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HEAVEN AND HELL  作者: despair
三日目、夢編
117/214

三日目、夢の中、みるちゃん先生登場、そしておやすみへ


 全校生徒がぼくとジゴクちゃんを見て何やらわいわいがやがやと騒いでいる中、ぼくのクラスの5年A組の中から先生が飛び出してきた。

 いや、文字通りにね、ホウキに乗って飛んで出てきたんだよ。

 5年A組の担任、海松色みるいろ 海松茶みるちゃ先生、通称みるちゃん先生。

 自分が魔法使いだとかっていう冗談をよく言ってるから、そのイメージが夢に出ちゃったのかな。

「てんごくーん! なでしこちゃーん! 早く教室に入らないと遅刻よー!」

 それだけ言って教室へと帰っていくみるちゃん先生。

「うわー、もうこんな時間だよ。二人とも早く行かないと、遅刻したらみるちゃん劇場が大変なことになるよ」

 明け透けな性格と喋り方の撫子なでしこちゃん、彼女には隠し事なんてしない方が良いのは間違いないし、さっきみたいにちょっとしたことでも彼女に見つかってしまったら、次の日には全校生徒に広まってるくらいは想定するべきだ。

「うん、そうだね」

 って、返事してる間に撫子ちゃんは教室へと歩き出していた。

「ジゴクちゃんも行ってみる? 生徒じゃなくても夢の中だから大丈夫だと思うよ」

 撫子ちゃんも、二人ともって言ってたしね。

「うん、こちもあの教室に入りたいよー」

 そう言って、宙へと浮かび上がり、教室へと真っ直ぐに飛んでいくジゴクちゃん。

「いや、いくら夢でも飛んじゃだめ!」

 すいーっと方向転換してぼくのところに戻ってくるジゴクちゃん。

 ほっ…

 いくら夢でも…

 ううん、夢だからこそ、いつかジゴクちゃんが本当に学校に行くことになった場合に必要になるだろう常識を、ここで覚えてもらうべきだと思うんだよね。

 その第一歩として、まずは飛んじゃだめってとこから始めよう、うん。

 まあ、地球じゃさすがに飛べないと思うけどね。

 異世界イツ・ルヒでも、普段から飛べるわけじゃないし…

「みるちゃん先生だっけ? さっき飛んでた人いたよー?」

 うわあ!

 そうだよ!さっき先生が飛んでたよ!

 名前はぼくの心の中を読み取って知ったのかな、まあ紹介が楽で良いね。

「せ、先生は良いの!」

 うん、苦しい説明だった。

 こんな適当な話には誰も納得しないよね。

「もー、テンゴクがてきとー言ってるよー」

 うんうん、そりゃあバレる。

 ぼく自信が苦しい説明だって思ったところまでジゴクちゃんには伝わってるだろうし、とことん本音でいかないと話がややこしくなりそうだね。

「ジゴクちゃんに学校でのルールとか常識とか、ちゃんと知っといて欲しいんだよ!」

 これならどうだ!

「そうなんだー」

 ジゴクちゃんがすたりと地面に降り立つ。

 夢とは言っても自由だね。

 本気でいった場合なら素直に聞いてくれるみたいで安心だけど、ぼくの言った内容を自分で考えてくれてないようにも思う。

 そういうところも普段のジゴクちゃんとは違うってことかな。

 いや、ジゴクちゃんだし、さらっと内容も理解してる可能性は高いけどね。

「こち、テンゴクが歩くなら一緒に行くよー」

 ぼくの横を歩いてついてくるジゴクちゃん。

 とても無邪気に、にこにこと笑いながら……

 ぼくは少しだけ、普段のジゴクちゃんならどう行動するのかが気になった……

 だけど、いつものジゴクちゃんは夢の中には出てこないみたいだ。

 うーん…

 ジゴクちゃんにとってはこれって夢だし、何を学んだところで明日には忘れてるかもしれないかもしれないなあ…


 さて、気が付いたら5年A組の教室の前の廊下に立っていた。

 歩いていくだの常識だのと言ったところで、けっきょくここは夢の中だ。

 気を抜けば瞬間移動だってしちゃうわけだね。

 うーん…

 これはいよいよ、いっそ夢だと割りきってしまう方が良いのかも…

 5年A組の教室のドアをがらがらっと開けて中に入る。

「おはよー」

 

 ……………

 

 おっと教室の中はしーんとしてる。

 みんな着席して、礼儀正しく背筋伸ばして座ってるよ。

 こんなの学校で見たことないよ!

「はい、典語くんも着席して下さい」

 みるちゃん先生も真面目な顔だ。

 ぼくは自分の席に座る。

 ジゴクちゃんもついてきて、そのままぼくの膝の上に座る…

 って、ちょっと!!

「ちっちゃいイスだねー」

 じゃなくて、恥ずかしいから!

 教室の中でこんな…

 って、あれ…

 みんなしーんってしたままだよ…

 礼儀正しく背筋伸ばしたままだよ…

 こんな絶好のネタを爆笑も嘲笑もせずに放っておく小学生ってなんだか気持ち悪いレベルだよ!?

 みるちゃん先生も、やっぱり真剣な顔だ。

 いつもにっこりしてるのに、今は真面目な顔で出席簿をパタンって閉じてぼくを見つめてくる。

 みるちゃん先生の真剣な眼差し、初めてみたかも…

「先生、典語くんがそんなに女ったらしだったなんて知らなかったわ… クラスの班分けもいつも女子ばかりと組んでたり、授業の時もよく女子の中に1人だけ典語くんが居るっていうグループがよくできる気がするなあって、ちょっと薄々は思うところもあったんだけどね… でも、そんなお膝の上に抱っこしてあげるとか… そういうのはもう先生としては見過ごせないなあって思うの…」

 いやいや、誤解だよね!

 そもそもこのクラス、23人中で13人が女子なわけで…

 つまり、ぼく以外には男子が9人と、女子が13人なわけで…

 ぼくのクラスは、5人組の班が3つと、4人組の班が2つに別れるから、合計5つのグループが作られるんだけど、9人を5班で割ったらどこか1つの班は絶対に男子が1人以下になる計算だよね!

 しかも、出席番号でぼくの前の3人が女子ばっかりなんだよ!

 これって先生達のクラス分けの被害者であり、濡れ衣であり、言い掛かりであると思うんだけど!

 なんて言い訳、ジゴクちゃんを膝の上に抱っこしてる以上はしても意味がないんだけどね。

「こち、どくね」

 ひょいっとジゴクちゃんが立ち上がって、寂しそうに隣の席に座る。

「おじゃまでしたー」

 むすっと膨れるジゴクちゃん。

 うん、巣立てて良かった。

「地獄さんは偉いですね。これからは学校の中ではあんまり典語くんに甘えないようにして下さいね。先生、羨ましくって魔女の呪いをかけちゃいますからね」

 ん?

 今の先生がジゴクちゃんを生徒としてあつかったのかな。

 まあ、調度良いけど…

 いや、羨ましいってなんなのかな!?

 魔女の呪いってとこは、いつもの冗談だから良いけどさ。

「はーい、これからはお外で甘えまーす」

 ジゴクちゃんのはっきりとしたお返事…

 って!

 ちがうっ!

「げふっ! あー、はい! お外でもダメです!」

 しょんぼりとするジゴクちゃん…

 アカちゃんモードのジゴクちゃんには小学校は厳しいのかもしれないね…

「さて、典語くん、これはどういうわけなのか、そろそろ説明してくれるかな?」

 みるちゃん先生が怒ってる、気がする…

 うーん、夢の中だし正直に言っちゃっても問題ないかな…

「えっと、ジゴクちゃんはまだ自我が生まれてから三日しか経ってなくて… 普段はもっとしっかりしてる… っていうか、ぼくよりも断然良い子だし、頭良いし、周りの事もしっかり見てる感じなんですけど… 多分ですけど、ジゴクちゃんの中で与えられた人格とかいうやつじゃない、経験に相応する自分自身っていうのが出来上がり始めてるんじゃないかなって思うんです。今までは弱すぎて見えなかったジゴクちゃんの幼い部分が、夢の中っていう場所で1人の人格として歩き出したんじゃないかなって… だったらぼくは、ジゴクちゃんにもちゃんと精神年齢相応の、小さい子どもみたいな経験もさせてあげたいなって思うんですよね。いや、さすがに現実であんなに甘えられたら恥ずかしいですけど、夢の中くらい素直になっても良いじゃないですか? まだ生まれて三日目の自我が甘えることを許されないなんて、そんなことは先生だって許せないんじゃないですか?」

 うん、一通り言っちゃった。

「テンゴク、こちのことちゃんと考えてくれてるんだ。えへへへへ」

 嬉しそうなジゴクちゃんの幼い自我。

 ぼくもジゴクちゃんには常識を覚えて欲しいだのと言っといて、先生に対してはこんな風に言っちゃうんだから、けっこう反発してるだけなのかもしれないね。

 まあいいや、どうせ夢だしついでに…

「そもそも、みるちゃん先生だって自分を魔法使いとか魔女とか言ったり、呪いなんかでおどかしてくるんだから、先生としては問題なんじゃないかなって思います。別に嫌ってわけじゃないんですけど… いいえ、嫌ってわけじゃないからこそですね… 先生が自分が魔法使いだとかいう冗談を皆に受け入れてもらってるのと同じくらいには、ジゴクちゃんの幼さも受け入れてあげて良いんじゃないかなって、そう思うんですよね」

 そうじゃないと、対等な関係とは言えないよね。

 先生って偉いのかもしれないけど、それには敬うっていう形で返してるんだし、学業以外のことでは対等であるべきだと思う。

 まあ、人生経験の差ってのはしょうがないけど…

 んー、なぜかぼくはちょっとだけイライラしてるみたいだよ…

「そっか… 先生、典語くんの考えはよく分かりました。普段からもっと、ちゃんと自分の考えを言ってたら、典語くんは本当にモテるかもしれませんよ。自信を持ってくださいね」

 うん?

 別にモテることは目指してないけどね…

 それより、みるちゃん先生って夢のわりになんだかリアルだね…

「だけど二つだけ、先生として指摘しておきましょう」

 すっと、顔の前に人指し指を一本立てるみるちゃん先生。

「一つ目は、典語くんも地獄さんに甘えられることに悪い気はしていないということに触れなかった点ですね」

 うん!?

「地獄さん、可愛いですもんね。良い子ですもんね。引き離されて少しだけ苛立ってる典語くんの気持ちがよく分かりますよ。何も恥ずかしいことじゃないので、確かに夢の中でくらい甘やかしてあげても良いと先生も思います。でも、自分自信の中にも、彼女を甘やかすことで満たされている部分があるということから目を逸らしていると、ズルいですからね」

 先生の言葉に、我先にと喜んだのはジゴクちゃんだった。

「えへへ、先生って優しいね。テンゴクに甘えて良いんだって!」

 席から離れ、すり寄ってくるジゴクちゃん。

 いや、ジゴクちゃんの幼い部分だとちゃんと分けて考えとこう。

 あとで、もしも夢の内容を現実のジゴクちゃんが覚えてた場合に、ここはちゃんと分けておかないと恥ずかしくて手も繋げなくなりそうだよ!

 主に、ぼくがね。

 だけど、ジゴクちゃんが膝の上から離れたからぼくが苛立ってるって、さすがにそれはないと思うんだけどね…

 ジゴクちゃんを抱っこしてると落ち着くのは否定しないけど、離れたからって苛立ったりはしないよ!

 なんていうか、ジゴクちゃんと意識が繋がってる時間が長かったから、繋がってない時のほうが何か物足りない気はするんだけど…

 でも、膝の上に座られるのは、夢でもやっぱり恥ずかしいよね。

 それにしても、言うことも本物のみるちゃん先生っぽいね。

「次に、二つ目よ」

 ごくり…

 嫌な予感しかしない…

「先生、本当に本物の魔法使いなのよ。冗談でも何でもない、正真正銘の本物なのよ。異世界イツ・ルヒでは『魔女』って呼ばれてるんだけどね。私のスキルで夢にお邪魔させてもらったんだけど… 典語くんも起きてるのよね?」

 うわあああああっ!

「本物なの!?」

 他のクラスメイトは、最初に出てきた撫子なでしこちゃん以外は嘘臭い感じだったのに、みるちゃん先生だけはやけに真面目にリアルな人間らしい反応なわけだよ。

「本物というよりは、夢の中用の精神体ってとこかしらね。まあ、分身っていうのが分かりやすいかしらね」

 ぼくにとっては本物の先生と同じってことか…

 もうちょっと控え目に喋るべきだったね…

「先生としては確かに、自分が魔法使いだなんて言うべきじゃないのかもしれないわね。でもね、私は二学期から始まる異世界で始まる実地講習の担当先生なの」

 何が始まるって!?

 異世界での実地講習!?

「もう言っても良いはずだから教えておくわね。5年A組っていうのが、そもそも異世界に児童を連れていった場合の影響を知るために編成された特別なクラスなのよ」

 ううん!?

 どこまで話が広がるの!?

「典語くんはどうやって彼女の夢に入ったのかしら?」

「えっと、ぼくたち、必殺モードで手を繋いでると意識が繋がるんですけど… その状態でジゴクちゃんが寝落ちしちゃって…」

 ふむ、と先生が何やら考え込んでいる。

「興味深いけど、こういうレアケースが子どもの場合は多いのかしら… 大人達の時は大きな問題はなかったんだけど… 先行き不安だわ…」

 みるちゃん先生が真剣になってる。

「テンゴクー、つまんないお話でひまだよ抱っこしてー」

 うん、しょうがないね。

 みるちゃん先生の許しも出てたし、今日くらいは抱っこしてあげよう。

 よしよし。

「えへへへ、こち、眠たくなってきたー」

 うん、ジゴクちゃんはもう寝てるよね?

 ああ、ぼくか…

 ぼくが眠たくなってきたから、それがジゴクちゃんに伝わったんだね。

 うーん、ジゴクちゃんがぽかぽか温かいし、先生の真面目な話も聞いてるしで、眠たい条件がいっぱいだね…

 うーん、今日は色々とありすぎたね…

 疲れたなあ…

「それにしても、これはまずいわね…」

 みるちゃん先生がそう呟いたのを最後に、ぼくの意識はジゴクちゃんの夢の中で、自分自身の眠りの中へと落ちていった…



これで三日目はおしまいです。

この小説を書き始めて半年になりますが、ようやく四日目に行けそうです。

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