三日目、ラプトパの宿、父さんの荷物
宿の前は立ち入り禁止の厳重警戒
何処から現れたのかもよく分からない謎の重武装な人達が宿の前にバリケードを張ってる。
「ああ、本当にワドウキザシから荷物が届いちゃったんですね…」
うう、シュラちゃんが悲しそう。
自分の家の前が立ち入り禁止じゃあしょうがないね。
こんなことになるなら父さんには山吹さんちに荷物を届けるように頼んだほうが良かったね。
それにしても、全身鎧って初めて見たよ。
「ちょっと良いかい?」
事件現場に着いた探偵よろしく、山吹さんが全身鎧の一人に声をかける。
「ここは立ち入り禁止… これはヤマブキ様! ラプトパの宿にワドウキザシからの小包が届いたため、空間凍結と周囲の封鎖にて対応中であります!!」
うん、爆発物が届いたみたいな対応だよね。
「ああ、こっちでもだいたい把握してるよ。ちょっと中に入っても良いかな?」
うーん、爆発物処理班みたいだね。
「はっ! もちろんです! みんな、ヤマブキ様がキザシの荷物を処理をしにきてくれたぞ!」
沸き上がる歓声。
全身鎧の人達ががどよめきたって喜んでるよ!
いやあ、なんだろうね。
怪獣、じゃないや、鬼が戦ってる件は誰も気にしてないけどこんなものなの…?
どんな凄い能力や、おかしな術の効果を見るよりも、ぼくと街の住民の感覚の違いが離れ過ぎてることに、ここが本当に異世界なんだなって実感するよ!
「それじゃあ、入ろうか」
おいでおいでと手招きをする山吹さん。
全身鎧の甲冑達に敬礼されながら、ぼく達は宿の中に入るのだった。
事件現場に突入だよ!
いや、宿に帰るだけなんだけどね。
宿の中はすっかり変わり果てていた。
空間凍結って言ってたけど、辺りは氷まみれだよ。
でも寒くはないね。
宿のカウンターの上にはダンボール箱が置かれていて、そこだけ入念に凍結されたのか氷が厚い。
センサーらしきものを持って氷付けのダンボールを調べている人がいるよ。
うん、街の住民が避難する元凶を一人で調べてるなんて勇気があるよね。
「やっほ!照柿のおじさんっ! 本日もお務めご苦労様だね!」
あっ、防護服の人も山吹さんの知り合いだったんだね!
っていうか、地球の人っぽい名前だね。
がちゃって防護服の頭のカバーを外すと、中からは普通のおじさんの顔が現れた。
あ、なんか新鮮なくらいに普通のおじさん!
「あっ、山吹ちゃーん! 急にこんなの困るよ。兆さんは何だってこんな荷物を普通の宿に送ったりしたのさ?」
えー、父さんがダンボール箱で荷物を送るのは地球人にとっても非常識だった可能性が浮上したよ、っと。
「あっはは、ごめんね。急に旦那の子どもがこっちに泊まることになっちゃってさ」
うん、ちょっぴり罪悪感…
「ご迷惑かけてごめんなさい…」
ぼくには謝ることしかできないね。
「あ、ああ、それじゃあしょうがないかなあ、悪いのは兆さんだから坊やは気にしなくて良いよ本当」
ああ!
とっても良い人だった!
照柿さんだったかな?
ん、聞いたことある名字だよ。
「あれ、ひょっとして照柿利休くんのお父さんですか?」
こんな変わった名字はそう多くはないと思う。
「ああ、そうだよ。ふむ、兆さんの子どもが息子と同じクラスに居るとは聞いていたけど、なるほどね。きみも大変だろうけど頑張るんだよ」
何やら同情されてしまったけど、確かに大変なことは多いから素直に嬉しかったりするよ。
「それじゃあ、後は私が処理しとくんで、照柿のおじさんは帰ってもらって大丈夫ですよ」
荷物を包む氷をこんこんこんって叩く山吹さん。
「ああ、助かるよ。でも、今度からはできるだけ事前に教えておくれよ。お願いだよ」
ああ、って返事をする山吹さんは、でも「この子に関係することは外に漏らさないように兆の旦那から止められててね」って申し訳なさそうに頭を掻く。
それ初耳!
「なんだいそれ、困ったなあ」
しょんぼりとするおじさん。
「そういうわけだから、私じゃ判断できなくてね。旦那には言っておくけど、あんまり期待しないほうが良いかもよ」
確かに、父さんに期待をするなんて何物にも勝る愚かな行為だと思う。
身に染みて知っているというべきかな。
「あはは、いや、あれで兆さんも人が良いからね。一応頼んどくよ」
うう、ぼくには人の良いおじさんに向かって「そんな期待をするのは愚かなことだ」何て言えないよ!
「ああ、一応荷物は調べてあるけど危険なものは無かったよ」
そう言い残して、人の良いおじさんは宿から出ていった。
クラスメイトの利休くんってヤンチャな感じなんだけど、お父さんは苦労人そうだね。
うーん、切ない。
ぼきょっ!
「よっし、封印は壊したから中身を見とくかい?」
あっ、空間凍結っていうのはでこぴんで壊れる封印なんだね。
ぼきょって、そんな擬音はでこぴんじゃない気もするけどまあ良いや。
封印が弱いのか、でこぴんが強いのか、ぼくには分かんない。
うーん、ちょっと感覚がおかしくなってる。
何が強くて、何が弱いのか、もうさっぱり分からない。
山吹さんの立ち位置って不思議だよね。
乱堂汕圖や大鬼店長よりは弱いって感じのことを山吹さん自身も言ってたけど、そもそもぼく達じゃ山吹さんに勝てる気はしない。
でも、その山吹さんより強い二人が戦ってるのには見向きもせずに、父さんからの荷物を怖れて逃げ出す街の住民達。
その荷物にかかってる封印は山吹さんのでこぴんで壊れた。
乱堂汕圖は何度も山吹さんに攻撃されてたけど、ダメージを負ってる様子もなかったんだよね。
そもそも、山吹さんの強さって何だか異端だよね。
乱堂汕圖ですらジョブ魂らしきものを使って戦ってたのに、山吹さんにはその気配はない。
体内にマナが凝縮してるのは見えたけど、あれって何なんだろう。
ちなみに父さんからの荷物は大量のトマトと着替えだけだった。
うん、宿題はなかった。
トマトで混乱する異世界の街って、ちょっと変なの。
いや、街の近くで大鬼が戦ってるのは気にしてないんだから、ひょっとしたら大鬼の店長よりもトマトの方が強いのかもしれない。
うん、ぼくは混乱しているようだ。
ああ、父さんに期待したらこうなるんですよって照柿さんに教えてあげたい。
っと、そんなことより…
「そういえば、山吹さんってレベルはいくつなんですか?」
気になってることを聞いておく。
きっと、この異世界じゃよくある日常の会話だと思ってたからね。
なのに、山吹さんは真剣な顔になって…
「それは、ここじゃ言えないんだ。ダンジョンの中でマウプーにでも聞いてごらん」
なんて言ったんだよね。
うーん、まだまだ不思議がいっぱいだよ!




