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HEAVEN AND HELL  作者: despair
四日目、魔女の館
146/214

海乃アビスとの邂逅

【注意】

三日目の夜から四日目の目覚めまでの間に、テンゴクが見ていた夢の内容です。

本編のテンゴクが知ることのないネタバレが多数含まれるため、純粋なテンゴク視点で物語を楽しみたい方には今回の話を読まないことを勧めます。


 うん…?

 ぼくは気が付けば真っ白な部屋の中に居た。

 さっきまでジゴクちゃんと一緒に居たような…

 あれ…?

 記憶がはっきりしない…

 眠っているような、目覚めたばかりのような…


「テンゴクよ。こちを見るのじゃ」


 うん…?

 小さい子どもの声がする…


 声は足元から…

 女の子…?

 白髪赤眼の和服の少女

 誰?

 っていうか迷子?


「こちは、いわゆるアカシックレコードと呼ばれる存在なのじゃ。宇宙の全てが記録されているのじゃよ? 偉いんじゃよ?」

 幼稚園児にしか見えないけど…

 小さいのに可愛いっていうより綺麗って感じなのがちょっと神秘的だけど…

「ふん、容姿などこちの魅力を最大限に引き立てるための手段に過ぎんのじゃ。ミステリアスなくらいで丁度良い。そも、元来のアカシックレコードに人格など存在しないのじゃよ」

 それじゃあ、君はどうしてそんな姿になってるの?

「問題はそこなのじゃ。話せば長いのじゃが…」

 じゃが…

 じゃがいも…

「何を考えておる。そもそもの始まりはテンゴクの父君のせいなのじゃよ?」

 うへ、父さんがまたやらかしたんですか?

「なぜそこで敬語になるのじゃ?」

 あ、なんとなく申し訳なくてさ。

「ふむ、まあ良い。それでな、和堂兆がアカシックレコードを『明石(あかし)呉子(くれこ)(仮)』として擬人化した時に生まれたのがこちなのじゃ」

 変な名前…

「和堂兆にネーミングのセンスは皆無じゃな」

 ふーん、なんとなく喋り方がジゴクちゃんと似てるのは、人格を作ったのが父さんだからなのかな。

「それは違う。そのジゴクという者の人格がこちをベースに作られたのだと予想しておる」

 アカシックレコードの呉子ちゃんがオリジナルっていうこと?

「そうだと判断したのじゃよ。然れども、呉子ちゃんは戴けんのう。明石呉子は和堂兆が名付けた仮の名前なのじゃ」

 別の名前があるの?

「うむ、テンゴクはこちを『奈落(ならく)』と呼んだのじゃよ」

 えっと、呼んだことないよね?

 そもそも初対面だよね?

「うむ、そこが長くなる部分なのじゃが…」

 じゃが…

 じゃがいも…

「ええい!それはもう良い!」

 あはは、ごめんごめん。

「まったく、テンゴクは変わらんのじゃな…」


 やっぱり、どこかで会ったことあるのかな?


「まず、先程のお復習(さらい)からじゃな。アカシックレコードには、宇宙の全てが記憶されているのじゃ」

 うん、さっきも聞いたけど…

「ふん、認識が甘いのじゃ。全てというのは、過去も未来も含めた全てなのじゃよ」

 えっと、未来も全部アカシックレコードに記録済みってこと?

「そうじゃよ」

 じゃあ、未来の何処かでぼくが君と出会って奈落ちゃんって呼ぶのかな?

(いな)じゃ。アカシックレコードの記録では、こちは既にテンゴクと出会っているはずなのじゃ」

 なんだ、その記録もけっこう間違ってるんじゃないの?

「それは有り得んのじゃよ。アカシックレコードは予知ではなく記録なのじゃ。テンゴクを写真に撮ったらあの世の風景が撮れたというくらいに有り得んのじゃよ」

 うん、それはテンゴク違いだね。

「しかし、有り得んじゃろう?」

 確かに、カメラがそんな駄洒落みたいな間違いをするわけがない。

 アカシックレコードも記録だから、それがたとえ未来のことでも間違っているはずがないってこと?

「簡単に言えばそうなのじゃ」

 だけど、実際に間違ってるんだよね?

「そうじゃ。テンゴクの写真を撮ったらあの世の景色が撮れたというわけじゃ」

 うーん、心霊写真どころじゃないね。

「さて、アカシックレコードの記録ではの、今回の夏休みの初日に和堂兆によってアカシックレコードが擬人化されてこちが生まれたのじゃ」

 でも、実際は来なかった?

「そうじゃ、そもそも和堂兆はアカシックレコードを訪れなかった。代わりにジゴクと呼んでいる少女を拐い、こちと少し似ている人格を与えてテンゴクのパートナーとした」

 あれ?

 なのにどうして奈落ちゃんがここにいるのさ?

「こちがアカシックレコードが擬人化された存在である故にじゃよ。和堂兆が来ずとも、アカシックレコードは自身の記録の通りにこちとして擬人化されたのじゃよ」

 うん、ややっこしいね…

「まあの。しかしテンゴクが理解できずとも問題はないのじゃ」

 幼稚園児みたいな奈落ちゃんに言われるとちょっとしょんぼりしちゃうけど…

「ふん、話を続けよう。さて、アカシックレコードの記録ではの、テンゴクの天職は『勇者』で、こちは『賢者』だったのじゃ。こちとテンゴクは二人で全てのダンジョンの試練を乗り越えていったのじゃよ。それも夏休みの間にの。えっへんなのじゃ」

 ええっ…

 ぼくって今は『天術使い』なんていう『天職』なんだけど…

 ぼくがまさかの『勇者』とか、やっぱりそのレコードおかしいんじゃないの?

「さてな。しかし、アカシックレコードの記録と違っておるのはテンゴクとジゴクの周りだけなのじゃよ。発端は主に和堂兆ではあるんじゃろうがの…」

 うえ、それじゃ父さんが何かしてるんじゃ…

「その可能性は高いのう。しかし、何をすればアカシックレコードの記録から外れられるのかが分からんのじゃ」

 んっと、予知とかじゃ変わらないの?

「その程度では変わらん。予知で何を見て、どのような行動をするのかも記録されておる。全ての記録がアカシックレコードに納められているとうのはそういうことなのじゃよ」

 でも、その記録を読んだりしたらさ、記録と違う行動をとれたりするんじゃないの?

「一生涯を費やしてアカシックレコードを読み解くよりも、普通に生きていた方が得られる情報は多いのじゃ。仮に、阿呆な馬鹿が時間を無駄にしながら半ば精神を崩壊させつつ読んだとしてもじゃ、何を読むのかも、読んだ上でどのような行動を取るのかも記録の内じゃな。ああ、アカシックレコードにアクセスするタイプの予知能力もあるのじゃが…」

 じゃが…

 じゃがいも…

「まったく、またそれか。まあ、興味が失せたのなら次に行こう」

 じゃあ奈落ちゃんは?

 明石呉子(仮)の奈落ちゃんなら、アカシックレコードを正しく読み取った上で別の行動を取ることも出来るんじゃない?

「ふむ、こちには可能ではあろうな。然れども、やる意義も意思も価値もない。もっとも、現在はすでにアカシックレコードの記録と違っている故、記録の通りに動くことこそ無理難題となってしまったのじゃな…」

 うーん、やっぱりややこしい。

 それで、奈落ちゃんはここに何をしに来たの?

「記録と現実が食い違うことでエラーが発生してのう。こちはどうするべきなのか模索中なのじゃ。そこで、一先ずは原因を探る方向で動いているのじゃよ」

 ふーん、それじゃあ記録の中でのジゴクちゃんはどんな風なの?

「あやつは… 和堂兆に拐われなかったあやつは、今も神威として新世界レナトステラで過ごしておるよ」

 まだ人格も名前もない、空っぽのままだってこと?

「そうじゃ、そして新世界レナトステラの研究所で地球のマナと融合したあやつは、この夏休みの最後の日に地球を滅ぼそうとするのじゃが…」

 じゃが…

 じゃがいも…!?

「地球の危機に立ち上がった勇者であるテンゴクと、地球を滅ぼそうとする魔王であるジゴクが、最終決戦の場で互いを討ち取らんかというその刹那…」

 うう、なんなのその状況…

「勇者と魔王が以心伝心しちゃってのう…」

 ああ、ぼくとジゴクちゃんならそうなりそうだね。

「そして、何だかんだとあった後にテンゴクは魔王と仲良くなってめでたしめでたしとなるのじゃ」

 それは良かったね。

 だけど、今のジゴクちゃんって魔王になりそうな感じはしないけど…

「本来なら終盤も終盤のラスボス戦の決着直前、この夏休みの最後に以心伝心するはずだったのじゃが、現状では二日目にして早くも以心伝心してしまっているんじゃからのう。アカシックレコードの記録ともっとも違ってしまったのが彼女であろうな」

 ふーん…

 でも、ことが起きる前に事件が解決したようなものだし、やっぱり良かったんじゃないの?

「さてな、もはや未来がどうなるかこちには分からんのでな。良いも悪いもこちには分からぬ。記録と現実に相違が起きた原因さえ分かれば、今からでもアカシックレコードの再編が出来るのじゃが…」

 じゃが…

 じゃがいも…

「ふん、まあ良い。目覚めれば、テンゴクは此処での出来事を忘れる故、元より何も気にすることはないのじゃ」

 ええっ?

 じゃあ、何しに来たの?

「挨拶じゃよ。お主の人柄がこちの記録と変わっておらぬか直に確認したかったのもあるが… そうじゃ!こちは近々お主のパーティーに合流するのでな。よろしくなのじゃ!」

 ええっ!

 挨拶されても忘れちゃうんじゃ…?

「構わんよ。こちは覚えておる。それで良いのじゃ」

 うーん、まあ良いのかな…

 どこで会うのか分からないけどよろしくね。

「うむ、テンゴクのパートナーはこちであること、皆に見せ付けるのじゃよ」


 ん…?


「アカシックレコードの記録から解放されたこちの真骨頂を楽しみにしてたもれ」

 なんか嫌な予感だけど…

「よいよい。その予感ごと忘れて仕舞えば良い。すっきりとした頭でまた出会おうぞ」

 うーん、まあ仲良く頼むよ。

 でも、一人称が『こち』ってさ、それだけでジゴクちゃんとキャラがかぶるよね?

「こちの方がオリジナルなのじゃ」

 でも、後から出てきた方がかぶってるって思われるよね?

「ふむう、それは確かに…」

 何か別の一人称にできないのかな?

「こちは奈落じゃが、すでに地獄が居るのじゃし、名前も少し変えるかのう」

 それが良いかもね…

「奈落はアビスで、アビスは深淵、深淵は宇宙、宇宙は海じゃな…」

 なにその連想ゲーム…

「いやいや、天と地がおるのじゃから、宇宙や海は足りんじゃろう?」

 それじゃ、海乃アビスとかどう?

「ふむ、それを採用しよう。アビスと地獄なら言語が違うし良いじゃろう。一人称は名前で良いかのう。何しろ見た目は幼女じゃ。違和感もあるまい」

 そうだね。

 それなら誰ともかぶらないのも間違いないし。

「うむうむ。さて、夜明けまでの間にこちとテンゴクの冒険のさわりだけでも見ておかんか?アカシックレコードの記録を直に見れる機会は今だけなのじゃよ」

 どうせ忘れるのに?

「忘れるからこそ見せられるのじゃ。それに、忘れるとして、それだけで今のテンゴクは興味をなくすのかえ?」

 うーん…

 確かに見たいね。

「ほれきた。こちとテンゴクの冒険をとくと見るのじゃ!」


 真っ白な部屋がスクリーンに変わる


 映し出されるアカシックレコードの記録をぼくは見た。

 寝っ転がって見ていると、奈落ちゃん改めアビスちゃんがぼくの横に寝っ転がってきた。

 ああ、これじゃ腕枕だよ。

 まあ、アビスちゃんは小さいから苦にはならないけど。



 そして ぼくは見た


 決して訪れることのない未来の物語を


 ぼくは見てしまった



 そして ぼくは知った


 ぼく達の 世界の終わりを…


 決して訪れることのない未来の最後には


 この世界の逃れようのない滅びがあった



「どうして泣いておるのじゃ?」

 そりゃあ、悲しいからだよ。

「ふむう。目覚めれば全て忘れてしまうのじゃ。気に病むことはないのじゃよ」

 これは、忘れちゃ駄目だよね。

「覚えていれば何かが出来ると言うのかえ?」

 うーん…

 

 父さんに勝てなきゃ、異世界は滅ぶ

 母さんに勝てなきゃ、地球は滅ぶ

 父さんに勝つと、地球は滅ぶ

 母さんに勝つと、異世界は滅ぶ

 そして、何もしなければ全てが消える


「さて、悩んだところで目覚めの時間が近いのじゃが…」

 じゃが…

 じゃがいも…!

「ふふん。せっかくじゃ、一つだけなら目覚めた後も忘れることのない記憶を授けてやらんでもないのじゃぞ?」

 本当!?

「うむ。『みるみるみるちゃん 魔法の国の王女様 秘密の言葉は んんんんんー』じゃ」

 えーっ…

 それってぼくと奈落ちゃんがみるちゃん先生の屋敷で手に入れた合言葉だよね。

「うむ。本来の記録であれば夏休みの四日目にあの洋館を探索するのじゃ。先に知っておくとお得じゃよ?」

 あそこで直ぐに対みるちゃん先生用の武器が手に入るのは確かにお得だけど…

「あの屋敷は正直怖いからのう。今後、もしもアカシックレコードを修正するとして、こちはあの屋敷の記録を少しでも減らしておきたいのじゃよ」

 うーん、ちょっと分かる…

 でも、アビスなんて名前でお化けとか殺人鬼とかが怖いの?

「可愛いじゃろう?」

 うーん、どうせ覚えとくならさっきの滅びのことを…

「嫌じゃ」

 どうして…?

「あんなもの、テンゴクには関係なかろう?」

 そうだけど…

 それでも、あんなのってないよ…

「知っても、何も出来んじゃろう?」

 そんなの、ぼくには分かんないよ!

「ふん。テンゴクも所詮は人の身じゃな。滅びの跡に生まれる世界があることは想像しておらんじゃろう? 滅ばなければ生まれぬ世界の、その芽を摘むことを選ぶのかえ? さて、世界がそこまで記録と違ってしまえばアカシックレコードなど無用になるじゃろうな。テンゴクが一つの世界を救ったところで、それは数多の世界の未来を奪い、こちは不要と捨てられることになるのじゃ。良かったのう、世界が救えたならテンゴクは満足じゃろうな!」

 あっと…

 ごめん…

 そういうつもりじゃなくて…

「良いのじゃ。そういうつもりだったとしても、こちは譲らん。こちには記録しかないのでな、体験というものに憧れてしまっていることは否めんが、それ以上に…」

 うん、仲間になったら仲良くするよ。

「ふん、ならば目覚めてさっさと来るのじゃ。こちは千歳碧の所で待っておるでな」

 分かった。

 って、忘れちゃうんだったね。

「うむ。しかし、石精を千歳碧の所に連れて行くのは記録通りになりそうなのでな」

 ああ…

 マウプーは何があってもぼくに対してゴブリンの群れを出して、そして母さんに怒られちゃうんだろうね。


「ふん、そうであろうな…」


 あれ、どうして悲しそうなのかな?


「何でもないのじゃ…」


 でも、泣いてるよね?


「五月蝿い!さっさと起きるのじゃ!」


 それじゃあ、早く泣きやんでよね。

 気になって起きれないよ。


「為らば延々と泣いてやるのじゃ。テンゴクが帰らんようにの!」


 ああ、ただの甘えん坊だった。

 見た目相応な感じが逆に新鮮だね。


「こちとてアカシックレコードの記録はあれど、記憶と体験では今のジゴクと同程度なのでな」


 ふーん…

 あっ、分かった!

「何がじゃ?」

 さっき泣いたのって、記録の中では石精リプシー・マウレイって呼ぶだけだったのが、現実ではマウプーって呼んでるのが悲しかったんじゃないの?

「ふん… 悔しいが正解なのじゃろうな… 記録ではシュララバ・ラプトパとはパーティーを組まぬゆえ、テンゴクにはヤマブキネームに関しての知識は無いのじゃ」

 そもそも、アカシックレコードの奈落ちゃんがいるだけで大体のことは何とかなってたよね。

 奈落ちゃんと一緒にパーティーを組んでるのがもうチートだったって感じかな。

「ふん、こちが暴走すれば、それを止められるのは『勇者』であるテンゴクだけじゃったからのう。パーティーを組むことになるのもしょうがないのじゃ」

 そうだけど…

 あっ、いつの間にか泣きやんでるね。

「おっと、これは不覚じゃ。まあ良い、またすぐに会えるのじゃ。こちも一時の我慢くらいはするのじゃよ」

 よし、待っててね。

 忘れてたとしても、ショックを受けないでね。

「くどいのう。さっさと起きよ」

 よし、それじゃあ…


 またね!



海乃アビスという名前は今回の話を書いているうちに自然と決まっていました。

今では少し、気に入っています。

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