2日目、山吹食堂その1
お店に入るなり、「バカみたいな顔で突っ立ってないで、さっさと座んな!そっちの嬢ちゃんもね!」と怒鳴られた。
ぼくの勇ましいつもりの顔は、山吹さんには通じなかったようだ。
内心では軽いショックを受けつつも、山吹食堂の名物「挨拶代わりの怒鳴り声」はいつものことなので怖くはない。
女の子の方はびっくりしているようだったけど、ぼくの後ろに付いてきた。あっ、向こうに座ってね、っと手を指し示し、ぼくの正面の席に座ってもらう。
うん、流石に後ろに立たれてたら食べ辛い。
小さい子だと、山吹さんに怒鳴られて泣く子もいるので、この店には子連れが少ない。大人だって、怒鳴られるのが好きな人は居ないので、この店にはお客が少ない。
いや、いつもお昼前に来るからそう思うだけかも。料理は美味しいから、常連さんは多いと思う。多分。
それに山吹さんは美人だ。大学を出てからずっとお店で働いてるけど、根はいい人だから店の外ではモテるはず。
あぁ、そうだ。ちゃんと紹介しとかないと。
「怒鳴ったのが山吹さん、このお店の看板娘。で、奥にいるゴツい人が店長だよ」
山吹さんが働く前は、店長が怒鳴っていたから本当に怖かった。怒鳴るのがお店の伝統なのか、家族だから似てるのか、どっちなんだろう。
そうだ。「山吹さん、彼女も今日からお昼食べさせてもらって良いですか?」と、聞いておく。父さんが誘拐してきたのでぼくが面倒見ることになりそうなので、とは言えなかった。
「親戚の子かい?あんたんとこの親は、またどっか行っちまったのか?」
「夏休みの間は帰ってこないと、手紙に書いてました」ぼくは曖昧に頷きつつ返事をする。 親戚の子って良いね。とりあえず今度からそう言うことにしよう。
「まったく、きざしの旦那もふざけた野郎だねぇ」と山吹さんが言ってくれた。ぼくも全く同意見。山吹さんは言うことがいつも頼もしい。
それもあって、ぼくはこの食堂が大好きなのだ。
何故か入り口では怒鳴られるんだけどね。




