2日目、食後に沈没船
女の子がカレーを食べ終わるのを待ってから、ぼくたちは店長の居る店の奥へといく。
何の用事かな?
「ごちそうさまでした」と店長に挨拶をする。
見た目は完全に格闘家な、筋骨隆々そのものの店長はちょっと怖い。
その店長がじろりとこちらを睨んでくる。まじで怖い。でもいい人なんだよ。
「ふん、まぁ良いだろう」と店長が言う。
何がだろ?
「おい、山吹。こいつらを案内してやれ」
あっ、何か勝手に話が進みそうな感じ、こういうとこはうちの父さんと同じかも。いや、大人って皆けっこう勝手だよね。
「あいよ。子どもが来るとは聞いてたけど、まさかテンゴクだったとはね」と山吹さんが返事をする。
なんだか勝手に話が決まってる感じ、山吹さんも大人の仲間ってことか。
「きざしの旦那が頼みに来たんだ。何か考えがあるんだろう」
はい、ここでも父さんでしたー!
山吹食堂は無実!父さん有罪!
こんな良い人たちに、どうせ大人は…とか思ちゃってごめんなさい!
「えっと、父さんがまた何か面倒なことを…?」
なんだか、うちの子が迷惑かけてすいませんと言いたい。
「気にすんな」と店長が言う。
「そうだね。私は案内するだけだ。たいした手間じゃないし、さっさと行っちゃうかい?」と山吹さんが言う。
良い人たちだよ。本当にさ。
ぼくは「ありがとうございます」とお辞儀をする。
起こす頭で「で、どこへ行くんですか?」と聞く。
女の子はすでに状況についてこれて無いので空気と化しているけど、ぼくも状況についていけないことに慣れているだけだ。激しい流れに身を任せながらも、舵にしがみつく、嵐の中の船乗りの気分になるだけなんだ。
ざっぱーん!と荒れ狂う海を、ぼくは想像した。何が来たって乗り越えるつもりで行く、気合いが大事だよね。
警察に「この子を誘拐しました」って自首しに行くのは嫌だけど、他のことなら大丈夫だと思う。
山吹さんは、天井を指して言う。
「どこへって、異世界だよ」
そう言いながら、山吹さんは笑っていた。
ざっぱーん!と荒れ狂う海を、ぼくは想像した。ぼくの船はすでに沈没しているのか、想像の中にはいなかった。




