データ20 検問所
タン
「うぎゃああ!」
恵は痩せ型の男の右足を撃った。
「あんたには苦しんで死んでもらわないとね」
恵は痩せ型の男の右足を掴むと、防音壁が壊れてなくなっている部分へと引きずる。
「悠斗手を持って」
「お、おう」
壊れた防音壁の下には路線バスが垂直に立っており、中からゾンビが何十体も這い出てきていた。
悠斗が痩せ型の男の両腕を持ち、恵が両足を持つと振り子のように痩せ型の男性を揺らす。
「せーので離してね」
「え?」
「せーの!」
悠斗は訳の分からないまま手を離すと、痩せ型の男性は高速道路下の横垂直に立っているバスの後部の窓からバスの中へと落ちていく。
「うがっ」
痩せ型の男性は運転席まで落ちる。
「あの野郎!」
痩せ型の男性が起き上がると、横の運転席ではシートベルトで固定され暴れているゾンビがいた。
「ひっ!」
痩せ型の男性は懐に仕舞ってあるはずのP2000を探すがどこにも見つからない。
「高速道路に・・・!」
ドサッ
痩せ型の男性の横に片足が千切れた女性のゾンビが落ちてくる。
ガシッ
片足の千切れた女性のゾンビは痩せ型の男の肩を掴み、近寄ると首もとを噛み切る。
垂直に立つバスから悲鳴が聞こえてくるのを高速道路から悠斗と恵は眺めていた。
「お前、悪趣味だな・・・」
「そう?これでも生ぬるいくらいだけど・・・」
恵は高機動車の運転席に乗り込む。
悠斗も助手席に乗り込む。
「もう一人はどうするんだ?」
「見た感じ虫の息だったし、検問所まで持ちそうに無いから置いていくわ」
「・・・お前、悪魔かよ」
車は再び走り出し、雪の積もる高速道路を走る。
不動寺パーキングエリアに近づくと、パーキングエリア入り口では車が何台も絡む事故で入れなくなっていた。
「もうすぐね」
「宣言どうり逃げるのか?」
「んー、いけるかと思っていたけども、捕まったほうが安全そうね」
「それもひとつの手だな」
清水谷第一トンネルを過ぎると、バリケードが見える。
「あ、これは逃げられないわ」
バリケードの奥にはいくつものテントがトンネル内に続いており、周りには小銃を持った自衛隊員や警察官がうろついていた。
車をバリケードの手前で止めると、一人の自衛隊員が近づいてくる。
後ろでは数人の自衛隊員が銃を構えていた。
悠斗と恵は車から降りるとバリケードに近づく。
「君たちは自衛隊では無いね」
「はい。この車は乗り捨てられていたものです」
「そうか。君たち二人だけか?」
「はい」
「それでは、女性はあの青いテントで、男性の君は緑のテントで体を噛まれていないか調べさせてもらう」
「かまいません」
自衛隊員がバリケードの一部を開ける。
「多分もう会うことは無いわね」
「え?」
「テントの中で身元まで調べられるでしょうから、そのまま逮捕ね」
「そうか・・・面会ぐらいには行ってやるよ」
「そのときはよろしくね」
悠斗と恵は握手を交わす。
「早く入りなさい」
悠斗と恵がバリケード内に入ると、自衛隊員がバリケードを閉める。
悠斗はそのまま小銃を持った自衛隊員に連れられて緑色のテントに入る。
テント内には小銃を持った自衛隊員が2人立っていた。
「所持品はこちらに」
一人の自衛隊員がかごを出す。
悠斗はその中に所持品を入れる。
悠斗が9ミリ拳銃を取り出すと、周りの自衛隊員が小銃を悠斗に向ける。
「ま、待て!これは死んだ自衛隊から持ったものだ!」
悠斗はすぐにかごの中に9ミリ拳銃を入れる。
「そういえば君たちは高機に乗ってきたんだったな」
「高機?」
「高機動車、君たちの乗ってきた車の名前だ」
自衛隊員は小銃を降ろす。
「次に服を脱いでくれ」
「え?パンツも?」
「当たり前だ」
悠斗は体の隅々まで調べられた後、9ミリ拳銃を没収され、テントから出される。
すると、スーツを着た男たちが悠斗に迫ってくる。
「君は西村悠斗さんだね」
「はい」
「ちょっと車の中までいいかね?」
悠斗はスーツ姿の男たちに連れられて黒いミニバンに連れて行かれる。
悠斗はミニバンの一番後ろの3列目に座らされる。
「何と無く君も分かっているだろう」
「・・・はい」
「それなら話は早い。君が見た実験薬に関して今後一切誰にも話さないでもらえるか?」
「話したらどうなるんです?」
「悪いが、君の事を消すことになる」
悠斗の目の前に紙が一枚差し出される。
「これにサインをするだけでいい」
スーツ姿の男がボールペンを悠斗に渡す。
悠斗はボールペンを受け取ると、芯を出し、名前を書き始める。
ガシャン
タタタタタ
突然外から銃声が聞こえてくる。
「何事だ!?」
スーツ姿の男たちは懐から銃を取り出すと、ミニバンから降りる。
ミニバンの外では避難民たちが自衛隊員の誘導でトンネル出口へ逃げていた。
悠斗がミニバンから降りると、ミニバンの上に1人の人影が乗る。
その姿に悠斗は見覚えがあった。
「・・・恵」