらしきことにも気付き、それを解決するために行動を起こすことは当然に御座います』
ふむ。
ゴーレム幼女の事情か。
手段はともかく、仲間のために行動を起こすことは素晴らしいものだ。
少し応援したくなってしまう。
もっとも、私は見守るだけだがな。
純粋なツッコミ役になれそうなキャラはこの作品では貴重…




