四日目、そして聖地へ
碧さんの所へ向かうぼく達。
夜の神社のような幻想的な場所を進んでいる。
「次の灯籠を左に曲がるわよ」
完璧に案内してくれる撫子ちゃん。
だけどね…
「青磁くんの動画を見るのってずるくない?」
そもそも、この場所に来るのって碧さんへ魔法でメッセージを送るだけだったしさ。
まあ、それはしっかりしてるなあって思って見てたんだけどね。
それからはもう青磁くんの動画を見ながら、それと同じように進んでいくだけだった。
「なによ。こっちの方が安心でしょ?」
はい、それはごもっともだよね。
でもなんかこう騙されたような、少し残念な気分になってしまう。
うん。
無事に到着しそうだね。
シュラちゃんがとても緊張してるけど、それはまあ無事だと言っても良いよね。
「ほ、本当に私が行っても良いんですかね? っていうかこんなとこまで来ちゃって大丈夫でしょうか? ひょっとしたら異世界の人がここまで入ったのって初めてなんじゃ…」
うん。
緊張してるって言うより、あわあわしてるって感じだし大丈夫だよね。
「ちゃんと地球人が4人、異世界人が1人、ちびキャラが2人って連絡してあるし大丈夫でしょ。駄目だったら転送してくれないと思うわよ?」
撫子ちゃんが問題ないよってフォローしてるけど、シュラちゃんはやっぱり不安そうだね。
よし、ここはぼくが一肌脱ごう。
「ぼく達も最初は山吹さんにここに連れてきてもらったんだよね。懐かしいなあ」
ああ、二日前のことを懐かしいだなんて、ちょっとわざとらしかったかもしれない。
「ヤマブキ様とここを歩いたんですか!?」
ああ、シュラちゃんの緊張が吹っ飛んでいったようで良かった。
「地球の方々を此処に案内するのがお姉様の役割であると申されておりました」
今思うと、ちょっと案内が雑だった気もするけどね。
山吹食堂の看板娘で、異世界の案内人で、アイドルみたいに人気者にまでなってるから大変なんだろう。
「はあ、山吹様ってやっぱり凄いです!」
うんうん、勝手に名前を出しちゃったけど、シュラちゃんが明るくなったら山吹さんも喜んでくれるよね。
「さて、到着よ」
いつの間にか現れていた六つの人魂みたいな火の玉が回りだした。
もうすぐワープだね。
「つうか、あんた達って仲良すぎでしょ? いつまで手を繋いでんのよ?」
うう…
気付かれてた…
ぼくとジゴクは、この場所にかかってる呪いで手を繋いでしまうんだよね。
「この場所って相性が良い人達は勝手に手を繋いじゃう呪いがかかってるらしくてさ。ぼく達、どうしても手を繋いでしまうんだよ」
ちびキャラと言われてわーわーと騒いでるヘブンとヘルも手は繋いじゃってるね。
そして、撫子ちゃんは大爆笑してる。
「なによそれ。さすがに嘘でしょ? あっはっははは!」
もう、そんなに笑わなくても良いよね。
「さすが、お二人の絆は素晴らしいですね」
うん。シュラちゃんが感激してるけど、いやいや、ぼく達は呪いで手を繋いじゃってるっていうだけなんだよね。
まあ、緊張がとけてるみたいで良かったかな。
そして、撫子ちゃんが大笑いしているままにぼく達は転送されてしまった。
神社の内側らしき木造の部屋の中
質素だけれども厳かな雰囲気のその場所に
撫子ちゃんの笑い声が木霊した
「五月蝿い子どもは帰ってもらうよ」
部屋の中に居た碧さんが宣告する。
そして、撫子ちゃんが消えてしまった。
うん、静かになったね。
じゃなくて、怖いよ!
いや、前に来たときは心臓を止められたんだし、それに比べたらちょっとはましなのかな?
うーん、ちょっと転送されるタイミングが悪かったね。
撫子ちゃんの無事を祈っとこう。
「それで、ぞろぞろと大所帯で何のようなのかな?」
碧さんには下手なことは言えないよね。
この場所にきた用事を素直に召喚しとこう。
「えっと、リプシー・マウレイから話があるので一先ず聞いて上げて下さい。『天魔召喚:リプシー・マウレイ』」
空中にクリオネみたいな姿をしたマウプーが現れた。
「ちょーっとテンゴクくーん! 夢の世界に置き去りだなんて酷くないかな? もっとこう自分の使い魔を労ろうよね。だいたいさ、夢の中だからってテンゴクくんが二人も居たのは何なのさ。色ちがいのレアキャラかい?」
ぼくは、ちょいちょいとヘブンの方を指差す。
あっち向いてホイをしてるみたいにヘブンの方を見るマウプー
「わおおおおおわおおおおおっ! 黒いテンゴクくんが小さいテンゴクくんになってるよ!? しかも人間やめちゃったのかい? 精霊みたいにマナがボディーにマナマナしてるよ面白ーい!」
うん、マナマナってなんだろう?
まあ良いや。
ぼくは今度は碧さんの方を指ですいーっと指し示す。
あっち向いてホイをしてるみたいに碧さんの方を見るマウプー
「わーおわーお、まるで碧様みたいな人を仲間にしたのかーい?」
ぼくは首を横に振る。
ふるふるとね。
「へーえ、まさか本物の碧様かい?」
ぼくは首を縦に振る。
こくこくとね。
「ふんぎゃあああああっ!」
マウプーの絶叫が木霊した。
あっ、でも撫子ちゃんみたいに消されないんだね。
精霊には甘いのかな?
いっそ赤ちゃんみたいなものだからしょうがない感じかもしれないね。
「ふん。その騒がしい精霊の音声は遮断させて貰っていてね。悪いが要点だけ伝えてくれないかな?」
あっ、マウプーはすでにブラックリスト入りしてるんだね。
可哀想だけど、ぼくは納得してしまうのでしたとさ。




