三日目、vs汕圖戦⑦ 『天地自在の理』その2
まず、世界がモノクロに見えた。
純粋に、この世界のマナだけが見えてるんだと分かった。
乱堂汕圖から立ち上るオーラは凄かったけど、それ以上の膨大なまでの力をまだまだ秘めてるのが分かる。
山吹さんは、立ち上るオーラみたいなのは無かったけど、体の中にぎゅぎゅぎゅっと濃縮されたマナの塊があるみたい。
あれがの山吹さんの強さの秘密みたいだね
ジョブ魂も使ってないのに強いのって、凝縮されたマナを体内に持ってるからだったんだ。
そして、山吹さんに迫っている金色のドリルみたいな攻撃、今は真っ黒に見えるけど、あれもマナの塊みたい。
マナの塊を大気中に薄めていくイメージで簡単に消せた。
いや、ジゴクちゃんが消したのかな。
繋がりが強すぎてどっちがやったのかもはっきりしないね。
この世界がマナに満たされていて、空気も大地も、シュラちゃんの体ですらマナで構成されているのも分かった。
物質を構成しているマナと、そうなる以前のマナで、ちょっと状態が違うみたいだね。
そして、生き物を形作ってるマナは更に複雑に見える。
ぼく達の身体から出てるオーラは球体みたいになってる。
揺らぎもなくて凄く安定してる状態みたいだけど、オーラが混ざりあってるのかな。
おっ、山吹さんが乱堂汕圖の出した大きい岩みたいな攻撃を弾いた。
やったね。
いや、あの岩みたいな奴って種か何かかな。
今の攻撃でダメージを受けたような…
そう、生きてるって感じがする。
「山吹さん!その岩みたいなやつ、生物の気配があります!」
「了解したよ!」
って、山吹さん。
了解したと同時に殴る蹴るの連打って!
でも、あれが正解みたいだね。
うん、種みたいな奴のマナがどんどん削られてるのが分かる。
生物のマナには直接攻撃の方がダメージが大きいみたいだね。
あっちは大丈夫そうだ。
さてと、あとは乱堂汕圖だ。
って、うわっ!
こわっ!
乱堂汕圖がこっち見て笑ってるよ!
乱堂汕圖の金色の翼も、今では真っ黒なマナの塊に見えるし、消してみるよ!
うん、消せたっ!
よし、翼が無くなったから落ちていく乱堂汕圖。
「あははははははっ!」
落ちながら笑ってるよ!
落ちてくる!
笑う乱堂汕圖が降ってくるよ!
「そうか、二人で天地か!二人で陰陽か!まったく、傑作じゃないか!これも兆の手の内ということか!」
もう、何言ってんだろね。
まるで、今の状態が乱堂汕圖にとって喜ばしい状態みたいな感じ…
怖いなあ。
「『デュナミス・ヘキサビオス』!」
また新しい術!?
六つの球体が現れたけど、六つとも今までのデュナミスなんとかより高密度のマナの塊みたいだよ!
さて、ぼく達の今のステータスは…
あれ、MPの残量が分からない。
『極化』っていう状態になってるみたいだけど…
だからマナが見えるのかな?
ああ、さっき『天極』と『地極』って術を唱えたのかな。
でも、そんな術は覚えてなかったはず…
MPの残量は分からないけど、術は使えるかな…
「『創天』!」
「『造地』!」
乱堂汕圖の左右にサンドイッチするみたいに出してみた。
うん、なるほどね。
今なら辺りのマナを吸いとって、自分のMPとして使えるみたいだ。
そして、天地の向きが変わっている状態が、今なら目で見て分かるようになってる。
普段なら、高い場所の空気が薄くて、低い場所の空気が濃いっていう状態になっているのが、天地の向きが変わるとその空間内でまた空気の薄い場所と濃い場所を作ろうと空気が動いて、それがマナの流れとして見えている…
気圧の変化が原因…
うん、この辺りは絶対にジゴクちゃんの思考だよ。
ぼくにはちょっと難しいもんね。
でも、伝わってきたイメージは理解できた。
そう、マナの流れと濃さを操れる今の状態なら…
天地の向きを変えなくても…
おっ!
やっぱりね!
ぼく達を包んでる球状のオーラを上下に反転するだけで身体が浮かび始めたよ。
普通に飛べそうだ!
さて、乱堂汕圖が六つの球体を地盤と天盤にぶつけて壊したね。
硬いガラスが割れるような音がした。
もう、攻撃力の高そうな術が多くて羨ましいね。
「おやおや、器用に飛ぶじゃないか」
そりゃあどうも。
「さあ、次はどんな手品を見せてくれるんだい?」
おいでおいでと挑発してくる乱堂汕圖。
落ちながら、まだ愉快そうに笑ってるよ。
「「その余裕、後悔してもしらないよ!」」
今の状態なら、凄いことが出来そうなんだよね。
ぼくはジゴクちゃんを見る。
ジゴクちゃんを見ているぼくが見えた。
ジゴクちゃんがぼくを見る。
ぼくを見ているジゴクちゃんが見えた。
目が合うだけで、合わせ鏡のようにどこまで繋がっていく意識。
どこまでも深く、強い絆がここにある。
ぼく達は、乱堂汕圖を見る。
なんだ、相手はたったの一人じゃないか。
今なら負ける気がしない。
それじゃあ行くよ!
「「『天地自在の理』!」」
乱堂汕圖が落ちていく先の、砂の地面のその先に「『創天』!」
その反対側の天井の、岩盤の手前に「『造地』!」
そして、砂漠の砂が吸い込まれるように上へと落ちていく。
それだけじゃなくて、地盤と天盤の間だけ重力が変わると、その間の気圧っていうものが変わるから、地面の濃い空気が、天井辺りの薄い空気へと流れ込んでいく。
上昇気流が巻き起こる!
地上付近で空気が吸い込まれ続け、天井付近で空気が吐き出され続け、天盤と地盤の周囲を巻き込んで空気が循環し始めた。
人間一人くらいを吹き上げるのにわけもない突風が、砂塵と共に吹き続ける。
そして、空気の流れはマナの流れだ。
消せるんだから、作れるんじゃないかなって思ったんだよね。
乱堂汕圖のと同じ、高密度のマナを!
ぼくたちは、この空気の流れを利用して、この次々と吹き上げるマナを押し固めるように…
空気の中で、ぷつぷつと小さなマナの塊が出来上がっていく。
うーん、大きいのは無理だね。
集中力が足りてないのか、レベルが足りてないのか…
術で制御する方が、やっぱり簡単なのかな。
でも、弾丸は作れた!
あとはそれを風に任せて打ち出す!
ペチペチとどこかにぶつかる音がする。
うん、攻撃になってないことはないと思う。
でも、必要な集中力のわりに効果が薄いかな…
でも、これって何かに応用は出来そうだね。
「『天雷』」
「『雷樹』」
空気を引き裂く雷が、術を唱えるだけで起こせるんだよね。
うん、攻撃するなら術の方が楽だ。
そして、これでも乱堂汕圖にはほとんどダメージが無さそうだよ。
スコップ片手に山と戦ってる感じだね。
創天と造地から生まれてる空気の循環が、ぼく達の実力以上の強力な現象って気がするけど、これを操って攻撃技にできるほどの器用さはない。
乱堂汕圖も風には抵抗せずに吹き飛んでってるし、これを操れたら凄そうなんだけど…
うん、決め手にかけるね。
それじゃあ次の実験タイム。
「『地球儀』」
「『天球儀』」
さっき盾の代わりに一度使った術を使ってみる。
さっきと同じで謎の球体が出てきたけど、今度はマナが見えるようになってるから効果も分かる。
地球儀を中心にマナが濃くなっていく、そしてその範囲はさっきは見えなかったんだけど、体育館くらいの大きさがあるね。
その範囲を作ってるのが天球儀みたいだね。
地球儀で作った核を中心に、天球儀で作った見えない幕の内側までの重力の流れを変えるみたい。
うん、好きなところに星を作り出す感じだね。
そして…
これは予想外の効果だけど、創天と造地で作った空気の流れ、つまりはマナの流れが、地球儀と天球儀の力場にどんどん流れ込んでいってる。
ぐるぐるぐるっと渦を巻きながら、どんどん巨大に膨れ上がっていくマナの塊が出来ていくよ!
って、これちょっと凄すぎない!?
マナの渦に巻き込まれそうだし、風が凄く強くなってきた!
今は飛んでるから良いけど、普段の状態でこれを使ってたら自分の術に巻き込まれて全滅っていうのもあり得るよ!
いや、でも渦の中のマナを可能な限り圧縮してから…
よし!
これで天盤と地盤を解除しよう。
上昇気流が和らいでいって、あとに残ったのは巨大なマナの渦をまとった巨大な星だけが残った。
天球儀の内側では風の流れが凄いことになってるけど、その外側の空気の流れも段々と穏やかになっていってる。
砂漠の砂も空気と一緒にけっこう入ってそうだね。
砂嵐の星って感じだよ。
うん、これじゃあ『天地自在の理』じゃなくて『天地創造の理』とかの方が良かったかな。
さて、天井側から乱堂汕圖が落ちてくる。
「『デュナミス・プテリュクス』!」
翼を出して空中に止まる乱堂汕圖。
さて、あとはこの星をどうやってぶつけるかだけど…
まだ使ってない『招星』って術がそれっぽいんだけど、星を招く術って説明だけなんだよね…
術で指定したとこに星を招くのか、自分達の所に星を招くのかで全然違うんだよね。
うーん、先に試しといたら良かった。
でも、今なら飛んでるし何とかなるかな。
星が近付いてきたら術を解除して即逃げよう。
よし、狙いを定めて…!
「「『招星』!」」
そして、星が乱堂汕圖へと向かって動き出した。
うん、狙った場所に星を招く術で良かった!
今回の上昇気流は術の効果が続く限りは永久機関となるようです。
書いてる間に術の効果がどんどん大規模になっていって私の想定外の効果が出てるのはご愛敬。
もしも街の方で使ってたら壊滅的な被害を生み出していたでしょうね。
戦闘の舞台を砂漠にしといて街の人々も作者も助かりました。




