◇4◇◇生活改善させて下さい!
◇◇◇◇
朝食の後は部屋に戻ってお着替え。
1日に何回着替えさせられるのか……。
リアル着せ替え人形だよ。
ウンザリだけど仕方ないね。
お貴族様だし。
これは、お貴族様標準なんだね。
まぁ、これから散歩に行くし。
今回のドレスは僕のリクエストに応えて貰うけど。
出来る限りはね?
「これからお庭を散歩するから、なるべく飾りの無いドレスにして」
僕がそう告げると、エレナはこの世の終わりかって位のショックを受けていた。
何故だ!?
抱えていた僕のお着替え予定のドレスを、ギュッと抱き締めて青ざめている。
何故にソコまで!
泣きそう!?
僕の方が泣きたいよ!!
何を好き好んでそんなフリフリ過多のドレスを着せられなきゃいけないワケ?
女の子がフリフリ好きでも流石にソレはやり過ぎだよ!
あぁ、でもエレナには看病もそうだけど、散々世話になっているし。
穏便に!
穏便に説得しよう!!
あ、涙が!?
エレナ!
泣くほどの事なの!?
やっぱフォローか!
フォローしなくちゃ!!
あ~、僕の方が脳内パニックだよ!
外面には出さないけど!!
「これからお庭をお散歩したいの。お外だと、何かに引っかけるかも知れないでしょう?飾りが破れたり、それで転んだりしたら悲しいし嫌だものね?」
小首を傾げてエレナを仰ぎ見る。
上目遣い…あざといか?
でもね、子豚体型にフリルにリボンにレースの塊ってくす玉みたいになっちゃうよ!
冗談じゃなく!!
着たら見た目まん丸。
歩くより転がった方が速い感じになっちゃうよ!
しかもベビーピンク!
あり得ない!
コメディアンか!?
お笑いなの!?
僕の趣味にまず合わないもん!
ハンプティダンプティも真っ青だよ!
もっとシンプルな服でいこうよ!
お願いだから!!
ってか、何故ソレを選んだの?
そういうのは、もっと痩せた華奢な体型じゃないと!
僕的にはドレスの中で身体が遊んでる様なホッソリさんじゃないと!!
もう!!
エレナのセンスってどうなってんの?
エレナとの攻防はココでも凌ぎを削った。
絶対負けられない戦いってあるんだね……。
かなりの連戦状態でさ。
結局それでも何とか妥協させたよ。
僕のドレスの中でも、1番飾りやら布地やらが少なめのに着替えた。
僕から見ればまだまだヒラヒラ過多だけど。
まぁ淡い水色だから我慢。
膨張色は勘弁してくれ……。
そうだ!
これから運動着代わりに、シンプルな服をもう少し用意して貰おう!
動き易くてシルエットもすっきりのシンプルなやつ。
ダイエットの為には譲れないコトが沢山あるんだよ!
◇◇◇
………なんでこうなる?
うん、散歩してます。
領城の中の庭園の1つですが。
お父様は執務室でお仕事だから欠員。
流行り病も大体終息に向かっているらしい。
ウチの領内だけで収まって、ホント良かった。
非常事態で領内を封鎖していたみたい。
王都とも頻繁に連絡取り合って、本当に忙しそうだ。
サスガ宰相様!
完全に終息しないと領地の封鎖は解けないから、お父様はタイミングを計るためにも情報収集と現場の指揮に忙しい。
それは良いとして!
他の家族皆さぁん!
なんで参加してるかな?
お母様、領地に居たって社交やら慈善活動の炊き出しに視察やらは?
沢山ある筈だよね?
お兄様方、家庭教師はどうしたの!?
毎日毎日、勉強に武術の訓練に忙しい筈だよね!
うん、ルーフェウスはまだ小さいから、余り教育らしい教育はまだ無い。
僕が漸く初級の勉強を始めたばかりだし。
公用語の読み書きと簡単な礼法。
そして社会制度の勉強。
大体最初に身分制度をガッツリって……。
やっぱ相当階級に厳しい国なんだね。
そういう意味では身分高くて良かった。
余り理不尽な思いはしなくて済みそうだし。
それなりに窮屈な生活ではあるけど、絶対的に守って貰える身分は有難いよね。
散歩をしながら、僕と手を繋いでルーフェウスはゴキゲンな通常運転だ。
それに加えて、僕付きのエレナはともかく。
他の使用人の皆さん!
お仕事は?
侍女さん達に侍従さん達!
ついでに執事さん2名様!!
案内役なんて要らないだろ?
なんでゾロゾロ大名行列紛いになってんだよ……。
疲れる……。
主に精神的な意味で。
気力がガリガリ削られてくよ!
『そちらには段差が』
『足元に小石が』
『その木には棘が』
『敷石に隙間が』
その他諸々………。
一々ウルサイんだよ!
すぐ立ち止まって、エリア担当の庭師を呼びつけて……。
修正が済む迄お待ちをってか?
冗談キツいよ、それ!
お~い、僕は散歩したいんだよ?
視察している訳じゃない!
大体5歳児相手になんなの?
これも過保護の一環なのか?
ちっとも運動にならないよ!
歩くより止まっている方が長いんだもん!
何なんだよ、この状況は!?
もうヤだよ。
はぁ、気疲ればっかだな。
どうやったら、ちゃんと普通に散歩出来るんだろ?
何でこんなコトに悩まなきゃいけないんだよ?
お貴族様ってココまでされるの?
深窓のご令嬢ってか?
ムリだ……。
ココまでの過保護っプリに、僕は順応出来ないよ。
適度な距離感ってどんなだっけ?
パーソナルスペース確保させてよ!
やっぱり此所もワガママするか。
こんなコトがワガママになるなんて、情け無くなってきたぞ!
くそぅ!!
僕には目的があるんだから!!
ダイエットの為の体力作りがさ。
頼むから邪魔しないで欲しい。
善意だろうけど、それが迷惑なんだっての。
悪意がないから、一方的には怒れない。
そんなの単なる僕の癇癪になっちゃう……よ。
ストレスマックスでだだ上がり!
ストップ高キープしてるよ。
自分でもこころの呟きで、何言ってんのか解らなくなってきた。
もうイイや。
ワガママ発動するもん!
「私、庭を見たいのではなく、散歩したいんですが?」
いい加減イライラ絶好調です。
思い切り不機嫌そうに、唇を尖らせて不満を漏らす。
「「「アルフェミナ、どうしたの?」」」
家族が不思議そうに振り返り、僕を見て揃って狼狽える。
やっと僕の機嫌がだだ下がりって気付いたみたい。
やっとかよ。
みんなどうしてイイか判らず固まってる。
ふん、知るか!
僕はそのまま無言で、家族や使用人の間をすり抜ける様に前に出た。
「ねぇたま……?」
僕と手を繋いだままのルーフェウスが僕に続いてくる。
不安そうなルーフェウスに僕はにっこり微笑んで、内緒話を打ち明ける様にそっと告げる。
「ルー、競争しましょう?あちらに見える生け垣のアーチ迄ね?」
「はい、ねぇたま!」
僕の言葉を聞いた途端、ルーフェウスは意気揚々走り出す。
行動早いな、おい!
ヨーイドンもしてないし、僕と手を繋いだまま。
引っ張られる!
これは競争になってないよ。
ルーフェウスは良いのか、これで?
まぁ、僕は運動になれば良いけど。
2人で先に走り出す。
ドレスの裾がちょっと邪魔だけどね。
伊達に前世で女装させられた訳じゃないもん!
この程度で縺れて転ぶか!
校舎の階段ドレスで3段飛びで爆走してた位の僕にしてみりゃ、芝生の上を走るのなんて楽勝、楽勝!
ザマァミロ!!
前世じゃ何の為のスキルか判らなかったけど、今目一杯役に立ってるよね!
無駄スキルと思っていたけどラッキー!
なんてね。
情けないとか考えたら敗けだもん!
呆気にとられたのも束の間、お兄様方が慌てて即座に追いかけて来た。
「危ないよ、アルフェミナ!」
「止まって!アルフェミナ」
2人の焦り声の呼び掛け、に知らぬ存ぜぬで走り続ける。
ワガママ発動中だもん!
ルーフェウスと2人でアーチ迄辿り着いてから止まる。
つ…疲れた……。
「ルーは足が速いですね!姉様驚きました」
「ねぇたまに褒めらぃた!」
褒められて嬉しそうに僕の周りをクルクル回る。
仔犬か。
元気だね!
一方僕は息も切れ切れだけど。
足もプルプルしてる。
しゃがみこみそう。
たったこれだけで?
僕の身体、大丈夫か?
体力無さ過ぎだろう!
だって多分目測100メートルにも満たないよ?
ナニコレ?
冗談じゃないよ!
汗が止まんない。
あ~、ちょっとキモチ悪い。
「「アルフェミナ!大丈夫!?」」
お兄様方も通常運転だね。
弟はどうでもイイのか?
まぁ、まだまだ元気に走り回ってるけどさ。
レオン兄様は息切れしている僕の背中をゆっくり擦ってくれる。
ライアン兄様はルーフェウスを追いかけて捕まえてる。
「ルー、アルフェミナは病み上がりなんだから、無理させちゃダメだよ?」
「そうだよ、また寝込んだら暫く会えなくなるんだよ?」
「やぁ~っ!」
2人がかりで怒られ、お約束の羽交い締めされていた。
ルーフェウスの大きな瞳から見る見る涙が溢れ出す。
あ~、泣かせたな。
ダメじゃん、ソコまでしちゃさ。
一番ちっちゃい子なんだから。
もうちょい大目にみようよ。
広い心でさ。
「レオン兄様、ライアン兄様!弟を苛めるのはいけません」
僕は腰に手を当てて胸をはる。
いかにも怒ってますポーズ。
2人は年上なんだからね!
締めるトコはちゃんと締めないと。
「「アルフェミナは僕達よりルーのが大事なの!?」」
……おい、ちょっと待て。
そういう話じゃないでしょ?
問題すり替えすんなよ!
なんで2人してショック受けてるの!?
泣きそうになってるの!
ちっちゃい子に本気で張り合わないでよ!
僕が悪いみたいじゃないか!
息も整ったし。
ちょっと矯正しないと駄目なヤツだな、これ。
手間がかかる兄弟だな、本当に。
可愛がってくれるのは有難いけど、違うよね。
先ずは穏やかに。
「問題が違うでしょう?私は病弱ではありません。体力が無いだけです。だからルーを脅かすのは間違っているでしょう?」
「でもアルフェミナ!」
「私が体力をつければ、すぐに寝込む事も無くなります。みんなに心配をかけずに済みます。それともお兄様方は、いつまでも私がすぐに寝込む様な病弱なままの方が良いのですか?」
「僕達はそんなつもりは……」
「私はもう大事な家族に、些細な事で無理して欲しくないのです。お兄様方もお母様もルー迄病み上がりだったのに、私の快癒と無事を願って城内の祈祷室に籠っていたのでしょう?お父様だって領内の疫病対策で執務室にいる以外ずっと祈祷室にいたと聞いています。私の我が儘のせいで、もう二度とそんな事をさせたくないのです!」
お兄様達の言葉を遮り、一気に畳み掛けまくる!
反論は一切聞きません!
「……でも、アルフェミナぁ……」
~~~っ泣くな!
兄が妹に対して、涙を武器にするな!
まだ子供だからといっても違うだろ?
僕の同情引きたいなら方法間違えてるね!
イラッとくる方が先だもん。
「それともお兄様方は私をいつ死んでもおかしくない位、か弱いままにしておきたいのですか?」
「「違っ……!」」
慌ててるけど、聞かないよ?
寧ろ追い詰めてやる!
間違った愛情のかけ方ははた迷惑以外の何者でもないので!
「違いません!可愛がるとか守るとか言いながら、私を弱いままにして閉じ込めているのは決して愛情ではありません!」
強い言葉に、2人はしゅんと萎れてしまった。
もう、項垂れて言葉も出ない。
すっかり打ちひしがれているなぁ。
一呼吸おいてから、僕は優しく言い含める。
鞭の後にきっちり飴。
「私が今まで甘え過ぎていたのです。だから、これからは見守っていて下さいますか?」
「「アルフェミナぁ~っ」」
「ねぇたまっ!」
2人が僕に抱きついてくると、ルーフェウスが負けて堪るかと2人の隙間からグイグイ内側に潜り込んで来た。
何でソコまでして張り合うのか理解不能だよ……。
「私も手助けが欲しい時にはちゃんと言いますから、お願いしますね?」
「……アルフェミナ、何て立派になって……!」
アーチの陰からお母様が涙ぐんで寄って来た。
いつの間にそこにいたんですか?
というか、居たのなら仲裁して下さい!
見守っていただけですか?
そこは突入しましょうよ。
母親として、きっちりケジメの躾しましょうよ!
何で僕がやらなきゃなんなかったの?
お母様は僕達を纏めてヒシッと抱き締めて、厳かに言い放つ。
お~い、最後の美味しいトコだけちゃっかり持ってく積りですか?
イイ性格してんな!
「アルフェミナがこんなに立派になっているのだから、貴方達も相応しく努力しなくてはね?」
「「「はい、お母様!」」」
あぁ、やっぱり通常運転に戻るんだね?
僕への過剰な溺愛攻撃…ごちそうさまです!
うぅ…何だか腑に落ちない。
この気分はどうすればイイんだろ?
ま、とりあえず置いとこ。
僕の生活改善を何とかするのが先だし。
……どうにか出来るのかな?
皆さん生暖かい目で見守って下さい!(泣)
さて、無事に主人公はレベルアップ出来るのか!?
障害は家族からの溺愛攻撃!
難度は高いぞ!
頑張れ~っ(笑)
善意とか愛情とかからの、お邪魔虫って厄介だからね~( ̄ー+ ̄)
とりあえず気楽に楽しんで頂けたら幸いです!