四日目、天苔と地苔は封印しよう
結局、撫子ちゃんを説得することはできなかった。
ぼくたちの誰もが「根拠がないでしょ」と言われると何も言い返せなかった。
最後は、みるちゃん先生の「おそらく、人間の場合は天魔と地霊っていう称号がつくだけだと思うけど、それが何にどこまで影響するのか、私には分からないわね」っていう言葉で、撫子ちゃんは契約を見送ることに決めたようだ。
しかたがないことだけど、ぼくは少しだけ寂しい気持ちになってしまう。
「そうだ。他の人格達はどうするんだ? 全員と契約するのか?」
うん?
そう言えば、今は他の人格達が出てくるのをみるちゃん先生が押さえてるんだっけ?
「どうしよ。他の人格って、コドモちゃんと、ヒツジちゃんと、トケイちゃんくらいしか知らないけど… 他にも居るんだよね?」
ここら辺の人格達は、さすがにちゃん付けした方が良いよね。
っていうかヒツジちゃんって群れだったし、ヒツジちゃん達って呼ぶべきなのかな?
いや、全然どうでも良い疑問だった。
「あとは天苔と地苔が居りまする。それ以外のものは人格というにはやや弱いかと…」
ジゴクの口から出てきたその名前…
今朝もちらっと聞いたけど、聞き間違えじゃなかったんだね。
これ、ラプトパの宿帳にジゴクが書いた名前を、シュラちゃんがジゴケって読んじゃったっていう名前でしかない。
そのあと、ぼくが『テンゴケ』『ジゴケ』と言いながら手を繋いで必殺技を出すふりかけ達をちょっと想像しちゃったけど、そんなものまで人格をもっちゃうのは大変なことだよね。
些細な想像が人格を持つのなら、ぼく達はこれから人格が大量に増殖していってしまう。
これは、どの程度の格を持っているところからが人格なのか、確かめておきたいね。
「それってどんな人格だったの?」
っていうか、人なのかなっていうとこから疑問だけど…
苔じゃないよね?
加工食品になってないよね?
「うむう… 説明するより、ご覧戴いた方が早いかと…」
うん、ジゴクが言いにくそうにしてる。
これは加工食品に違いない。
『テンゴケ』『ジゴケ』と言いながら手を繋いで必殺技を出す、そんなふりかけのキャラクター達だ。
「みるちゃん先生様! 天苔と地苔の御二人を呼び出して戴きとう御座います!」
みるちゃん先生達はいつの間にかちょっと離れた所に居て、皆でお菓子を食べていた。
あれ…
ずるい。
でもまあ、ぼく達の話が長いからしょうがないかな。
みるちゃん先生がこっちに来る。
「良いけど、あの子達って話し合いが出来そうには見えなかったのよね…」
みるちゃん先生が渋々といった感じで、指を空に掲げてぱちんと鳴らす。
すると、空にぴしりとひび割れるように亀裂が入って、そこから溢れんばかりの光が…!
なにこの登場の仕方っ!
演出が凄いんだけど!?
「ああ、私もあいつらとは関わりたくないかも…」
ヘルが呟く。
一応は自分の一部なんだから、関わらないなんて無理なんじゃ…?
でも、ヘルが普通に嫌がるってどんなだろ。
みるちゃん先生も渋ってたし、良い予感はしなね。
ううん、まずはしっかりと自分の目でどんな人格なのか確かめよう!
そして、空の亀裂から二人の人間が現れた。
それは、ぼくとジゴクの姿をしてるけど、肌も髪も真っ白い。
間違いなく自分と同じ形なのに、何故か神秘的だよ!
亀裂から溢れてる光が、二人の後光みたいになってるから余計にそう思えるのかな。
でも、これじゃ光天国と光地獄って感じだよね。
って、光地獄っていう名前には凄く違和感があるね。
闇天国も同じ感じなのに、そこまで違和感なかったんだけどなあ。
それにしても、どうして天苔と地苔なんて名前になったんだろう…
「神威が天苔」
「神威が地苔」
うわっ!
名乗ったよ!?
しかも神威とか神威とか、そんなよく分からない設定が今さら出てくるなんてびっくりだよ。
何だか偉そうだし、これは予想外のキャラだった。
白い二人は、手を繋いで頭上にかかげながら言う。
「「我らは天地を司る者なり!」
うわあ!
ぼく達と同じ顔で決め台詞なんて言わないでよ!
ポーズまでとってるし!
ほら、撫子ちゃんが大笑いしてる!
って、何故かぼくと同じ顔のくせにヘブンまで爆笑してるけどっ!
「ねえねえ!青磁くん! これも撮ってるよね!?」
「もちろん、全部とってるよー」
「やった! 後でまた見せてっ!」
なんて会話が聞こえてくるけど…
もう、これは聞かなかったことにしたい…
「先生っ! これは厳重に封印しといて下さい!」
すぐさま、空の亀裂が閉じていく。
「「我らは不滅である! 」」
なんて言ってるけど、天苔と地苔も亀裂の向こうに消えていく。
後光も消えた。
ふう、良かった。
「どんまいどんまい。また夢の中には出てくるかもしれないから、寝る前には心の準備をしておいた方が良いかしらね」
みるちゃん先生の忠告に、ぼくは溜め息を吐かずにはいられなかった。
急に寝るのが嫌になったよ!
「それにしても、ジゴクも、ヘブンも、ヘルも、三人ともさっきの天苔と地苔を知ってるのにさ、ぼくだけどうして知らないんだろ?」
ふとした疑問。
大した答えなんて期待してない。
「あら? 典語くんは地獄ちゃんを抱っこしたまま夢の中から消えてしまったのだけど、起きていたわけではなかったのかしら?」
だけど、その返答はあまりに予想外だった。
「いえ、ぼくは朝までぐっすり寝てましたよ」
うん、一度も起きてないはずだ。
「それだと私の感知スキルから外れないはずなんだけど… おかしいわね?」
まさか、ここに来て夢のことで謎が増えるなんて思わなかったな…
なんて考えを余所に、なんとなく先生に疑われてるような気がしたぼくは、つい言い訳めいたことを言ってしまう。
「だって、朝には謎の言葉をつぶやいちゃってたんですよ?」
そう、あれはみるちゃん先生と無関係だとは思えない。
「あら、どんな?」
うーん、ちょっと恥ずかしいけど、大事な証拠だし我慢して言おう。
「えっと、『みるみるみるちゃん 魔法の国の王女様~ 秘密の言葉は んんんんん~』 です」
いつ聞いたのか分からないけど、昨日寝てる間に聞いた言葉で間違いないよね。
「な…? 典語くん! どこでそれを知ったのかしら!?」
あれ?
みるちゃん先生ってば思ったより慌ててる。
きっと先生から聞いたんだと思ってたのに、そうじゃなかったってこと?
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
うん…?
何か変な音が…
「いけないっ! この夢が崩壊するわ! みんな、起きて!」
ええーっ!
まさか、さっきの謎の言葉のせいじゃないよねっ!?
昨夜の夢でテンゴクが何処に居たのか…
そこらへんはちょっとネタバレが多いので、近々おまけの方に載せるつもりです。




