四日目、朝から人格の話をする小学生
ジゴクちゃんの本当の人格…
これって難しい問題だよね。
今の普段のジゴクちゃんの人格は父さんに与えられたみたいに言ってたっけ…
夢の中で会ったトケイちゃんとヒツジちゃんは置いとくとしても、コドモちゃんはジゴクちゃんの幼い部分のように思える…
ひょっとしたら、ジゴクちゃんに幼いところがあって当然っていう、ぼくの意識から生まれたって可能性もあるかな。
トケイちゃん達の行動もぼくの意識の影響を受けてたようだったし、そういう部分があってもおかしくないよね。
それでも、どれが本当の人格かって考え出すと、うん、難しい問題なわけだ。
そもそも、人格ってあやふやなものだもんね。
どこまでが性格で、どこまでが人格なのか…
それ以前に、自分の中に二つの人格があったとしても、それが自分にわかるのかな…
例えばドーナツを見て、美味しそうだから食べたいなって思うときと、今日はちょっとドーナツって気分じゃないなって時の自分は、何をもって同じ人格だと言えるんだろうか?
記憶を共有している、趣味や嗜好だけが違う別人が自分の中に居たら、それだけじゃ自分自身とは見分けがつかない。
じゃあ、ジゴクちゃんが別の人格に変わったらどうなるかな?
ぼくは気付けるだろうか…
そもそも、変わるなんていう分かりやすい状態にはならずに、少しずつ別の人格が混ざっていくのが普通だよね…
うん、それってもう成長したとか思っちゃいそうだよね。
流石に、夢の中の勝負で負けたから今日からトケイちゃんになっちゃいました、ってことにはならないだろうし…
「テンゴク、立ったまま眠って居られるのですか?」
おっと、考え込んじゃった!
「ううん、もしもジゴクちゃんが別の人格になっちゃったら、ぼくには見分けがつくのかな?って考えちゃってさ…」
まぁ、ジゴクちゃんがジゴクちゃんらしく変化していくのは当然だから、人格がどうこうっていうのは考えすぎだよね。
「こちの夢の中に現れたような幾つかの人格が、こちの中で自然と淘汰され、併合され、混ざっていくことで、こちという個性を形作っていくので御座います。どれもこちである以上、テンゴクが見分ける必要は御座いません…」
うん、ジゴクちゃんの意見には、いつも続きがある。
だからぼくは、続きを待つ。
「これは、こちのような生まれてから日の浅い人格にとっての固有の問題なのかもしれません。こちの中で生まれていた様々なこち達が、いつか成長するまでの、こちは揺りかごのような役割なので御座いましょう」
淡々と話されるそれは、だけど…
「いつか、今のジゴクちゃんが消えちゃうってこと?」
そうだとしたら、悲しいことだよね。
「さて、人は皆、成長していくので御座います。今の自分でなくなることを消えるというなら、人は皆、消えていくので御座いましょう」
それは、そうなのかもしれないけど…
「ぼくは、今のジゴクちゃんにも消えてほしくないよ」
ジゴクちゃんはにこりと笑う。
「今のこちにとって、テンゴクの望むこちになることが最も強き願望で御座います。消えてほしくないという言葉で、こちの今の人格が強くなったことは間違い御座いません」
うーん、それはそれでぼくの責任が大き過ぎるような気もするけど、異論はないし良いかな。
「しかし、時計と羊と幼女のこちはテンゴク派なので問題はないのですが、ダークテンゴクとダークジゴクの二人には、ちと危険があるやも…」
その二人は昨日の夢では見てないね。
ぼくが寝てからの夢に出てきたのかな…
「それってどんな奴らなの?」
ダークなんとかって名前からして悪そうではあるけど…
「あの二人は、おそらく以心伝心モードの影響で生まれたのでしょう。こちとテンゴクの意識が繋がっている最中に、こちの中で二人の人格が混ざり新たな人格として形成されたように思います。 あれら二方はこちとテンゴクが仲良しごっこをしてるのがつまらないなどと申した挙げ句、もっと全力だそうぜなどと主張した次の瞬間には、だらだらと生きようぜなどと言う荒唐無稽ぶりが… その… 癪に障る方達で御座いました…」
うーん、ぼくまでジゴクちゃんの中でダークになってるのが謎ではあるけど…
「ジゴクちゃんの、今の人格と相容れない部分が集まった感じなのかもね」
夢の中だけで大人しくしててくれると良いけどね…
「そうやもしれませぬが… ああっ! テンゴク!」
急に慌てだしたジゴクちゃん。
「どうしたの?」
何か重要なことを思い出したのかな?
「幼女のこちがテンゴクに甘えてたと申されておりました! そ、その、抱き、抱きついたなどという破廉恥を致してしまったと!」
あああっ!
覚えてたんだ!
いや、ジゴクちゃんは聞いただけっぽい!?
コドモちゃん…
いや、ヨウジョちゃんかな…
やっぱりコドモちゃんで良いかな…
なんて考えてる場合じゃないよ!
「気にしなくて良いよ! コドモちゃん… ジゴクちゃんの幼い部分をコドモちゃんって呼んでるんだけど… その、幼い部分がジゴクちゃんの中にあるのはしょうがないからね! まだ、生まれて三日目だったんだし!」
それに、とても素直なコドモちゃんの、その意識がぼくにも伝わってたから、その影響で抵抗できなかったのが今なら分かる。
意識が繋がってる時って、強い気持ちには一緒に引っ張られちゃうのかも…
ジゴクちゃんならともかく、それ以外の部分と繋がっちゃったらけっこう危険かもね…
「いえ、違います! こちは、それがとても羨ましく思い! 幼女のこち… そのコドモちゃんには『素直になろうよ』という助言を頂いたので御座います。その助言に従いますならば… こちも… その… お姫様抱っこというものをしていただきたくっ!!」
そうきたか!
「ああ、シュラちゃんが山吹さんに抱っこされてるの見て羨ましかったってコドモちゃんも言ってたもんね。そりゃあ、ジゴクちゃんも羨ましかったってわけだよね」
それならしょうがないかな…
でも、夢の中じゃないからなあ…
ぼくには女の子を一人、持ち上げられると思えない。
「まあ、夢と違って、ちゃんと出来るか分からないけど…」
ぼくは両手を前に出す。
ジゴクちゃんが、その手にもたれるようにしなだれかかる…
ううん、やっぱり夢とは違って…
いや、とってもリアルにジゴクちゃんの体が温かい…
なんとか持てたけど…
やっぱり、リアルの重さは一味違うね!
「えへへへ、こちは幸せ者で御座います」
嬉しそうなジゴクちゃんの、おそらく実際に言うには始めての「えへへへ」っていう笑い方…
意識の中での会話中しかしてなかった笑い方が素直に出てきたことが、ぼくも微笑ましくて…
ジゴクちゃんと一緒に「えへへ」って笑いあってしまう。
ちょっと照れくさいのもあるけどね!
コンコンッ!
ガチャ!
うわあ!
宿屋の部屋のドアが開けられた!
「おはようございます」
挨拶とともに現れたのはシュラちゃん。
ぼくがジゴクちゃんをお姫様抱っこしてるのをにこにこと見てる。
そんなシュラちゃんと、ぼくは目があっている!
「おはよ…」
ぼくは何とか挨拶をする。
「はい、朝からラブラブなのは分かりました。ごちそうさまです。だけど、ちょっとお邪魔しちゃって悪いんですけど、お二人に来客ですよー。下まで来てもらえませんか?」
いやあああああ!
そうだよ、ここは宿屋の一室!
宿屋の娘のシュラちゃんが、ぼくらの仲間のシュラちゃんが、用事があって入ってくるなんて必然的な当然だよね!
恥ずかしい!
でも、来客って誰だろう?
上手く書けてるか分かりませんが、ジゴクちゃんと意識の共有を繰り返した結果、テンゴクの語彙力が向上しています。
なんて便利な睡眠学習か…




