三日目、vs汕圖戦⑥ 『天地自在の理』その1
ぼく達は、心の中での会話を終える。
実際に話すよりも時間がかかってないはずだ。
まだ、ヤマブキさんにぶっとばされた乱堂汕圖が起き上がってただけで戦況に変化はないみたい。
「やれやれ、血の気が多いのが梅染の血筋なのかい?」
「はんっ!あんたみたいの相手に遠慮できるほど余裕ないんでね!」
なんて言ってから、そのまま蹴りかかるヤマブキさん。
その蹴りを片手で受け止める乱堂汕圖。
うわっ!
山吹さんの攻撃が受け止められた!?
認識できても理解が追い付かないスピードのバトルとか、漫画の中だけにして欲しいよ!
「ははっ、流石に不意を打たないと当たんないかな!」
ぼく達の役割は、その不意を打てるように隙を作り出すことなんだよね。
「小娘が、ずいぶんと舐めてくれる」
あっ、乱堂汕圖から立ち上るオーラの量が増えたよ!
ちょっと本気出す感じかな?
‐我らも参りましょう‐
そうだね!
えっと、今のMPは…
【テンゴク】 207/260
【ジゴク】 251/266
うん、山吹さんから貰った回復薬もあるし、まだまだ余裕。
さて、まずは…
‐こちの攻撃で御座います‐
「『造地』!」
ジゴクちゃんの『造地』の術で、乱堂汕圖のすぐ横に黒い円盤が作り出された。
それは、ここに来る前に出していた『創天』の円盤との間に、乱堂汕圖を挟むように配置されていて…
つまり、『造地』の円盤の方に乱堂汕圖は落ちるように引っ張られることになる!
うん、天盤と地盤って呼ぶことにしよう。
「なっ!?」
乱堂汕圖が驚いた!
よしっ!
「あはは、テンゴク達の術ってやっぱり面白いね!」
そして、なぜか驚いてないどころか、重力の方向の変化をすら楽しんでるような山吹さん。
驚きとともに体勢を崩していた乱堂汕圖のその隙をついて一撃を入れる!
地盤の上で倒れ伏す乱堂汕圖と、攻撃したときの勢いそのままに地盤から離れた山吹さん。
‐お姉様の適応力の高さは感嘆の一言に尽きまする‐
うん、凄いよね。
このままいくと、合体技も必要ないんじゃないかな?
‐さて、乱堂汕圖はおそらく術者で御座います。距離を離されなければ存外にお姉様の有利が続くやも知れませぬが‐
ジゴクちゃんの記憶から見た『デュナミス』って金色の風で攻撃する術と、『ミーティア』っていうメテオストライクみたいな隕石で攻撃する術。
ぼく達ではどちらも耐えることすら出来そうにない強力な攻撃だった。
しかも手加減してたみたいだし…
油断は絶対に出来ないんだよね。
ほら、地盤の上で乱堂汕圖が立ち上がる。
ダメージを受けてる感じもないんだよね。
シールドどのくらいあるんだろう。
でも…!
地面とは垂直に近い角度の地盤の上で立ち上がった乱堂汕圖の眼前には今、地面しか見えてないはずだ!
ちょっと笑えるけど、笑ってる暇はないよ!
その立ち上がった隙をまた攻撃する山吹さん。
今度は空中へと蹴り飛ばした!
‐今で御座います!‐
おうともさ!
「『創天』!」
「『造地』!」
乱堂汕圖の飛ばされていく先に『造地』を、そこから真下の地面に『創天』の術を使う。
地の盤にぶつかる乱堂汕圖
そして!
「造地を『天化』!」
「創天を『地化』!」
地の盤に天化を使い、天の盤に地化をかける。
するとその間の空間は、無重力になる!
自由に身動きが取れなくなるはずだし、もしも盤の外に出たら重力に引っ張られて地面に落ちるだけっていう作戦。
ついでに!
「『天雷』!」
「『雷樹』!」
天の盤と地の盤の間を、二つの雷が駆け巡ってるはずだ。盤の間から雷が漏れてくるのが見えた。
これ、シュラちゃんがやられた時の分の、ぼくらなりの仕返しだからね!
さらに!
「『地湧』!」
二つの盤の間を効果不明の黒い毛玉が満たしていく。
無重力空間で視界も遮られたら、きっと何も分からなくなるよね。
さすがに、これで乱堂汕圖へのダメージは期待できないけど、だからこそ安心して怒りをぶつけられるよね!
‐テンゴクはあの乱堂汕圖をも思いやっているので御座いますね‐
んー、嫌な奴だけど、ジゴクちゃんの親なんだよね。
‐こちにその実感は御座いませぬ‐
それでも、ぼくの父さんも「お前が安心して自身の感情をぶつけれぬようでは、俺は親として失格だ」って言ってたし、強い親には全力で挑むのが礼儀なんだと思う。
でも、やっぱり怪我させちゃったら嫌じゃない?
‐然れど、こちは乱堂汕圖の横暴な行為が許せぬのです!‐
うん!
その怒り、その時の悲しみ、全部ぶつけよう!
‐なんとも、こちはまだその境地には達しておらず、ただただ許せぬばかりであり、不甲斐なく御座います‐
うーん、境地とかじゃないと思うけど、ちょっと特殊な父さんだから、あんまり参考にしない方が良いかも…
あ、そうだ。
「山吹さん!今、二つの円盤の間は無重力になってます!飛べない乱堂汕圖は自由に身動きが取れないはずです!」
ぼくは、今の状況を山吹さんに伝えておく。
山吹さんと打ち合わせが出来てたら、この術をもっとトリッキーに使えたんだよね。
って、ジゴクちゃんが考えたんだけど。
‐テンゴクの天盤に突如現れたお姉様に驚いた記憶も参考になったので御座います!‐
ああ、あれはびっくりしたんだよね!
「あははっ!無重力って楽しみだよ!ちょっと行ってくる!」
あれ、飛べない山吹さんが嬉々とした様子で行っちゃったけど…
飛べないけど跳べるから大丈夫かな?
‐突入したときの速度を活かせば、お姉様ならば適応できるのではないでしょうか‐
うん、信じてみよう。
‐本来はこの隙に逃げるべきなのですが、お姉様が準備までしてきたなら大丈夫で御座いましょう‐
ああ、準備って何なんだろうね。
‐おそらくは、助っ人を呼んでいるのではないでしょうか‐
あれ、山吹さんが頼るくらいに強そうな人って誰か居たっけ?
「『アニマ・フェルスナトゥーラ』」
突然、ぼく達の後ろで乱堂汕圖の声がした。
後ろを振り向こうとするぼく達。
あっ、手を繋いでると後ろ向き辛いんだ…
ジョブ魂を持ってる乱堂汕圖が背後に居る!
「『インストール』」
星空みたいなオーラが吹き荒れる!
そう言えば、いつからか乱堂汕圖のこのオーラが消えてた!
ああ!
最初のテレポートできる方の職業になってたんだ!
‐テンゴク!術を解きましょう!‐
そうだ、山吹さんが飛び込んだままの『創天』と『造地』を解いとこう!
でも、すぐに助けに来れるわけじゃないよね!
大ピンチ!
今までと繋ぐ手を逆にしつつ後ろを向く!
この動きはもっと練習しといた方が良さそうだね
「『デュナミス』」
金色の粒子の風が来る!
ぼく達には抵抗できる術がない!
‐ここは一か八かの賭けに御座います!‐
確かにね!
まだ試してない新術だけど!
「『天球儀』!」
「『地球儀』!」
何か素敵な効果を期待!
ぼく達の前に大きな球体が現れた!
でも、金色の風の前には無力みたい!
ぼろぼろと崩れていっちゃった!
そして、ぼく達を突き抜けていく金色の粒子
「うわあ!」
「くっ!」
って、痛くは無かった…
あれ?
でもシールドが0になってるし、MPも無くなってる?
【テンゴク】 MP 10/260
【ジゴク】 MP 38/266
「まあまあ良い塩梅だったようだね」
乱堂汕圖の言葉の意味が一瞬分からなかった。
‐全滅しない程度の威力に抑えたのでしょう‐
そうだ、シュラちゃんも全滅を狙ってるって言ってたんだよね!
最後に『レドルテ』って言われたラプトパの宿がセーブポイントになってて、全滅したら転送されるんだっけ…
もっとMPを使っておけば全滅できてたかもしれないんだね!
‐悔しいので全滅は嫌で御座います‐
ははっ、確かにそれはそうだ。
「乱堂汕圖!」
宙から山吹さんが落ちてくる。
ぼく達にはサポートできるほどのMPが残ってない。
回復薬を飲むためにも、乱堂汕圖の隙が欲しいところだけど…
「『デュナミス・プテリュクス』」
金色の粒子が乱堂汕圖の背中に集まって、翼になったよ!
宙へと飛び上がっていく。
あれ!?
飛べたんだ!?
「『アヴァルスグラナトム』!」
さっきの隕石みたいな、巨大な物体が乱堂汕圖から放たれた。
どこに…
って!
「「シュラちゃん!」」
なんで、まだ眠ってるシュラちゃんを!
いや、地面に降り立った山吹さんがシュラちゃんを助けに走っていった!
これが狙い!?
これは、乱堂汕圖もいよいよ本気出してきたかな…
乱堂汕圖がシュラちゃんの元へ向かう山吹さんの背中を狙ってるのが見えた
「『デュナミス・ヘカトンケラス』!」
金色の無数のドリルが山吹さんの背中へと向かっていく!
どうする!?
何が出来る!?
回復薬を飲んでる暇もない!
‐テンゴク!‐
ジゴクちゃん!?
ふと、ぼく達の繋がりが、足りてないんだって感じた。
ぼく達にはもう、これしかないって思ったんだ。
だから、もう一度…
「『テンゴク』」
「『ジゴク』」
そして、世界が一変した。




