◇2◇◇一念発起してみよう!
◇◇◇◇
結局ベッドから離れられたのは、10日も経ってからだった。
いやぁ、甘く見てたわ。
うちの過保護っぷりを……。
正直いえば、3日程ですっかり完治してたよ!
子供の回復力&治癒師(魔法だよ!すげぇタマげた!)は侮れなかった。
仕方ないからベッドで大人しくしてたよ。
眠るといって部屋に1人になった時、地道にストレッチなんぞやってたよ。
だって身体鈍るじゃない!
只でさえ暫く寝込んでいたんだから!
身体動かなくなるの嫌だったし。
人目を盗んで腹筋とか……。
軽く筋トレもね!
ま、病み上がりで体力の無い5歳児じゃガッツリなんてムリだけども。
『早目の適度なトレーニングは将来のスレンダーボディの為』って、前世の母親も言ってたし。
4人も子供産んで育てても、出るトコ出てる魅惑のスレンダーボディ!
正に驚異の美魔女だったから。
全身丁寧にケアしてたのは知ってるし。
小さい頃は自慢の美人母だったが……同レベルのクオリティを自分の子供全員に強要するのは……。
うん、こっちがキツかったわ。
子供や旦那がダサいのも赦せない美意識の塊だったんだよね。
それが母親のワガママだとしても!
家では罷り通っちゃうんだよ。
こういう所は母親が我が家のルールだったから。
持って生まれた容姿を、如何に端正に魅せるか。
姿勢や仕種を整え、自身の体格や顔立ちに合わせて。
センスや教養を磨き流行を然り気無く取り入れながら、自分の基本的スタイルを崩さない。
流行りに流され過ぎない。
前世の母親の拘りって考えたらスゴかった。
今回の人生ではは参考程度にはさせて貰う!
あんまり血道あげるのは僕のスタイルじゃないからさ。
だってねぇ。
美家族に囲まれているんだったらさ。
愛されてるからって、手ぇ抜き過ぎはダメダメでしょ?
家族の中で1人だけ!
過保護&溺愛され過ぎて肥満児になってるのは、僕が不快だし。
『他人様に陰で笑い者にされたくない!』って位には、プライドだってあるんですよ。
それなりに。
うん、今の僕の身体は若干肥満児。
ぷくぷく子豚体型。
寝込んで少し窶れたけどね。
でも、まだまだ余分なモノが身体のシルエットを覆い尽くしている。
絶対に根本的解決をしたいし!
子供ならダイエットは適度な運動からだよね。
現世じゃ今まで全く運動してない。
貴族のお嬢様ってそういうモンかもしれないけどさ。
身体を動かす事から慣れないと。
ちょっとストレッチしただけで息が上がる。
筋トレ軽くワンセットもクリア出来ない!
こんなんでグロッキー入るなんて!
僕的には有り得ねぇよ!!
最初の一歩が余りにもショボ過ぎだろが!
それに食事バランスだってちゃんと考えなくちゃ。
何せワガママに好きな物しか口にしてない!
有り得ない食生活!
正に肥満街道一直線だよ!
唯一の救いは少食だって事かな……。
全然身体を動かさないからなぁ。
お腹減らないの当たり前だよね~。
大体今までどうやって生きてきたの?
肉も野菜も魚介類も大嫌い!
一体何なら食べるんだよ!?
何なの?
今までの食生活!?
このアンバランス!!
殆どのモノは大嫌い。
なのに、そのクセ甘い物だけは大好き!
……本当このままだったら取り返しつかない処まで……。
体内バランスどうなってるんだろ?
内臓脂肪とかコレステロールとか……。
若年性成人病予備軍じゃないのかな?
怖い想像しちゃった。
そんな事には絶対させないよ!
そんな訳で絶賛ダイエット敢行中!
頑張ろう。
将来の自分の為に!
健康な未来の為に!!
◇◇◇◇
僕の目の前には、大きな姿見がある。
それこそ、お相撲さんでも余裕で全身映せそうな。
僕専用の鏡に映る自分を観察する。
髪の長さは背中の真ん中辺りまで。
緩く波打つアッシュブロンド。
瞳の色は淡く透き通ったアクアブルー。
母親譲りの猫みたいな印象のくっきりした二重瞼はちょっと釣り気味かな。
バサバサの長い睫毛。
マッチ何本乗るかな?
肌色は……ちょっと湿疹で赤味出てるトコもあるけど。
地色は、雪の様に白い。
子供ながらにも通った鼻筋。
そして、桜色の形良い唇は頬のお肉に押され気味で普段から不機嫌に尖らせてるみたい。
ちょっと二重顎染みてるのは今は無視。
探れば、顎の骨は細く尖っている。
頬っぺたに肉ついて盛り上がって、普通にしててもムクれてる様にみえるけど、骨格的には顔の形は卵形。
パーツの配置も悪くない。
身体の方の骨格も、まぁさして悪くない。
骨格は基本的には華奢な方なのかな?
いや、でもカルシウムとか絶対足りてないから……。
骨が細いのはそのせいかも?
5歳児で骨粗鬆症とか洒落にならないよ!
頭は小さい。
首も適度に長い。
肩は少し細め。
腰の位置も高め
手足は……ちょっとぷくぷくしてるのに目を瞑って、うん……まぁまぁ長い方!
手の形をじっと確認。
プクプク肉がついて、赤ちゃんか!
いや、骨格を探ろう。
手幅は細く指も長い。
これでグローブな手なんて、どこまで浮腫んでるの?
いいもん!
ぷよぷよはもう今考えない!
ダイエットするもん!
幼児体型キューピーちゃんは今だけだもん!
素材は結構イイもん!
このまま肥満が進めば、頬のお肉に目が埋もれそうでも!
今ならまだ引き返せるもん!
間に合うもん!
絶対間に合わせるもん!!
はぁ、誰に言い訳してんだか……。
いや、今からウンザリして現実を見ないでどうする?
後悔先に立たず!
先人の教えにあるじゃないか!!
頑張れば何とかなる!
……筈…だよ、ね?
「お嬢様?まだ具合が……」
エレナが心配して覗き込む。
俯いていた顔を上げて、慌てて首を横にふる。
やっとお許し出たんだよ!
お着替えして食堂にいくんだよ?
ベッドでの食っちゃ寝生活も終わりだよ!
そう!
朝食はちゃんと摂らなきゃ。
健康的な食生活を!
ダイエットの基本だね。
又ベッドに逆戻り何てもうヤダ!
人目忍んでこっそりストレッチ&筋トレも!
ベッド周りぐるぐる歩いてウォーキングも!
もう飽き飽きだ!
ビクビクしながら様子を伺ってなんて、もう無理!
思わず必死の形相でエレナを見返してしまった……。
暫し見詰め合い攻防を繰り広げる。
1番の過保護はやっぱりエレナだよね。
困らせたかな?
でも譲れない!
「…わかりました。ですがお嬢様、無理は禁物ですよ?」
「はい、でもエレナは心配性過ぎますよ?」
それにしても、何処まで人を病弱扱いするんでしょうね?
実際ちょっとベッド周りの軽い運動で判ってきました。
この身体って十分に健康ですよ?
肥満児入ってますが!!
「…私を気遣ってその様な事を……御加減がよろしくないなら…!」
いやいやいやいや!
何故そうなる!?
どういう思考回路!?
ヤメテ!
涙ぐまないでぇ!
「本当にもう何ともありませんよ?泣かないで」
精一杯にっこり笑う。
又々見詰め合い攻防戦。先に目を反らしたら敗けだ!
って動物の掟か!?
沈黙の中ようやくエレナが目を閉じて溜め息をつく。
やっとの事で不承不承でも納得してくれた。
はぁ、疲れる。
一事が万事この調子。
何処まで続く、この過保護!
廊下に出るとエレナに手を引かれて、何とかかんとか食堂に向かった。
お手手繋いで……。
ちょっと恥ずかしい。
けど仕方ない、5歳児だもんね……。
1人で歩けるなんて言い出せない。
僕の方を振り返りながら嬉しそうなエレナを見たら。
歩調も僕に合わせてゆっくりで。
病み上がりなんだよね、一応はさ。
今の人生まだ短いけど記憶を辿ると、何時でも移動する時は誰かに手を引かれてるな。
エレナは勿論兄弟達に母親。
父親は…抱き抱えられてた……。
『お前かぁ!肥満の元は…』って、怒れない。
抱っこをねだって楽してたの自分だし。
つらつら考えを巡らせてたら食堂に着いてた。
◇◇◇◇
両開きの扉は食事をする全員が揃うまで、開かれている。
僕が食堂に入ったら後ろで扉は閉められた。
もう家族全員揃ってるって事だ。
改めて家族にちゃんと朝の挨拶しないとね!
「おはようございます。ご心配おかけしました」
一気にパァッと全員笑顔!!
嬉しそうだね、皆さん!
ホント、家族に愛されてるってヤル気出るね!
絶対自慢の娘(もしくは姉妹)になってみせるよ!
これからガンバろ!