四日目、四人な二人のネタばらし
そろそろバトルはしないようなので詐欺っぽいサブタイトルはやめにします。
闇天国が「いってえ…」って言いながら帰ってきた。
みるちゃん先生が居るからか、今度は闇天国がぶっ飛ばされる気配は無くてほっとする。
「お疲れ様。大丈夫だった?」
損な役割を買ってくれてるのかもしれない闇天国には感謝だね。
「ああ、ゴリラに蹴られたんだ。全然大丈夫じゃねえ…」
ああ、
うん…
「誰がゴリラよ!?」
闇地獄ちゃんが怒る。
「はっ! 誰でしょうね? 誰とは言ってないんで、各自のご想像にお任せしまーす!」
闇天国の挑発的な物言い。
やっぱり懲りてないよ!
また蹴られるよ!?
ひょっとしたら、闇天国はぶっ飛びたいのかな?
「あはははっ! 良い度胸じゃないの! ねえ、テンゴクはゴリラって誰のことか分かる?」
あっ、まさかここでぼくに話が振られてくるとはね!
これは困った!
ぼくの返答しだいでは、ぶっ飛ばされるのはぼくになりそうだ!
「うーん、ぼくは分かんないけど…」
けど…
けど?
つい、語尾がけどになってしまった。
そのせいで闇地獄ちゃんがぼくの台詞の続きを待っている…
「けど、なんなのよ?」
けど、なんだろうね?
もうぼくの頭の中は真っ白だった。
「えっと、ジゴクちゃんはどう思う?」
ここは仲間に頼らせてもらったよ!
「話の流れより察するに、ゴリラとは闇地獄のことで御座いましょう」
正面から受け止めちゃったよジゴクちゃん!
闇地獄ちゃんが驚愕に目を見開いてしまったよ。
だけどきっと、ジゴクちゃんの台詞にはいつもの通りに続きがあるはず…
「ならば、闇地獄と見た目を同じとするこちもゴリラという可能性が高いので御座いましょう」
ああ!
確かに、そうなっちゃうね!
でも、ここから話をどうもってくつもりなのかな?
このままじゃ、二頭のゴリラちゃんが誕生してしまうよ!?
「ところで、ゴリラとは何で御座いますか?」
あっ、そこからか!
そっか、そこからなんだ!
えっと、ここは言い出した闇天国に責任をとってもらおう。
「闇天国、ゴリラの説明をしてあげて欲しいんだけど」
ぼくの今の台詞でなぜか撫子ちゃんが爆笑した。
どこがツボだったんだろう?
まあそれは置いといて、闇天国はゴリラを説明することには露骨に嫌そうな顔をする。
当然、ぼくと闇地獄ちゃんにじろりと睨まれた。
「ちぇっ。んっとゴリラってのは、霊長類ヒト科の動物で、まあ人類の遠い親戚だな。あいつらすっげえ筋肉なんだよ。顔付きも歴戦の戦士みたいだから馬鹿力な奴のことをゴリラって揶揄したりすんだよ。 な?」
最後の「な?」でぼくに同意を求められても困るよね。
でもしょうがないので、ぼくは「だいたいそんな感じかな」って答えておく。
でも、ジゴクちゃんだけがゴリラを知らないのって、ちょっと変だね。
「ああ、おっかしいの。テンゴク達って分身して漫才する能力なの?」
撫子ちゃんが笑いを堪えながら聞いてくる。
「断じて違うよ。撫子ちゃん」
これって能力とは関係ない現象なんだよね。
多分。
「撫子様、闇地獄と闇天国は夢の中だけに存在する儚い人格だったのです」
ジゴクちゃんの説明。
「なにそれ? そんな馬鹿な話ってある? どういうことか分かるように説明して欲しいんだけど」
やっぱり納得しない撫子ちゃん。
「それじゃあ、後は先生から解説しますね」
ん?
みるちゃん先生が先端に星の付いたステッキをふりふりしながら説明してくれるみたい。
昨日は夢の中でジゴクちゃんを助けてくれたって話だから、今回の事情にも詳しいよね。
よし、みるちゃん先生の説明ならきっと分かりやすくて撫子ちゃんも納得してくれるだろうね。
「それじゃあ、まずは昨日の話からね…」
そして、みるちゃん先生から語られた真相は…
昨日、ジゴクちゃんと意識が繋がったまま寝てしまったぼくは、夢の中で意識が繋がるだけじゃ済まなくて、なんとジゴクちゃんと意識が混ざりあって一つになりかけていたらしい。
そのまま放っておくと大変なことになりそうだったから、先生が一つになりかけていた意識を分離してくれたんだって。
その時に闇天国や闇地獄ちゃんとかが生まれたみたい。
トケイちゃんとか、ヒツジちゃんとか、コドモちゃんとかも一つの人格になったのはその時らしい。
そして、人格が急に増えすぎたことの負担が大きくて、ジゴクちゃんの肉体面にまで影響が出て来てしまったのがさっきの不調の原因みたいだね。
あの屋敷の中だとちょっとしたことで不安になったり、ちょっと敏感になっちゃうらしいから、そこで堪えられないレベルにまで一気に負担が増したんだって。
今回の夢の世界の中では、闇天国と闇地獄ちゃんっていう二つの人格を理解することで、起きたときには負担も減ってるだろうって狙いがあったらしい。
あと、あの屋敷はみるちゃん先生のテリトリーっていう能力らしいね。その中で寝てるから、みるちゃん先生がある程度まで夢の内容を管理出来るみたい。
他の人格がわちゃわちゃと出てこないようにだけ、今はしてくれてるんだってさ。
寝てる時に心や記憶が整理されるから、しばらくはたくさん寝た方が良いってアドバイスももらったよ。
「さて、典語くん、地獄さん、闇天国くん、闇地獄さん。あなた達四人がこれからどうしたいのか、教えてくれますか?」
みるちゃん先生からの質問。
どうしたいって聞かれても、何を答えて良いのかぼくにはよく分からなかった。
その質問に真っ先に答えたのは闇天国だ。
「俺はさ、そのうちテンゴクかジゴクちゃんに混ざって消えるもんだと思ってたんだけどな。でもよ、闇天国は闇天国だってテンゴクに言われてさ、ああ、そんな風に考えて良いのかなって思ってからはなあ… なんつうか、俺として生きてみたいなあって思っちまってよ。そこからはけっこう自由に振る舞わせてもらってんだけど、案外受け入れて貰っちまってるんだよな。ありがてえよ」
ああ、闇天国がジゴクちゃん達から怒られるような振る舞いを始めたのって、ぼくが闇天国にその言葉を言ってからだっけ。
それまではジゴクちゃんと喧嘩みたいな言い争いはしてたけど、そんなに怒られたりしてなかったもんね。
ぼくが自分の責任は自分でとってよねって言ってからは飛び降りたり、蹴っ飛ばされたり、何だか自由度が増してるようなとこが確かにあった。
うーん…
自分の言葉が人に影響を与えたっていうのがちょっとむず痒い。
まあ、自由になったっていうなら、ぼくも言って良かったけどさ。
でも、そのせいで蹴飛ばされたりしてるのに闇天国はありがたいって言うんだから、これって実は中々重たい話なのかもね。
蹴飛ばされるより辛いことが、あの闇天国の中に有ったってことは、闇地獄ちゃんもそうなのかな。
「ばっかじゃないの? テンゴクがどんなつもりだろうとさ、私たちが消えちゃうことに変わりないでしょ? 身体は二つしかないんだからね!」
「そりゃあそうだけどな、だからって、今此処にいることは変わらないんだよ。消えるまでは生きられるって、普通の人間と同じなんだぜ?」
「だからって、あんまり迷惑かけたくないでしょ? 私の意識が強く残っちゃったらどうするのよ? そんなテンゴクは見たくないのよ…」
闇地獄ちゃんの意外な本音。
確かに、ぼくはツンデレにはなりたくない。
闇天国も消えることを受け入れて諦めてるだけだった。
なるほどね。
案外に、闇天国達も自分のことになると頭が回らないのかもね。
お節介な人ってそういうとこあるもんね。
「闇地獄ちゃんも闇天国も、何か忘れてない?」
「何よ?」
「何だよ?」
ぼくには上手くいく保証はなかった。
でも、此処は異世界で、ぼく達はまだ、この世界ことは少ししか知らないはずだ。
「もう少し、仲間を信じて頼ってみても良いんじゃない?」
闇天国の台詞をそっくりそのまま返させてもらう。
そのまま、ぼくはみるちゃん先生に向き直る。
異世界のことならこの中で一番詳しいはずだもからね。
「みるちゃん先生、何か良い方法はありませんか?」
にっこりと笑うみるちゃん先生の返答は、期待通りのものだった。
「あるわよ。二人が四人になる方法」
やっぱり!
なくてもしょうがないかなって思ってたんだけど、異世界の可能性ってのは想像の範疇には収まってくれないのが普通なんだよね。
「まあ、私も碧に相談しに行ったんだけどね。そしたら教えてくれたわよ。あなた達だけで出来る手段の中にも一つあるわ」
ん?
ぼく達だけでできる手段?
なんだろう。
昨日の極化状態でしたみたいにマナを固めて肉体を作るとか…?
神をも恐れぬ人体創造の秘術を、ぼく達は手に入れてしまうのだろうか…
「なるほど、『天魔契約』と『地霊契約』を使うのではないでしょうか?」
ああ、契約したらリプシー・マウレイも種族が変わったって言ってたし、闇天国と闇地獄ちゃんも天魔とか地霊になっちゃうのかな?
「はい、地獄さん大正解!」
みるちゃん先生が星のステッキをふりふりする。
あれ、ステッキを振る度に金平糖みたいな星屑がきらきらとこぼれてる。
なんだろあれ…
って、話の流れと関係ないとこが気になっちゃった。
ぼくの予想が外れたからって拗ねてるわけじゃないからね!
「でも、それをすることで将来へどんな影響が出るかっていうのは未知数なんです。人格が一つ身体の中から消えてしまうなんて話、前例がありませんからね」
なるほどね。
それでも答えは決まってるよね。
ぼくは闇天国にも、闇地獄ちゃんにも消えてほしくはない。
「それじゃあ、『契約』しようか」
うん、それ以外には考えられないよね。




