四日目、デート挑戦編
実験です。
挑戦です。
この三人なりのデートです。多分。
「それでは、アビス様にすっきりと爽やかな心持ちでデートを致して貰う為、今より以心伝心を試みさせて頂きまする」
ジゴクが深々と一礼する。
この礼には、今から失礼なこともするかもしれないけどその辺はご了承下さいっていう意味もあるんだろうね。
「ふん。好きにせい」
アビスちゃんがこんな風に返事をしたのは、その辺りの意味を汲みとっているからには違いない。
だけど、ぼくの予想じゃあアビスちゃんが予想してるよりも大変な目にあうのは間違いないと思う。
何せ、アビスちゃんは『ぼく達とアビスちゃんは以心伝心できない』って思ってる。
だけど、ジゴクはおそらく『以心伝心できるまで諦めない』。
アビスちゃんがどれだけ嫌がっても、今の『好きにせい』って言葉を聞いちゃってるからね。
ぼくが止めるまでは絶対にやめないだろう。
アビスちゃんが想像しているよりもとんでもない目に遭うことは、もう確定しているんじゃないかな。
うん。
合掌。
「アビス様、それではまず必殺モードのオーラは出せますか?」
「ふん。あれはジョブ魂がないと余にも無理じゃ。オーラの実質的な発生源はジョブ魂なのじゃからな」
「念のため、試して下さいませ」
「良いじゃろう」
アビスちゃんが名前の呪文を唱える。
「うむ。何も起こらん」
見事なくらいにうんともすんとも反応がなかった。
「じゃあ、必殺モードのぼくとジゴクでアビスちゃんを挟んで手を繋いだらどうかな?」
思い付くことがある間にぼくも提案しとかないとね。
「試してみましょう」
「『テンゴク』」
「『ジゴク』」
名前の呪文を唱えて必殺モードになるぼく達。
さっきのアビスちゃんとは違って、今度はちゃんとオーラが出てる。
そのままアビスちゃんの左右に分かれ、三人で横に並んで手を繋いでみる。
だけど、アビスちゃんからは何の意識も流れ込んでこなかった。
ぼくの青みを帯びた白いオーラと、ジゴクの赤みを帯びた黒いオーラ。
それがどちらもアビスちゃんの手まで来たところで弾かれてる感じだね。
「ふむ。試しにテンゴクとも手を繋いでみましょう」
「うん」
アビスちゃんとは手を繋いだまま、空いてる方の手でジゴクと手を繋ぐ。
輪っかになったね。
〔輪で御座います〕
ぼくの心の声にジゴクが心の声で返事をくれる。
うん。
ジゴクとは意識が繋がってる。
アビスちゃんからは、やっぱり何も伝わってこなかった。
〔何の反応も御座いませんね〕
次の作戦は?
〔次はこち達のジョブ魂をアビス様に使えるかを試そうと〕
ああ、ぼく達のジョブ魂からなら、ぼく達に近いオーラが出るかもね。
「すまんが声に出して喋ってくれんかの?」
アビスちゃんが少しむすっとして言う。
って、そりゃそうか。
仮にもデート中に放っておかれたらそりゃあむすっとしてしまうよね。
「ごめんごめん。今度はぼく達のジョブ魂をアビスちゃんに使えないか試そうかなってね」
「これは申し訳御座いませぬ。然らばテンゴクとの手は離しておきましょう」
ジゴクと手を離す。
もちろん、繋がっていた意識も離れてしまう。
「ふん。ジョブ魂は、それを最初に使用した者のもつ潜在的なオーラの質に染まるのでな。本人にしか使用できんよ」
なるほど。
「でも、念のため試すんでしょ?」
「然り」
「『ジョブ魂:闘士』」
「『ジョブ魂:闘士』」
二人揃って『闘士』のジョブ魂を出す。
これを自分で使うと今の職業を『闘士』で上書きしちゃうけど、他人に使ったらどうなるんだろうか?
いや、使えないってアビスちゃんが言ってたんだけどさ。
「ジョブ魂でジョブチェンジする時って『インストール』っていうけど、この場合は誰が言えば良いんだろ?アビスちゃんかな?」
「はて、分かりませぬ故、ここは三人で言ってみましょう」
「そうだね」
ちょっと変な感じだけどね。
「まあ良いじゃろう」
アビスちゃんも渋々了解してくれた。
そして、一斉に皆で『インストール』と叫びながら、ぼくとジゴクはアビスちゃんのほっぺにジョブ魂を押し付ける。
うん。
頬っぺたに当たったところでジョブ魂が消えちゃったね。
「一応言っておくが、闘士には成れとらんのじゃよ」
インストール失敗だった。
「ふむ。ここで少し整理してみましょう」
「そうだね」
「まず、以心伝心は相性が良い者達のオーラの繋がりによって意識が繋がることで起きる現象に御座います」
「そしてオーラを出すにはジョブ魂が必要みたいだね」
「更に、アビス様にはそのジョブ魂がありませぬ」
「そうじゃよ。もう分かったろうが、余にジョブ魂がない時点で無理な計画だったのじゃよ。更に言えば、仮に余がオーラを出せたとして、そのオーラが意識が繋がる助けになるとは思わん方が良いのじゃ」
「何故で御座いますか?」
「余とお主らはオーラの相性が最悪だからじゃよ。今も余の体にお主らのオーラが弾かれてるように感じぬか?」
「ああ、なるほど。相性が悪いって場合もあるんだね」
それって、アビスちゃんとの以心伝心は絶望的ってことじゃないかな。
うん。
ぼくは今ので、ここで諦めといた方が良いかなって思ってしまった。
つまり、ここからジゴクが本領発揮をするって予感。
「ふむ。ならば方法ははっきりとしました」
ほら、予感的中だよ。
なんてね、さっき少しだけ以心伝心しちゃったからね。
その時にジゴクがアビスちゃんと以心伝心することに物凄い情熱を注いでるってことが伝わってきちゃったんだよね。
「なんじゃと!? お主は引き際を知らんのか。この世界が、異世界そのものが、余とお主達の以心伝心を全力で拒んでおるようなものなのじゃぞ!?」
アビスちゃんが、自身との以心伝心を試みることの愚かさを説く。
今度はジゴクが「ふふん」と不敵に笑った。
「ならば、こち達は今より世界と戦いましょう」
毅然と宣言するジゴク。
そろそろ、ジゴクが諦めるつもりがないってことがアビスちゃんに伝わったんだろう。
頬がひきつってるみたいにぴくぴくしてる。
そうそう。
さっきジゴクと以心伝心した時に、ぼくはジゴクの以心伝心にかける情熱を、とっても応援したくなったんだよね。
きっと、ジゴクにはそれが伝わっているはずだ。
それを、今度はアビスちゃんにも伝えとかないとね。
「よっし、それじゃあ頑張ろうかな!」
「なっ!? テンゴクまでやる気じゃと…」
うんうん、伝わって良かった。
「それで、次はどうするの?」
ぼくには何をするのかまではさっぱり分からないからね。
「アビス様をこち達のオーラで染め上げましょう」
なるほどね。
うん、いったいどうやってやるのかな?




