四日目、アビスの憂鬱
ぼくとジゴクが恥ずかしくて真っ赤に。
シュラちゃんが照れと怒りで真っ赤になってるね。
「それにジゴクちゃん!」
シュラちゃんの剣幕に押され、ジゴクがたじっと一歩下がってしまう。
「なんで御座いましょう!」
「私のことをシュララバ様って呼ぶのは禁止です!」
「なんと! テンゴクとの仲も、人格者としてもシュララバ様に敵わないように思い、こちはついシュララバ様と呼んでいたようで御座います!」
自覚はなかったみたいだね。
「はい、もうシュララバ様になっちゃってますよ! シュラちゃん、です!」
「シュラちゃんで御座います!」
うん、怒ってるのと恥ずかしいのとで二人ともおかしなテンションになってる!
「ふむう。テンゴクの周りは随分と賑やかじゃな」
わいわいとやってるジゴクとシュラちゃんを横目にアビスちゃんが話しかけてきた。
微笑ましそうに、だけど少し寂しそうに、その賑やかさを一歩離れて見てたみたいだ。
「ん、羨ましかったりするの?」
「そうじゃのう。少し羨ましくはあるのじゃが、それよりも人と普通に話をした経験がないのでな。余が何を話せば良いのかが分からんのじゃよ」
確かにここまでのアビスちゃんって知ってることを色々と教えてくれたりしてたけど、普通の会話っていうのはそんなにしてないかも…
「他愛のない話が苦手ってこと?」
「ふむ。そういうことなのじゃろうな。オチも知らぬ会話に余が混ざることで未来がどう変化するのか分からんのじゃ。分からぬものなど知ったことではないと思いつつも、やはり一歩前に出れぬものなのじゃな。なんとも情けないことじゃよ…」
それはとっても考えすぎだと思うけど、考えてしまうのなら何か荒療治が必要なのかもしれない。
だけど、アビスちゃんってぼくやジゴクとは割と普通に話してくれてるような気も…
っていうか、今も話してるわけで…
「ああっ! アビスちゃんがテンゴクと仲良く抜け駆けしてるわよ!」
おおっと、撫子ちゃんという名の荒療治が向こうからやってきたようだ。
「なんと! こちがシュラちゃんと仲良くしている間に抜け駆けるとは!」
「ジゴクちゃん! いっそ私のことは放って置いて下さい! テンゴクさんとの仲の方が大事です!」
ジゴクとシュラちゃんもやってきた。
アビスちゃんは少したじろいで、だけど不敵に「ふんっ」と鼻で笑ってぼくの腕にしがみつく。
「既にデートは始まっておると思っていたのじゃがな。 デート中にテンゴクを放っておくとは、ジゴクとやらは酷い女じゃなあ」
「あー、それは正論ね。確かにデートは始まっていると言うべきよね」
アビスちゃんって撫子ちゃんを納得させるのがやけに上手いんだよね。
何かコツがあるのかな?
「なんと!こちの失態で御座いましたか! 然れど、出遅れていたなら取り戻すまでで御座います!」
うんうん。
ジゴクがぼくの横に来て手を繋ぐ。
そしてアビスちゃんと睨みあっている。
ちょっと考えすぎみたいだけど、大胆不敵な振る舞いが板に付き過ぎているアビスちゃん。
何だかんだで黙って隅っこには居られない性格みたいだ。
ぼくが心配するまでもなく、アビスちゃんのことは時間が解決してくれそうな予感だね。
「ちょっと、テンゴクは何を一人で澄ました顔してるのよ!?」
あれっ!
アビスちゃんの心配をしてるより、ぼくは自分の心配をするべきだったんじゃないかな!?
「でも、こんな街の中でよく騒げるよね。ちょっとマナーが悪いんじゃないかな?」
そう。
ぼくもたまには言い返す…
じゃなくて、今は道具屋を出てダンジョンへ向かっている最中なんだよね。
つまりはウガリットの街の中なわけで、ぼくの言ってることは正論に違いない。
これなら撫子ちゃんも納得してくれるよね?
「はあ? 何言ってんのよ!?」
ダメだった!
これは言い方とかなのかな…?
「街の中って言っても、こんな周りに誰も居ない場所でちょっと盛り上がってるくらい悪くないと思うけど?」
あれ、本当だ。
いつの間にか辺りに人が居ないね。
そして静寂に包まれているこの感じ…
まるでぼく達の周囲以外の時間が止まってるみたいな…
うーん、この感じは確か…
「いえ、こんな時間の街の往来に誰も居ないなんておかしいですよ!」
宿屋に引きこもっていたとは言っても異世界人のシュラちゃんがおかしいって思うなら、これは異常な事態なんだろう。
うん。
当てずっぽうだけどしょうがないよね。
「セクトさん、ファクトさん、居るんですか?」
そして、ぼく達の前方にスーツ姿の男女が現れた。
あっ!
アロハシャツじゃなかった!
知らない人だったよ!
エンジェルシュラちゃんからの勢いだけでスーツ姿の二人が現れてしまいました。




