三日目、vs汕圖戦① 開戦
さて、ぼくの選択肢は二人を助けに行く一択だけど、どうすれば追いかけられるかな?
パーティーメンバーは『マップ』の魔法で探せるんだっけ?
あれ?
そんな魔法って覚えてないよね。
「『マップ』」
うん…
何も起こらなかった。
そう言えば、魔法と術って言葉を皆が使い分けてた気がするね…
やっぱり、不確実な手段よりは、今までに使ったことのある確実な手段を使うべきだよね。
「『天魔召喚:リプシー:マウレイ』!」
ポンってクリオネみたいな石の妖精が現れる。
「ほいほーい!何のようだい?」
用途はあるけど用は無い、何て言えないよね。
「緊急事態なんだ。ちょっと道案内をお願い。マウプーを『天化』!」
何か反応あるかな…
「うぎゃあ!やられたー!いや、平気だった!でもあっちに体が引っ張られてる感じー!」
良かった!
ジゴクちゃんが既にどこかに『地化』をかけてるってことだ!
ぼくより判断が早いし、さすがジゴクちゃんだよ!
マウプーは飛べるから、重力の向きが変わっても落ちてったりしないのは助かるね。
「そっちにぼくを連れてって!」
ぼくは飛んでいくマウプーの後を追いかけていくつもりでそう言った。
「了解サー!乗りなよマスター!」
だけど、マウプーの体が気球くらいに大きくなったよ!
大きな手に掴まって…。
あっ、やっぱり石だからけっこう堅いね。
でも、体を指で押すと少しずつ凹んでいく。
表面が石でできた低反発マットみたいな感じだね。
乗り心地は良いかも!
じゃなくて!
飛んでるーーー!
「重力方向の変化からすると、目標はけっこう近そうだよー!」
それは良かった!
それにしても、『飛べる者をいつでも召喚できることの利便性』って言ってたけど、一緒に飛べるとは思わなかったよ!
思ってたよりマウプーが便利だね!
「あ、あの三人かなー!ジゴク様とシュラちゃんがいるいる!」
よし!
街の外の砂漠みたいな場所に居るね。
地下なのに都市の外に砂漠があるとか、ちょっと広すぎだよ。
「ぼくをあそこで降ろして!」
問題は、降りてからどうするか、だね。
また瞬間移動されたらどうしよう…
ううん、瞬間移動だって絶対にMPは使ってるはず…
こっちは『天化』を解かない限り追いかけ続けることができる分、瞬間移動されても得しかないって考えよう。
じゃあ次は、どうやって三人で汕圖さんから逃げるかだけど…。
そっちは思い付かないな。
汕圖さんがどうやってジゴクちゃんを見つけ出したのかが分からないと、逃げてもまた見付かっちゃうよね…
エルピーに発信器とかまだ付けられてた可能性が高いけど…
そう言えばエルピーは大丈夫かな…
「あっはっはー!勢い良すぎて止まれないぜー!」
ちょっとマウプー!!
「止まれないなら、ぼくを放してからあの大人の人だけにぶつかって!できたらそのまま飛んで逃げてね!」
勝ち目が見えない以上、アクシデントは有効活用しないとね!
「了解サー!って!ヤバイよアイツ!でも止まれないからヤル気で行っちゃるー!」
シュラちゃんがこっちに気付いたみたい。
ジゴクちゃんを汕圖さんから隠すように、二人の間に立ってるよ。
あんなに怖そうにしてたのに、頑張ってくれてるんだね。
って、ちょっとなんなのさ!
ジゴクちゃんが、俯いてるよ!
汕圖さんは笑ってる!
「ジゴクちゃんを、いじめてんじゃないよ!」
しかも笑いながらって、信じらんない!
もう決めた!
っていうか、ぼくのスタンスは最初から決まってる。
強かろうが怖かろうが、それは従う理由にならない。
自分勝手な奴には、ぼくも勝手にやらせてもらおう。
さて、対等に行くよ!
「おや、もう追って来たのかい。親に似たのか面倒な子どもだね」
「勝手に言ってなよ!」
マウプーがぼくを放す。
「テンゴクくんがマジ切れで怒ってるよー!?」
って叫びながら、マウプーはそのまま汕圖さんへと突っ込んだ。
巻き上がる砂ぼこり。
砂ぼこりの向こうに飛び去っていくマウピーが見える。
「テンゴク!」
ジゴクちゃんが顔を上げてこちらを見てる。
とっても嬉しそうな顔してて、ぼくの怒りもどこかへ行っちゃった!
「お待たせ!」
汕圖さんは何事も無かったように砂ぼこりの中に立っている。
「やれやれ、こんなので倒せるなんて思ってないよね?」
思ってないよ!
「ジゴクちゃん!」
「『地化』!」
作戦が分かったのか、素早く術をかけてくれたジゴクちゃん。
対象は汕圖さん… だよね!?
「おや?」
よっし!
余裕ぶってる汕圖さんから、笑みが消えるのを見てちょっとすっきり!
『地化』された汕圖さんが『天化』されてるマウピーと引き合って、そのままマウピーの方に飛んで行ったよ!
ふふん!
子どもだからって舐めすぎだよ!
「ふう、空を飛べない人で良かったよ。二人とも大丈夫?」
こんな心配は異世界ならではだね。
「私は大丈夫です。どんなに離れても引かれ合う、お二人の絆のおかげで助かりました」
まぁ、絆っていうか術だけどね。
はぐれても、どっちの方向に居るか分かるのは安心だけど。
「ジゴクちゃんは?」
きっと、何か言われたんだよね。
「こちは… いつかこの世界を壊すための道具であると…」
なにそれ!?
「あっ、あんなの絶対に嘘ですよ!気にしなくて良いですって!」
シュラちゃんがフォローしてくれる。
もう、いくら初対面でも親なんだから、適当なこと言わないで欲しいね!
「あはは、やっぱり子どもは悪戯好きだね」
耳元で、汕圖さんの声がした
「うわぁ!」
瞬間移動で帰って来た!?
やばっ!
『地化』もとけてるっぽい!
どうする!?
「さて、また飛ばされたら怖いからね。ちょっと、実力行使といこうかな」
いつの間にかぼく達の周りをぐるっと取り囲むように、十体ほどの骸骨のモンスターが現れていた。
がちゃがちゃと骨を鳴らしてぼく達を威嚇してくる。
「スケルトン。この男の子は殺しても良いよ」
ぼくの耳元で囁くように、ぼくを殺せって命令を出した汕圖さん!
怖っ!
「さて、このままじゃ君はスケルトン達に殺されてしまう」
自分で命令してたよね!
「だから、これが最後のチャンスだよ」
また勝手言ってるよ!
「命乞いならしないけどね!」
死ぬ気もないし!
「ああ、今から君を投げ飛ばすから、そのまま遠くに逃げれば殺されることもないだろう」
えっ!?
「もしも君が戻ってきたら、今度はスケルトンにそちらの異世界の子を襲うように命令するよ」
あっ、きったないなー!
大人ってもう!
「それじゃあ、ばいばい」
腕を掴まれて、ぶうんって投げ飛ばされた!
すごい力だよ!
やっぱりレベルが高いと力も強いのかな!?
飛んでるぼくをスケルトン達が追いかけてくる。
ああもう!
ここからどうしようかな!?




