三日目、vs汕圖戦③ シュララバの戦い2
シュラちゃん視点の乱堂汕圖戦の続きです。
このスケルトンって武器を持ってないと思ってたのに、自分のあばら骨をポキッて外して、それで殴りかかって来ましたよ。
痛そう!
その二体のスケルトンの攻撃を、それぞれ一枚ずつの『翼』の障壁で防ぎます。
いや、何とか防げたってとこですね。
これは長くは持ちません。
でも、今の攻撃の隙に、残りの二枚の『翼』でスケルトンを押さえ込みます!
ああ、ダメだ!
まだ、完全には押さえきれていません。
さっき防御に使った『翼』もスケルトンを押さえるのに使うしかないかな。
よし!
『翼』を四枚つかって二体のスケルトンの動きを封じましたよ!
「おや、もうちょっと弱いかと思ったんだけど、失礼したね」
もう!
本当に嫌な言い方をする人ですね!
でも、もっと見くびらせておいた方が良かったかな…
もう余裕ないんですけど…
「それじゃあ今度は、このくらいでどうだい?」
スケルトンに追加で、今度は金属質のゴーレムが出てきましたよ!?
「あはは、ちょっと無理そうですね」
レベルだけならスケルトンより低そうですが、体力と攻撃力が高そうな相手って私は苦手です。
スケルトンを放すわけにもいかないし、ここは動きの遅そうなゴーレムの攻撃を受けておくべきかな…
「『地化』!」
私のすぐ後ろから、ジゴクさんが術をかける声が聞こえてきました。
あっ、ゴーレムが飛んで行きましたね。
ジゴクさんが『地化』でゴーレムを飛ばしてくれたんですね。
そっか!
マウプーにかかっている『天化』がまだ有効なんですね!
「すごいです!」
ジゴクさん一人だと戦えないイメージがあったんですけど、準備さえできていればやっぱり強いですね!
「スケルトンにも『地化』で御座います!」
スケルトンも一体飛んでいきました。
なんとも便利な術ですね。
「やれやれ、本当に手のかかる子達だ…」
ああ、ちょっと怒ってるかな?
でも、全滅からの帰還を狙いに行くなら怒らせるのは有りなんですけど…
やっぱり怖い…
「『アニマ:フェルスナトゥーラ』 」」
汕圖さんが聞きなれい呪文を唱えた。
そして汕圖さんの手の平の上に現れたのは…!
「ジョブ魂ですか!?」
そっか!
地球人でした!
さっきまでが量産の一般職で、今度は本気の天職って感じでしょうか…
手加減用の召喚術ってとこですかね。
「ああ、久しぶりだから加減を忘れているけど、悪く思わないでね。『インストール』」
それは有り難いことだと思うべきでしょうか…
って!
ジョブ魂を取り込んだ途端に、荒れ狂う暴風のようなオーラが出てますけど!
でも目立ってるからテンゴクさん達が戻りやすいかな!?
それに…
「さて、大ピンチですね…」
ピンチをチャンスに変えるんだ!って、月刊ヤマブキに書いてましたが、私にはまだ早いようですね。
「シュララバ様、狙われているのはこちだけで御座います。どうか、お逃げ下さいませ」
ふふっ、立場が逆だったら私も同じことを言っちゃいそうですね。
でも…
「嫌ですよ!ジゴクさんは連れていかせません!」
乱堂汕圖が、酷く哀しそうな顔をした。
いや、煩わしそうな顔かな。
「勝ち目がないのは分かるだろうに…」
そう言いながら、こちらを指差してきた。
「全滅狙いなのかな?」
あぁ、バレてますね。
でも、他にも狙いはあるんですよ!
私は、障壁を張ったままにしておいた『翼』を前方に展開します。
「さて、意外と勝てちゃうかもなんて、ちょっと思ってるんですけど!」
『翼』を乱堂汕圖へと飛ばしてやりました!
ふふふふっ!
絶対に効かないでしょうけどね!
「『デュナミス』」
ふひゃあ…
謎の黄金色の衝撃波で『翼』が障壁ごと消されちゃいました…
私ってシールド特化の防御型の職業なのに、ここまで呆気ないとは思いませんでした…
レベル補正って本当にあるんですかね…
「いったい、何に勝つと言うのかな?」
力の差は歴然ですね。
だけど、言ってやりましょう。
「あなたです!乱堂汕圖!」
ふふふっ!
私は生まれて初めての挑発行為をしました!
「愚かだね。諦めなければ奇跡が起こると思ってるわけじゃないだろう?」
ふふっ、そんなの答えは決まってますよね。
「思ってますよ!奇跡みたいなフィナーレが、私達には待ってるんです!」
私はにこりと笑ってやりますよ!
再び四枚の『翼』を出して…
「『盾鎧武闘・翼』!」
魂を解放する必殺モードです。
テンゴクさん達みたいに自分の名前を叫ぶのはちょっと恥ずかしいので、私は職業名に設定してるんですよ。
「『純化風撃』! 全力で行きますよ!」
衝撃波ならぬ障壁を飛ばす障壁波!
今日覚えたばっかりの新技です!
「くだらないなあ…」
そう言って、天を仰ぐ汕圖さん。
って、戦ってるのに余所見するとか!
それでも勝てる気なんてしませんが、やっぱり嫌な感じです!
「『デュナミス』!」
天を仰いだままで、さっきより強めの衝撃波が来ましたよ!
ああ、私の全身全霊の新技が『翼』ごと簡単に消されちゃいました!
勢いもそのままに、黄金色の衝撃波が私を襲いっ!
くっ…!
やっぱり痛い!
全身に針が突き刺さったみたいな痛みが走り抜けましたよ!
傷ができて無いので、あの衝撃波はMPへの直接ダメージなのでしょうか。
でも、後ろにいるジゴクさんが無事そうで良かった!
「シュララバ様!もう下がって下さい!あとはこちが!」
心配かけちゃいましたか…
ああ、痛みのせいで笑顔が崩れてましたね。
これはいけません。
もうひとスマイル!頑張ろう私っ!
「ジゴクさんの出番は、きっともう少し後ですよ。それまでは堪えて下さいね」
私は、テンゴクさんとジゴクさんが並んで立ってるところを想像します。
何故だか、こんな事態でも何とかなるような予感がするから不思議だなぁ。
どうして、私はこんなに信頼しちゃってるんでしょう。
「まったく、異世界人の頑なさは何とも難儀なものだね」
そこはヤマブキ様が褒めてたらしいので、こんな人に何を言われても平気ですよ!
「だけど、もう勝てないことは分かったろう?」
私が勝てないことなんて、最初から分かってますけどね。
もうちょっとレベル上げてからダンジョンから出てきたら良かったかな…
もっとも、私達の強さに合わせた攻撃が来るだけなんでしょうね…
「それでも、まだやるのかい?」
そりゃあ、やめたいです。
痛いし怖いし…
だけど…
「私は、何があってもジゴクさんの前に立ち、乱堂汕圖! あなたの前に立ち塞がりますよ!」
私のやるべきことは明白なんです。
「そうか、覚悟があるんだね」
乱堂汕圖が、初めて私を真っ直ぐに見据えてきました。
それだけで何でしょうこの威圧感…!
あははっ、怖くて震える身体が邪魔に感じます。
やだな…
でも、私が頼りないと、ジゴクさんが自分から拐われちゃいそうですしね!
何があっても笑顔だけはキープです!
「今日は本当に楽しい一日でした。私は、明日もまた三人で冒険したいんです!明日に悲しいことを持っていくつもりはありません!」
ここが私の崖っぷち、後に退く気はありませんよ!
「やれやれ、まだ碧を敵に回したくなかったんだけどね…」
え?
どうしてここで碧様の名前が出てくるんでしょうか?
乱堂汕圖が、私の方へと手を伸ばします。
絶対にさっきより強い技ですよね。
嫌だなぁ…
私は『翼』を展開します。
「『純化障壁』!」
乱堂汕圖の前では心許ないですが、無いよりましなのは間違いないですよね。
これでMP切れ。
でも、もう十分ですよね。
ちょっとは、私の良いとこ見せられたかなぁ…
「『ミーティア』」
乱堂汕圖が唱えると、上空に巨大な燃えてる岩が現れました。
あはは、こっちに降ってきますよ。
「焼かれ潰れよ!」
何だか怖いこと言ってますよ!
「『地化』!」
あっ、ジゴクさんが『地化』を使いましたよ!
これでもしかして…!
「無駄さ。狙った場所に隕石をぶつけるだけの術に、天地など関係ないからね」
解説されちゃいましたね。
確かに、岩は真っ直ぐにこちらに落ちてきます。
「シュララバ様!今度こそ逃げてください!」
ジゴクさん…
「残念ですが、今さら逃げても無駄なんですよ」
そう、あの『ミーティア』って言う術は…
「ああ、君が逃げたらあれは解除してあげよう」
乱堂汕圖…!
「ふざけないで下さい! あれって私を狙ってるんじゃないですか!? 逃げたら私だけを攻撃できてラッキーとか思ってるんでしょ!?」
本当に、怖いんですよ!
逃げたいんですよ!
そういう時に逃げたくなるようなことを言う乱堂汕圖!
心の底から嫌いになりましたよ!
「さて、解除なんて出来ないからね。いっそ、君だけ『地化』とやらで飛ばされてくれれば面白かったんだけど」
まったく!
ああ!
『ミーティア』が迫ってきましたよ!
受け止めようと『翼』で岩を掴みます!
「くっ!」
バリアが一瞬で消えましたよ!
衝撃波で攻撃されたときとは違って、『翼』はまだ健在ですが…
やっぱり、止めれそうにはないですね…
「このっ!」
ダメだ!
焼けるような痛み!
圧倒的な熱と質量には勝てないのかな…
おっと、とうとう翼も消えちゃいました…
もうここが限界みたいです…
私、ちょっとは頑張ったって言えるかな…
っ!
間に合った…!
私が諦めかけたその時です
頭上で岩が粉々に崩れ、砂のように消えていきました。
そして私の前に立つ…
「ヤマブキ様…!」
ヤマブキ様が助けに来てくれました!
テンゴクさんも担がれて一緒に居ます。
あはは…
緊張が一気にとけちゃった
私、泣いちゃってますよね…
「シュラちゃん! ジゴクちゃんを守ってくれてありがとう! 頑張ったね!」
えへへ
ヤマブキ様のこの言葉だけで、とても報われましたよ
頑張って良かった!
「後は、私に任せときな!」
そう言って、ヤマブキ様が乱堂汕圖へと向き合います。
その背中は、とても頼もしくって、私はやっぱり涙が止まらなくって…
こんな状況なのに、私はとっても幸せです!
シュラちゃんには幸せなまま気絶してもらって、次回からテンゴク視点に戻ります。




