四日目、三角のあれ
当然だけど、ぼくはデートなんてしたことはない。
それが、気がつけば女の子を二人も引き連れてデートをすることになってしまった。
とりあえず、デートに役立ちそうな情報を皆から仕入れておかないとね。
「デートならお勧めのスポットを知っておるぞ」
アビスちゃんの先制攻撃。
って、それが本当なら耳寄り情報だね。
「どんなとこなの?」
異世界にまで来てるのにまだ観光もしてないんだよね。
かなりもったいない。
「うむ、氷精の祠というダンジョンなのじゃがな…」
「ああ、あそこ綺麗よね。雰囲気良いしデートには丁度良いんじゃない?」
アビスちゃんの台詞に食い気味で入ってくる撫子ちゃん。
「でもさ、あそこってレベル30はないときつくない? アビスちゃんのレベルは知らないけどさ、ちょっとレベル上げた方が良いんじゃない?」
デートのためにレベル上げって!
地球じゃありえないけど、異世界だと強いモンスターの居るダンジョンに出かけるなら、それ相応にレベルも必要なのは当然だけどさ。
でも、「明日はレベル50の草原にピクニックよ。今日のうちにレベルを上げておきましょう」なんて風な家族の団欒があったらやだな。
「そこでじゃ。鴇羽撫子とシュララバ・ラプトパ、お主達にボディーガードを頼みたいのじゃ」
デートにボディーガードって!
それも地球じゃありえないけど、いや、お金持ちとかならあるのかな…
でも、デートの護衛をクラスメイトに頼むって人はいないよね?
「うん、面白そうだから良いんだけどさ。でも、横でデートされてるのに私達だけモンスターと戦ってるとか、さすがに嫌なんだけど?」
良いけど嫌って、撫子ちゃんは複雑だね。
「私は大丈夫ですよ。ダンジョンデートのボディーガードも楽しみです!」
シュラちゃんは素直にデートについてくるつもりみたいだ。
危険もいっぱいありそうなこっちの世界では、デートにボディーガードがつくのも当たり前のことなのかもしれない。
「ふむ」
なにやらアビスちゃんが思惑を巡らしている。
それこそ小さい子には似合わない仕草なのに何故か似合っている。
ちょっと面白いね。
「それでは、護衛の対価として氷精の祠のボスの弱点を教えてやっても良いのじゃよ」
その言葉に、撫子ちゃんの耳がぴくりと動く。
興味ある話だったのかな?
「なんでそんなの知ってんのよ? 信頼できる情報なの?」
確かに、アビスちゃんってヘブンとヘルのことまで知ってたし、どこかのダンジョンのボスの情報くらいは持っててもおかしくないよね。
でも、信頼できるのかどうかはよく分からない。
「ふむ。あそこのボスは『一角獣イノセントホーン』じゃな。お主はあれに負けておるじゃろ?」
扇子を懐から取り出し、ピシッと撫子ちゃんを差して言うアビスちゃん。
「うっ… そうだけど? 」
言いにくそうに、だけど撫子ちゃんはそれを認めた。
「あれは豊富な耐性に強靭な体力を持っているのでな、正面からぶつかるのは得策とは言えん。かといって、攻撃せねば倒せんと考えて、お主は何度も挑んでいったのじゃろ?」
一角獣イノセントホーン…
何だか強そうだね。
「まったく、そのとおりだけどさ。あんた、青磁くんの動画でも見たの?」
ああ、青磁くんはいつでも撮影係なんだね。
一緒に戦ったりはしないのかな?
「単に知っておるだけじゃよ。さて、あれの弱点じゃが…」
じゃが…
じゃがいも…
いや、じゃなくて…
アビスちゃんが撫子ちゃんの耳に手を当ててごにょごにょと何やら伝えている。
アビスちゃんの身長に合わせて、撫子ちゃんが少し身を屈めている辺り、撫子ちゃんもその情報の中身が気になってるってことなんだろう。
それは、とっても奇妙な光景だった。
小さな子どもに大きな子どもが真面目に教えてもらってるなんて、今までに見たことがない。
アビスちゃんはちょっと異様だ。
あの撫子ちゃんが、アビスちゃんのペースに呑み込まれていってる感じがする。
だけど、皆と上手くやろうっていう意思はあるように見える。
それなら、ぼくは成り行きを見守ってみようと思うんだよね。
異様で異質なアビスちゃんが、こっちに歩み寄ろうと頑張ってくれてるってことだから、できるだけ応援したい。
ふと、ジゴクの方をちらりと見る。
そこには、アビスちゃんのことをきつく睨み付けているジゴクの姿があった。
なんだろう。
どうして、そんなに怒っているんだろう…
なんだか分からないけど、応援したいって考えていたぼくのことまで睨まれている気がして
それがとても怖くて
ぼくはジゴクに「デート、楽しみだね」と話しかけた。
まるで、言い訳をするように…
「勿論で御座います!」
ジゴクがそう笑ってくれたので、ぼくはとっても安心した。
良かった。
心が繋がったことがあるせいか、ジゴクの感情が自分のことのように分からないと不安になるのかもしれない。
安心したぼくは、ふとアビスちゃんの方を見てしまった…
案の定というべきか、アビスちゃんがぼく達を睨んでいた。
「余も、テンゴクとのデートが楽しみなのじゃ!」
とても良い笑顔で、睨んでいた。
何だかジゴクとアビスちゃんの間で火花が散っている気がする。
きっと気のせい…
うーん、これってまさか…
「三角関係ね」
ぼくの心の声を代弁するみたいに撫子ちゃんが呟いた。
それは、とてもとても不穏な言葉だった。
次回、みんなでデート…?




