四日目、テンゴクvsジゴクちゃん、その5
んー、なぜかジゴクちゃんと闇地獄ちゃんが離れられなくなった。
ぼくの正面にいる二人は、小さな椅子に二人で座ってる時みたいに肩を寄せあっていた。
これ、ぼくに二つの『天化』がかかっているせいなのかな?
「えっと、本当に離れられないんだよね?」
闇地獄ちゃんの方は甘えたいだけだったりして…
「当たり前でしょ? こんながっちりくっついちゃったら私だって迷惑よ?」
確かに、身動きとれなそうだもんね。
ぼくとは手を繋いだままだし、ジゴクちゃんとは肩を寄せあってぴったりくっついてるし、ここまで離れられなくなるとは思ってなかった。
闇地獄ちゃんの顔がちょっと赤い気がするけど、肌の白いジゴクちゃんと並んでるからそう見えるだけかもね。
「ふむ、想像するに、一人の人間に二つの『天化』がかかっていれど、天地の方向は一つにまとまるので御座いましょう。よって『地化』された者達はこのように…」
「なんであんた冷静に分析してんのよ? こっちはあんたと離れたくて気が気じゃないっつうのに!」
多分、それは八つ当たりだよね。
気が気じゃないのは嫌だからってわじゃないんだろうし。
「そうで御座いますか。そちはこちとテンゴクの意識の繋がりより生じたもので御座います。触れ合うことを拒むほど嫌ってはおりません」
「はあ!? なにそれ!? さっきは天地が裂けても真っ平ごめんとか言ってた癖に!」
「テンゴクの提案を一蹴し、闇天国に粗暴を働き、こちとは言い争う始末。そこに苛立ち、あのように言い返してしまう程度にはこちも幼いので御座います。まだまだテンゴクの境地には至れませぬ」
ぼくの境地ってなに!?
「そも、闇地獄がこち達にツンデレなる病を発症しているということは闇天国より申し伝えられている所以、その事で闇天国を今のように蹴り飛ばす必要は御座いませぬ。既に知っているのですから」
うわあ!
すでにジゴクちゃんに言っちゃってたんだ!
いや、心の中で伝わっちゃっただけかな…?
でも、こりゃあ闇天国は帰ってきたらまた蹴られるだろうね。
今度はぱっと見て分かるくらい闇地獄ちゃんの顔が真っ赤になっている。
ジゴクちゃんのことは蹴り飛ばせないようでちょっと安心かな。
この三人がくっついてる状態で、誰かに強い力がかかったら周りがどうなるのか想像できないもんね。
「はっ、はははははははっ! ははははははははははっ!」
闇地獄ちゃんが笑いだした。
ちょっと怖い。
照れと怒りで大変なことになってるみたいだね。
「あいつ! 帰ってきたらぶっ飛ばす!!」
自分でぶっ飛ばした闇天国なのに帰ってきたらまたぶっ飛ばす宣言。
うん、なんて可哀想な闇天国。
軽い発言からの自業自得のような感じもするけど、ひょっとしたら素直になれない闇地獄ちゃんの為にわざとやってる可能性もあるよね。
闇天国のことをお節介って言ってたのは闇地獄ちゃんだ。
意外と苦労人なのかもしれないね。
とりあえず、ぼくは闇地獄ちゃんに殴られないように言葉を選びながらジゴクちゃんに説明する。
「ええっと、闇地獄ちゃんってさ。コドモちゃんのジゴクちゃんがぼくの中で変化した姿らしいんだよね。だから、甘えたいけど恥ずかしいって思ってるみたいだからさ、何も言わずに、何も聞かずに、頭でも撫でてあげて欲しいんだけど…」
意思を確認すると反発してくるめんどくさい子は無理やり可愛がるしかないよね。
「はあ? なんでそうなるのよ!? 私が甘えん坊みたいなこと言わないでよね!」
何やら叫んでる闇地獄ちゃんのことは無視して、ジゴクちゃんがぼくの方を見てくる。
ぼくは何も言わずに頷いた。
「なるほど。然らば後免!」
まるで、切り捨てごめんとでも言うように言い捨ててから頭を撫でるジゴクちゃん。
片手はぼくと繋ぎながら反対の肩は寄せあってる姿勢だから、頭を撫でるには闇地獄ちゃんの背中の方から手を回して、頭をピタッとくっつけながら撫でるしかない。
撫でられてる闇地獄ちゃんは何とも幸せそうだった。
こんな顔も出来るんだね。
でも、ジゴクちゃんが何やら難しい顔をしながら闇地獄ちゃんの頭を撫でている。
「ふむう、撫でるとはこのようにすれば良いのでしょうか? こちには闇地獄の表情が見えず、これで良いのかが分かりませぬ…」
ああ、そりゃあ分かんないよね。
二人とも横に並んでるから表情までは見えない。
闇地獄ちゃんはまるで撫でられてる兎みたいに幸せそうにしてるし、このやり方で大丈夫だよね。
見えてないからこそ上手くいってるとこもありそうだ。
それをジゴクちゃんに伝えようとした時、闇地獄ちゃんがぼくを睨んできた。
まるで兎から虎にでも豹変したみたいに…
ああ、余計なこと言わないでよねってことかな。
これは素直に「闇地獄ちゃんは幸せそうだよ」なんて言ったら、闇地獄ちゃんの照れ隠し攻撃が誰に炸裂するか分からないね。
よし、ここは「うーん、どうだろう。よく分からないからもうちょっと撫で続けてみて」って言っとこう。
あっ、闇地獄ちゃんから餓えた肉食獣みたいな気配が消えて、お腹いっぱいの幸せ兎みたいな表情に戻ったね。
良かった良かった。
「なかなか難しいもので御座います。どのようにするのがもっとも良いのでしょう。」
それで良いみたいだよー
ん?
違うな…
質問してるジゴクちゃんも何故かにこにこと微笑んでるよ。
ああ、ジゴクちゃんってば、ぼくの表情から闇地獄ちゃんの状態を予想してるっぽいね。
なるほど、幸せそうな闇地獄ちゃんを見て和んでるぼくを見て、それでジゴクちゃんは上手くできてることに気付いたみたいだ。
流石にそれには気付いてない闇地獄ちゃん。ぼくのことをまた睨んでくるね。
手間のかかる子ってこういう子のことを言うのかな?
「うーん、これじゃあ全然って感じかも。でも、今の状態じゃ他に何も出来ないと思うからこのまま頑張ってみて!」
闇地獄ちゃんが幸せ兎に戻った。
ぼくの答えは正解だったみたいだね。
「戦ってると思ってたんですけど、典語くんって、いつの間にか女の子といちゃいちゃしてるんですね」
ん?
この声は…
空の方から聞こえてきたけど…
ふわりと砂地の地面にみるちゃん先生が降り立った。
ジゴクちゃん達の背後に立ってぼくを見てくる。
ジゴクちゃんは平常心を保ってそうだけど、闇地獄ちゃんは顔をひきつらせてる。
「異世界でだって、夢の世界でだって変なことしちゃだめですよ? ここって先生の先生による先生のための夢の世界ですからね。全部見せられちゃう先生の身にもなってください。あっ、心の中までは見えないので、そこは安心しても良いですよー」
うん?
ここまでの出来事を全部見てたってこと?
いや、まあとくに見られて困ることはなかったはずだけど…
先生がぱちんと手を頭上で鳴らす。
それだけで、ぼくたちの『天化』と『地化』が解除されたのが分かる。
くっつく力が無くなると、恥ずかしくなったのか闇地獄ちゃんがぼく達からぱっと離れていった。
「ふん、あんなにくっつかれるのは良い迷惑よ!これで清々したわ!」
うん、嫌そうなのか残念そうなのか表情からは判別できないね。
それにしても今の、夢の中だからだよね?
手拍子一つで能力リセットだなんて、こんなことが出来る敵がいたらぼくたちには勝ち目がない。
ジゴクちゃん達は並んで立ってると双子みたいだね。
性格は全然違うけど…
「典語くん。どうして先生から目を逸らすんですか?」
うーん、何かやましいことがあった気がして…
なんだったっけ…
「もう、さっきキスしてたことなら先生は怒ってませんから気にしなくても良いんですよ?」
あっ!!
そう言えば闇地獄ちゃんって登場した時にはクールぶってちゅーしてきたんだよ!
あれってちょっと…
「ちょっとテンゴクー! そこんとこ詳しく教えないとクラス中に言いふらすよ!」
うわあ!
どうせ言いふらされるなら何も言いたくないんだけど!
背後に、居るのは!
「よーっす!」
撫子ちゃん!
その後ろに青磁くんとシュラちゃんも居るよ!
「テンゴくん達の戦いもちゃんと撮ってあるから後で見ようね!」
撮ってるってなんなの青磁くん!
青磁くんの天職って動画配信者だったよね。
どこから撮られてたんだろ!?
ぼくの泣き顔での情けないキスシーンが全世界に配信されるってことはないよね?
なんて怖い能力だろう…
「それより!どうして分身してるんですか?」
シュラちゃんからの真っ当な疑問が来た。
っていうか、普通はみんなそこが気になるんじゃないかって思ってたけど、一番最後に聞かれるとはね。
「ぼくとジゴクちゃんの意識が繋がった時に、お互いに変化しきれない部分があって、それが一人の人格となったのがこの闇地獄ちゃんね。もう一人、ぼくとそっくりな闇天国も居るよ」
「えっと、すいませんが理解が追い付きません!」
だよね!
ひょっとしたら後で書き直すかもしれません。
9/19 少しだけ細部を直しました。




