三日目、汕圖戦⑤ heaven&hell
ぼくはジゴクちゃんの所に駆け寄る。
あれ?
シュラちゃんが倒れてる!
シュラちゃんの近くで俯いてるジゴクちゃん…
さっきの戦闘のダメージでまさか!?
「なんとも安らかな…」
暗い声で、ジゴクちゃんがそう言った…
これは戦闘してる場合じゃないよ!
「寝顔で御座います…」
ああっ!
そっちか!
「無事で良かった!」
ジゴクちゃんがこくりと頷く。
ああ、でも本当に安らかな寝顔だね。
汕圖さんみたいな勝ち目の無い人を相手にしっかりと向き合って、倒れちゃうくらいぼろぼろになるまで戦った後とは思えないくらいに安らかだ。
山吹さんのおかげかな。
「ジゴクちゃん、山吹さんに乱堂汕圖に隙を作らせてって頼まれてるんだ」
ぼくは用件だけ話す。
シュラちゃんの寝顔を見つめているジゴクちゃんの頬が濡れてるのが見える。
色々と、話したいことはきっとあるんだよね。
でも今はそんな場合じゃないし、そんなことをする必要もない。
話すまでもないことだから。
ぼくは、ジゴクちゃんへと手を差し伸べる。
ジゴクちゃんが、立ち上がってぼくの手を取る。
ぼく達には、これで十分だ。
「『テンゴク』」
「『ジゴク』」
繋がった手から、オーラが繋がる。
繋がったオーラから、意識が繋がる。
繋がった意識から、想いが伝わる。
ジゴクちゃんの出番はまだですよって言って、乱堂汕圖と向き合っているシュラちゃんの小さな背中
乱堂汕圖に対して、何も出来ない自分…
無力感への葛藤…
ぼくが投げ飛ばされてスケルトンに追いかけられていった時もそうだ…
巻き込まれちゃったシュラちゃんが戦ってくれて、そのせいで傷付いて…
ジゴクちゃんは今、とっても悲しい気持ちになっている。
そして、それだけじゃなくて…
この世界には悲しいことだけじゃなくて…
今日、ジゴクちゃんが見てきた景色が、その時の感情と一緒に伝わってくる。
自由を知り、自由と知り、喜びを感じた時のこと
ぼくと、山吹さんと、シュラちゃんと語り合い、楽しみを感じた時のこと
大切な手紙を奪われ、怒りを感じた時のこと
そして、己の無力を知り、悲しみを感じる今のこと
まるで走馬灯のように、ぼくの中に廻り廻るジゴクちゃんの思い出達
‐テンゴク、一つだけ教えて下さい‐
うん、良いよ
‐シュララバ様はどうして、こちなどのためにこれほどまでに頑張ってくれたのでしょう?‐
それは、ぼくも遠くから見てたときは不思議だったんだよね。
逃げても良いくらいの強敵に、迷わずに立ち向かえるって、シュラちゃんが魂を持ってるから意志が強い異世界人ってだけじゃ、きっとないよね
ぼくは、『ジゴクさんの出番は、きっともう少し後ですよ。それまでは堪えて下さいね』って言ってたシュラちゃんを思い出す。
それを聞いてることしかできなかった、あの歯痒い気持ちも同時に心の中に蘇る。
って、これはジゴクちゃんの記憶だね。
まるで、自分の記憶みたいに鮮明に思い起こせたよ。
『今日は本当に楽しい一日でした。私は、明日もまた三人で冒険したいんです!明日に悲しいことを持っていくつもりはありません!』
ああ、この時に涙が出たんだ。
シュラちゃんの気持ちへの共感と、共感したからこそ強まった無力感。
その時のジゴクちゃんの気持ちも、ぼくは思い出すように感じることが出来た。
だから…
だからこそ、ここへと繋いでくれたシュラちゃんの頑張りに、ぼくは応えたくなった。
シュラちゃんは、ぼく達を信じてくれていたんだ
‐信じていた?‐
乱堂汕圖なんかに負けないってことを
明日からも一緒に冒険するっていう未来を
ぼく達がもう、友達だってことを
そして、一緒に冒険する仲間だってことを
シュラちゃんは、信じてたんだ
‐友達、仲間、未来、‐
『私は、何があってもジゴクさんの前に立ち、乱堂汕圖! あなたの前に立ち塞がりますよ!』
ふふ、シュラちゃんってカッコいいね。
山吹さんに憧れてるから、その影響もあるんだろうけど、とっても真っ直ぐだ。
そしてこれが、ぼく達と冒険する上でシュラちゃんが自分に課した役割なんだろうね。
真っ直ぐだから、それを貫く。
‐シュララバ様は己を盾とし、それに殉ずる覚悟をお持ちなのですね‐
この台詞を聞いたときに、シュラちゃんだったら『もう!水くさいですよジゴクさん!私達ってもう友達なんですから、シュラちゃんって読んでくださいよ!』って言いそうに思った。
そして、思っちゃったことがジゴクちゃんに伝わったことも分かった。
‐然り、今ならシュラちゃんと呼びたい気持ちがあふれております!‐
あはは、それはシュラちゃんも喜びそうだ
‐ねえ、テンゴク、乱堂汕圖は本当にこちの母親なのでしょうか?‐
似てると思うよ。
見た目はね。
‐母親とは、もっと柔らかな存在であると思っておりました‐
うん、悲しいね
どうして、閉じ込めるように育ててきて
今は、問答無用で拐おうとするんだろう
‐今は、シュラちゃんの頑張りに応えるためにも、戦おうと思います‐
うん、そうだね
そろそろ作戦会議と行こうかな。
‐参謀の出番に御座いますね‐
うん、何か良い考えはある?
‐お姉様のサポートに徹するのであれば、案は御座います‐
さっすがジゴクちゃん、名参謀だね
‐では、合体技『天地自在の理』と参りましょう‐
ジゴクちゃんから、作戦と技の内容が伝わってくる。
なるほど!
『創天』と『造地』にそんな使い道があったんだ!
よおし!
倒せないまでも一泡ふかせてみせるよ!
‐はい! シュラちゃんが繋いでくれた今を、テンゴクとジゴクの全力を、あの不届き者に見せつけてやりましょう!‐




