はじまりの天上
初投稿です。
宜しくお願いします。
最初に感じたのは全能感だった。
「なんだ…ここ…」
目覚めると、俺は空にいた。
昨日は仕事が終わってから、どこにもよらずに一直線で家に帰ったはずだ。
ひどく疲れていたせいか、帰ってから着替えもそこそこに布団に入って寝てしまった。
そのはずなのになぜか今俺は空にいる。
くたびれたせんべい布団は、柔らかく優しく包み込んでくれる雲になっており、
部屋を照らしていた蛍光灯は、世界を照らしている暖かな太陽へと変わっていた。
この環境ならいつまでも気持ちよく寝られるだろう。
最近は寝不足だったので本当にありがたい。
いや違う、それよりも、
「俺が神様…?」
自分が今いる位置を確認したところでふとその考えが頭にわいてきた。
と同時に不思議と現在の自分が一般的に言う全能の存在の神になっていると確信できたのだった。
自分が神になったと理解できたのだった。
論理もへったくれもない結論なのに、なぜか自分のその考えが間違っているとは思わない。
「なんでこんなに確信できるんだ…」
理解はできたが、理由がわからない。
自分のことを悪く言いたくはないが、ただの中小企業の平社員が自分だ。
こんな状態になるようなことに心当たりはまったくない。
困っている人がいたらできるだけ助けるようにはしていたが、そんなことで神になれるのだろうか。
もし神になれるのだとしたら、八百万なんて目じゃないほど神がいるだろう。
何が起こっているのか、そんなことを考えていると、
どこからともなく声が聞こえてきた。
「おはようございます!創造主となるものよ!
さぁ、私とともに新たな世界をつくりましょう!」
期待に胸を膨らませた少女のような嬉しそうな声が空に響きわたる。
「目が覚めるのを今か今かとお待ちしておりました!
楽しみ過ぎてあなたが目覚めるまで全然ねむれませんでしたよ!
どうしてくれるのですか!
いや、私たちに睡眠が必要なのかといわれれば必要ないのですけど…
というか、ここに連れてくるの大変だったのですよ!
やっぱり男の人って重いんですね…
運ぶのに一時間もかかっちゃいましたよ、もう」
そしていきなりテンション高くまくしたてられた。
創造主とか新たな世界とか気になり過ぎる言葉があったけれども、
俺は反射的にいつもの対応をしていた。
「申し訳ありませんが、どちら様でしょうか?」
声しか聞こえないという状況は電話に似ている。
会社ではいやというほど電話がかかってきたし、名前のわからない相手にはまずお名前は何ですかと聞いたものだ。
どういうわけか相手は強い口調だし、ここは形式的に対応するのが無難だろう。
これぞしみついた社会人としての習慣である。
「どちら様って女神に決まっています。
同業者ですよ、同業者!
あ、でも司るものは違うだろうし、同業他社?
うーん、あなたの元いた世界の言葉は複雑ですね…」
女神さまかぁ。響きがいいよね。きっと巨乳。
だって女神さまだもん。母性の塊のようなものでしょ。
巨乳以外ありえない。
「女神」という浪漫あふれる言葉につい我を忘れ、
終身名誉巨乳派(自称)の俺はくだらないことを考えてしまった。
誘惑に負けてはいけない!女神さまはなんていっていた?
同業者?司る?元いた世界?
さっきは連れてきたといっていたし、間違いなくこの女神さまが現在の状況を作り出したのだろう。
というかさっきから声だけで相手の姿がわからない。
このまま声だけを頼りに現状を聞くのは心もとないので、せめて相手の姿、顔を見ておきたい。
会話で大事なのは表情や仕草であるとどっかの偉い人はいっていた。
それに女神さまというくらいだ、きっと美しいのだろう、ぜひともお目にかかりたい。
俺はできるだけ機嫌を損なわないようにお願いする。
「女神さまでございますか…
でしたら、直接顔を合わせてお話しできませんでしょうか?
声だけでは私の言葉もうまく伝わらないと思いますので…
何卒、宜しくお願いいたします。」
「神なのになぜだかすごい低姿勢ですね…
でも、確かにそのとおりです!
せっかくなのでお顔を合わせてお話しましょう!」
言葉が終わるやいなや、俺の真上に光が射す、真上!?
「初めましてとなりますね。私があなたを導いた女神、神名をメビィ・リングと申しま…って、きゃぁ!」
俺の真上に顕現した女神さまは堂々と俺の腹めがけて舞い降り、そして踏みつけた。
「なんでそんなところにいらっしゃるのですか! お顔をあわして話す前に私に踏まれてどうするのです! 変態ですか!」
「君がここに現われたせいだろ!?」
女神さまのあんまりな言い草にさすがに言い返す。
そしてどんな面か拝んでやろうとして、俺は絶句した。
俺の腹に降臨してきた女神さまをまず表すのならば、巨乳であったからだ。
それもこれまで見たこともないほどの素晴らしいBUST。
これを拝めたのだ、もうなにもいらない
俺は静かに目を閉じ、安らかで穏やかな永劫の眠りについた。
めでたしめでたし。
「めでたし、めでたしではありませんよ! なにもう今生に未練はないみたいな顔をしてるんですか!」
終わらなかった。
終わらなかったので、俺は目を開けて改めてその双丘へと視線を移す。
「やべぇよ…こんなすげぇのグラビアでもみたことねぇ…」
「発言が変態ここに極まれりですね…」
「いやしょーがないでしょ、こんなん見せられたら誰だって釘づけですよ!」
「開きなおらないでください!」
「ほんとにすごい…これ何カップですか?」
「知りませんよあなたの時代の尺度なんて!!というか顔ぐらい見たらどうですか!」
胸がぶるんと揺れた。あまりに理想を体現している光景に逆に冷静になってきた。
とりあえず弁解をしなければ。
「あの、ほんとすみません。いや、いやらしさとかじゃなくてですね、こうなんていうのかな、完成された美をみてる気分になったというか、とにかく目が離せませんでした、はい。」
「謝ってるのにまだ目が離せてませんけどね……。まぁいいでしょう! そのお言葉に免じて今回は許します。それにこれから一緒にやっていくのです。多少のことには目をつぶりますよ。」
寛大な女神さまの言葉に、これ以上の失礼はまずいなと考えた俺は我ながらようやく女神さまの顔を見る。
一言で例えるならば、彼女は絵画の中の住人だった。
純白のゆったりとしたローブは彼女の気品ある立ち姿をより荘厳で神々しいものにしていた。頭にかぶっている月桂冠は真に女神たる証明を周囲に示しているのだろう。
端正で美しいがどこかかわいらしさを併せ持っている顔だちで、身長は160cmくらい、制服を着ていればどこかの女学生のように見えるだろう。長く垂れ下がっている黒髪とこちらを見据えている黒い瞳には日本人として親近感を覚えたが、その瞳の奥には揺らぐことのないつよい信念のようなものを感じ、少し委縮してしまいそうになる。
先ほどから俺の視線を逃がさなかった双丘は大きいながらも彼女の美を損なわず、完璧な調和を演出していた。
「ようやくまともにお話しできそうですね。」
やれやれといった風にこちらを見下ろしてながら俺の上から下りる女神さま。
「あらためまして、私はメビィ・リングと申します。神階は第10位、司るものは‘転生’です。神としての力は未熟ですが、一応あなたの主神ということになります。敬いの心を忘れず、常に私をたててください。そうすれば私からの加護があるでしょう!」
神階?転生?主神?とにかくわからない言葉だらけだ。
俺は混乱しながらも問いただす。
「あのメビィ…様? メビィ様は神様であらせられていらっしゃるんです?」
「言葉遣いが変ですよ……まぁそのとおりですね。」
すごい、今俺神様と話してる。これって新しい宗教でも創始できるのではないか。
巨乳女神教的な。
「また変なことを考えてますね……、顔でわかりますよ。少々不安になってきました…」
失望の色を隠さないメビィの声に、俺は慌てて頭を働かせるようにする。
「すみません。ですが、なにがなんだかわからなくて… とりあえず説明してもらえませんか。今の俺の状況を。」
「あれ、知識がないのですか? 転生が成功していればこの世界の知識も与えられるはずですが…」
まさか、失敗したの…?とつぶやきながら俺を見ているメビィ様、その目は細く、俺の不安を煽るものだった。
しかし知識なんて全く思いつかない、目覚めたときに感じた全能感や神になっているという確信もメビィと話しているうちに小さなものになっていた。中小企業の一サラリーマンという自覚しか今の俺にはない。
「なにか、まずかったですかね…? ほんとになにもわからないんですが…」
現状を把握するには彼女の存在が不可欠なのだ。どうにか情報をききだしたい。
俺は恐る恐る聞いてみる。
すると彼女は、
「いえ、少し計算違いがあっただけです! 問題ありませんよ!
わからないことがあるのなら私がお教えすればいいだけですしね。」
どうやら彼女は切り替えが早いタイプらしい、明るく声色で俺に話し返した。
「そうですね、なにから説明しましょうか……ではまずあなたの現状についてを。」
一呼吸置いたのち彼女は話し始めた。
「私の権能によりあなたは人間から神へと転生を果たしました。こんなことは異例中の異例です。それというのも私とともに創造主となる試練に挑んでいただきたいからです。」
「やっぱり神になっていたんですか…」
「あら、確信がおありでしたか。やはり少し知識の伝達が不十分なだけのようですね。」
メビィは笑顔をたたえて話し続ける。
「あなたの創造力は他の人間を大きく凌駕していました。だからこそ私はあなたをパートナーとして選んだのですよ。」
想像力? たしかに昔から小説を読み、その世界に思いをはせることはすきだった。けれどもそれが他の人たちより優れていたなんて到底思えない。
疑問に思っているとメビィが訂正をしてきた。
「想像力ではありませんよ。創造、天地を創造するほうの創造です。物に形をあたえ、意志をあたえ、神の信徒とする力です。人間の身で力を自覚することは難しかったでしょうね。しかし、今は神の身です! 存分にその力を使ってください!」
どうやら俺には神になる才能があったらしい。
「とんでもない才能があったもんだな…」
俺は自嘲気味に笑った。人より傑出したなにかなんて持っていないと思っていたが、思いもよらないものがこの身には隠れていたものだ。
「それで、その創造力っていうのはなんの役にたつんですか? それに試練って?」
「試練とは大戦のことです。そして創造力は私たちが大戦に勝利するために絶対に必要となる力です。」
「大戦?」
不穏なワードに俺は身を強張らせる。
「大戦とは神々が次の創造主を決めるべく、‘箱庭’にて行う疑似世界大戦です。10の神々が10の陣営に別れ、各々自分の信徒となる種族を創造します。そして神同士、お互いに競い合い、最後まで神としての威光を守り続けた陣営の勝利となるのです。
勝利した陣営は新たな世界を創る権利を獲得いたします。自分の好きなように世界を創造することができるそこはまさに理想郷、神としての絶対的な安寧が約束されるのです。」
「私たちはこの大戦の最後の陣営として参戦します。ともに協力し合い、勝利をつかみましょう!」
「いや、勝利をつかみましょうっていってもですね…」
正直、いきなりこんな話をされても頭が追い付かない。
昨日まで一介のサラリーマンだったのだ。
それがいきなり神様となり、加えて種族をつくって他の神と戦えなんて……。
現実感のない話にこれは夢なんじゃないかと本気で考える。
考えがまとまっていないのが顔にでていたのであろうか、メビィは、
「……もう! 煮え切らない人です! こんな機会普通の人間生活をおくっていたらまず味わえませんよ! そんなんだから彼女ができないのです!」
「それ関係あるんです……? てか、なんで知っているんですか……」
「神にわからないことはありませんよ。 さぁそろそろ顕現の時です!」
「いや、まだやるとは…!」
そう言いよどむ俺を無視してメビィは大きく手を広げた。
「行きますよ! 世界のすべてを創りだしましょう!」
とたんに俺の視界はまばゆい光に包まれる。
同時にエレベーターがすごい速度で落ちていくような、浮遊し浮き上がり自分の存在があいまいになるような感覚がした。
世界を生み出す物語。のちに神話として語られるであろう物語がこの時始まった。
不定期更新ですが宜しくお願いします。