データ12 封鎖
ピピピピピ
スマートフォンのアラーム機能で目を覚ます。
「もう朝か・・・」
悠斗は布団から出ると、すでに恵は起きていた。
「体は大丈夫なのか?」
「まだ痺れる感覚は少し有るけど特に問題ないわ」
「それなら安心した」
「・・・昨日はありがと」
「気にするなよ、俺も出会ったときに助けられていたからな」
「お相子ね」
恵は枕元においてあるベレッタM9を手に取るとマガジンを出す。
「これね、私の大切な物なの」
「そういえば、愛着があるって言ってたな」
「日本に居る前にアメリカに住んでいたことがあるの。そこで彼氏に貰った銃なの」
「それで、その彼氏は?」
「大学で銃乱射事件に巻き込まれて死んだわ」
「そっか・・・」
恵はベレッタM9を懐にしまうと立ち上がる。
「さ、こんなところに居てもしょうがないわよ」
恵はゆっくりと荷台のドアを開けると、ゾンビは近くには居なかった。
「何か武器になるようなものは無いかしら・・・」
「それならいい物があるぞ」
悠斗はトラックの側面にある道具箱からジャッキバーを取り出す。
「ちょっとリーチが短いけど、無いよりはマシね」
すると、トラックの陰から作業着を着たゾンビが現れる。
「もしかしてあいつこのトラックの運転手か?」
ゾンビが着ている作業着には「オオタニ運送」と書いてあり、トラックにも「荷物と夢を届けるオオタニ運送」と書いてあった。
「なら鍵くらい持ってるんじゃない?」
悠斗はジャッキバーを作業着を着たゾンビに向かってスイングする。
グシャッ
ゾンビは地面に崩れ落ちる。
すぐに悠斗はポケットを調べると、鍵が出てくる。
悠斗は運転席に乗り込むと鍵を差し込み捻る。
ドルゥン
周囲にディーゼルエンジンの始動音が響き渡ると、ゾンビがゆらゆらと寄って来る。
恵は助手席に乗ると、シートベルトを締める。
「燃料はどれだけあるの?」
「メーターだと半分だけど、このトラックの大きさからすると250リットルくらい残ってるんじゃねぇかな?」
「あんた大型トラックにも詳しいのね」
「あの会社に居る前は長距離をやって整備もやらせられていたからな。嫌でも詳しくなったよ」
悠斗はゆっくりとトラックを発進させる。
「このまま進んで富山に抜けるのはどう?」
「金沢よりは近そうだな」
悠斗は交差点を曲がり、国道471号線に入る。
しばらく周囲を田んぼや森林に囲まれ、ゾンビの数は圧倒的に少なくなっていた。
「こっちの道で正解かもな」
「これなら昼までには富山県ね」
グシャッ
トラックは道の真ん中を歩いていたゾンビを踏み潰す。
「お前は脱出したらどうするんだよ」
「ひっそりと暮らしていくわ」
「ひっそり?」
「小さい田舎の会社に名前を変えて就職して、もう二度と研究なんてしないわ」
「相当懲りたんだな」
「当たり前よ!もうこんなことはうんざりだわ!」
道路上の案内板には富山まで5キロと書かれていた。
しばらく走ると放置車両が増えてきて大型トラックでは通れなくなった。
「駄目だ、此処から先は歩くしかない」
「そうね・・・幸いなことにあいつらは居ないしね・・・」
悠斗はトラックを路肩に止めると、エンジンを切る。
「何でこんな山奥で車がいっぱいなんだ?」
二人は周囲に警戒しながら放置車両の間を通っていく。
「ラジオで県境はどうとかって言ってたわね・・・」
「車で逃げれないとかか?」
さらに歩くと車の間から、奥に自衛隊の姿が見える。
「自衛隊だ!助かる!」
二人は嬉しくなり走り出す。
すると、突然放置車両が無くなり、代わりに赤色の線が道を横切るように引いてあった。
『そこの二人!そこの赤線より前に出るな!』
悠斗と恵は赤線の手前で立ち止まる。
赤線と自衛隊までの距離は50メートルほどあった。
「どうして駄目なんですか!」
恵が自衛隊に向かって叫ぶ。
すると、大型のスピーカーから声が聞こえてくる。
『此処からは富山に出ることは出来ない!高速道路か、空港を使って石川県から出るように!県境はすべて塀で封鎖して此処も時期に閉鎖するつもりだ!』
悠斗が周りの放置車両を見ると銃弾の跡がいくつもあった。
「おい、佐藤、なんか嫌な感じがする」
「何言ってんのよ!もうすぐで逃げられるのよ!」
恵が赤線を一歩踏み越える。
タァン
恵の横に停まっている車に銃弾が当たる。
自衛隊達が居るほうを見ると、数人の自衛隊員が89式小銃を構えていた。
『それ以上踏み込むなら感染拡大防止のためにやむなく射殺する!』
「駄目だ・・・引き返そう」
悠斗と恵みはおとなしく引き返すことにした。
悠斗と恵が引き返すのを確認した自衛隊員は小銃を降ろす。