2日目、お昼ご飯
「ひょっとして今日はアレなの?」と山吹さんに聞く。
ちょうど料理を持ってきた山吹さん。
「あぁ、今日はコレだよ」
ドンっと置かれるお皿が2つ、鼻を刺すスパイスの香り、今日はカレーの日だったようだ。
山吹食堂ではたまに、メニューがカレーしかない日があるのだ。知らずに来たお客さんはビックリすると思う。
「あと、二人とも、食べたら奥に来いってさ」
厨房の方をくいっと指差す山吹さん。
何だろう?
でも、まずは、
「いただきます!」っとカレーを食べる。もちろん、スプーンで。
山吹食堂のカレーはとっても美味しい。もう本当にスプーンが止まらないくらいに、ずっと食べていたくなる。
カレーライスように、店長が自慢する一品なだけはある。いつ食べても、とっても美味しい!
ふと、女の子の方を見ると、カレーを食べずに、じいっとぼくの方を見ていた。「冷める前に食べなよ」っとぼくが言うと、こくこくと頷き、ぼくと同じように「いただきます!」と言ってスプーンを持つ。
「これですくい、召するのですね。人の食事は初めてなので緊張します」
スプーンを見つめながら変なことを言う女の子。そのまま、ぼくと同じような動きでカレーを食べ始める。
ひょっとして、ぼくの食べ方をマナーか何かだと勘違いして、同じように食べようとしているんだろうか。
ぼくと同じ動きなのに、女の子がしてると下品に見えることが少しショックだ。
食べ方まで教えられないし、「ゆっくり食べて良いんだよ」とだけ言ってあげる。
驚いたようにこっちを見る女の子は
、何故か涙目になっていた。
「人の食事が、このような熱い料理をこのように激しくいただく、難度の高い儀式だとは思わず。未熟で至らぬこちへの配慮、感謝します」
救われたような表情に、熱々のカレーを食べるのが辛かったんだな、ってことは分かった。
「自分のペースで食べたら良いよ。食べ方も決まってないからね。ぼくも、普通に自分の食べ方で食べてるだけだよ」
ぼくは当たり前のことを言う。
「そのような自由な、、いえ、それが人としての在り方なれば、」
マナーにうるさい場所で育ったのかな。色々と常識の違う場所もあるんだな。
当たり前というやつは、自分にとっての当たり前なのだ。人に押し付けるものではない。という父さんの言葉を思い出す。確かに、押し付けにならないように注意しないとね。
でも、あの時の父さんは、自分のやりたくないことを避けるためにこんな言い回しを使っていた気がする。聞いたときは、それは自分勝手だと思ったんだよね。
さっきよりも、ゆっくりとスプーンを動かす女の子は、カレーを一口食べて「大変、美味しくございますね」と笑顔になった。




