天才少年、バトミントン部を守る
遅れてすいません。
8話目投稿します。
「貴方一体何をしてるの?」
「……うん?……なんだよ?……赤色……」
そう、目に映ったのは赤色。そう、スカートの中から見える赤色……の…………。そう考えたついた瞬間、顔を蹴られた。痛ってぇ!この野郎マジでやりやがったな。痛む頰を抑えながら暴力女王様を睨みつける。
……余談だが蹴り上げた瞬間、思いっきり見えた。
「今すぐ警察に出頭しなさい。いえ、もうこれは極刑レベルよ。その怪しく光る眼をくり抜いて火で炙った後に自分で食べなさい。新しくなって帰ってくるかもしれないわよ」
「じゃあなんで夏侯惇の片目は眼帯なんだよ。俺の目はトカゲの尻尾じゃないんだぞ」
片目を食べた夏侯惇さんの感想が聞きたい。目ってどんな味がするんですか?
「そんな事はどうでもいいわ。貴方、まだ桜坂さんの依頼を完遂していないらしいじゃない。そんな人が屋上で気持ちよさそうに昼寝しているなんて……貴方の評価を改めさせてもらったわ。授業をサボって昼寝してあまつさえこの私の下着を盗み見る変態。それが今の貴方の評価よ」
「うるせぇ。今まで必死に考えてたんだよ。大体お前、利用できそうな男なら誘惑だろうが脅迫だろうがして従えさせてるじゃねえかよ。今更俺に下着見られても恥ずかしがる事じゃないだろビッチ」
「貴方にはその利用価値すらないのよ万年四位の烏丸くん。デカイ口ばっか叩いてないで結果を出しなさい。世の中で評価されるのはいつだって結果だけなのよ。それまでの過程なんてあって無いような物なの」
うるさい。そんなの知ってるっての。
ん?てか今何時だ?コイツがここにいるってことは休み時間なのか?
携帯を取り出して時間を確認する。
画面には16時20分と表示されていた。
やばっ、もう放課後になってんじゃねえか。昼休み中も寝てたって事かよ。
重い腰を上げて屋上を出て行こうとする俺に龍神峯は話しかけてくる。
「貴方……目星はついてるの?」
「さあな。俺は蒔いた種を回収しに行くだけだ」
そう言い残して俺は屋上を後にした。
第四体育館に到着すると、すでにバトミントン部23のメンバーが全員揃っていた。全員ここにいると言う事は桜坂が俺の言った事を実行したのだろう。
俺が来たことを確認した桜坂は小走りで俺の方に走って来た。
「あ、あの、言われた通り全員集めました。けど本当にコレで良いんですか?」
「ああ、良いに決まっている。元々今日はお前らの部活が活動する事になってるんだからな。俺らが体育館を使っても誰も文句は言わない」
そう言うと桜坂は少し不安げな表情をする。ったく、コイツは一体何をそんなに恐れているんだ。俺たちは只ルールに従っているだけなのに。
「いいか、お前らは俺の指示通りに動け。まあ只バスケするだけだけどな」
そう、俺たちが今からするのはバトミントンではなくバスケットボールだ。
学校の備品ではなく俺が家から持ってきた物なので問題ない。
俺たちは只コレで遊んでいるだけでいい。こうしていれば時機に向こうから仕掛けてくる筈だ。
「おい、お前ら何してんだよ!」
「……はやっ、もう来やがったのか」
怒鳴り声を上げたのは隣のコートを使っているバスケットボール部64の連中だった。何だよ、いきなり声上げるんじゃねえよバカ。
づかづかと此方のコートに入ってきた数人のバスケ部員達は俺の持ってるバスケットボールを指差して怒鳴り声を上げる。
「お前らバトミントン部だろ! 何でバスケットボールなんか持ってるんだよ!もしかしてそれって俺らの備品じゃないだろうな!?」
「ギャーギャーとうるせぇよ。このボールは俺が家から持ってきた物だ。お前らが普段から使ってる安物ボールと一緒にすんな。このボールを作った人に失礼だろ」
「なんだその口の利き方! お前、体操服の色からして二年だろ!? 俺たちは三年生だぞ。敬語も使えないのか!」
「いきなり此方のコートに入ってきて怒鳴り声を上げ、勝手にバスケ部の備品を使っていると憶測で怒鳴る人たちに口の利き方を問われるとは心外だ。で、なんか用か?俺たちは今からバスケする予定だ。……お前らに時間を取られるような事をした覚えはないんだが」
俺の言葉にバスケ部の連中の顔つきが憤怒に染まる。しかしそれは直ぐに笑みに変わる。何?コイツまさかそういう性癖?いるんだな本当にこんな人が。
なんて冗談はよそう。本当に気分が悪くなりそうだ。こいつらの笑みは……なんと言うか冷笑に近い。何がこいつらに余裕を持たせているのか……。
「今は部活の時間だ。お前らがやるのはバスケじゃなくてバトミントンだろ?早く用具を出せよ。見ててやるからよ」
ニヤニヤした表情で此方を見てくるバスケ部の連中。そもそも何でお前らに見てて貰わなくちゃいけないんだ。失せろカス共。
そう言おうとした時、バスケ部の目の前に桜坂が立った。
「あ、あの……今は、私たちバスケがしたいので……その、そちらには迷惑をかけないので」
「ああぁ!? 迷惑だとかそんなんじゃねぇだろぉが! お前らはバトミントン部だろ!? ならさっさとネットはって練習しろよ! 俺の言ってる事間違ってるかぁ!?」
「そうだぞ! 早くバトミントンしろよ!」
「それともバトミントンが出来ない理由でもあんのか!?」
「ならこの部は廃部だな。なんせ活動出来てないんだからよ」
「おい、誰か他のバスケ部呼んどけ。こっちのコートも貰って合同練習すんぞ」
此方の話を聞かずに勝手に話を進めるゴミ共。震える声を絞り出して桜坂は口を開く。
「あ、あの! 勝手な事は辞めてください!」
普段の静かな感じからは想像出来ない大声が体育館中に響きわたった。その声に再びバスケ部の連中が反応を示す。
そろそろ仕掛けとくか。
「おい、バトミントン部の部長さんよぉ。俺たちは只バトミントンをしろと言ってるだけだぜ?お前らバトミントン部だろ?ならバトミントンをするのは当然の事じゃないか?」
口調は先程より穏やかになったがニヤニヤした表情だけは変わっていない。
桜坂は下を向いて拳を握りしめている。必死に怒りを抑えているのだろう。綺麗に光る茶色の目からは少しずつ涙が溢れていた。
……ここらでいっか。
「うぜえよゴミクズ」
「あ?」
穏やかな表情が再び怒った口調に変わる。こいつら感情変わりすぎだろ。多重人格者かよ。
桜坂は涙目で俺の方を見ていた。お前はさっさと涙ふけ。あとその驚いた表情辞めろバカ。
「さっきから聞いてたら頭の悪い話しやがってよぉ。お前ら本当に高校生かよ。何でもかんでも自分の思い通りになると思ってる辺り幼稚園児レベルの残念野郎だな」
「おい、お前!さっきから好き放題言いやがって……」
バスケ部のゴミクズの一匹が俺の襟首を掴もうと手を出してくる。とうとう武力行使に来やがったか。言葉では勝てないと悟っての行動なのだろう。だが考えてみてほしい。勝てない相手に喧嘩を売るバカがこの世にいるだろうか?迫ってきたその手を右手で掴む。そして少し力を入れて握ってやった。
「痛ってぇ! おま、お前、何しやがる!」
「何って、そんなのも分かんないのか?幼稚園児でも俺がしてる事は分かるぜ。普通に手を握ってるだけだろ」
あ、ちなみに俺の握力96キロな。中学の頃の結果なので今は分からないが。
「テメェ、いい加減離せ!」
「離せ? お前から仕掛けといて何言ってんだ。自分の立場理解しろカス。今から俺のする質問に正直に答えろ。でなきゃ今掴んでるお前の手を潰す」
「お、おい、お前ら! 早くコイツを……!」
「下手に動くとお前らの手も潰す」
自分でも驚く程の声音が出た。その声にバスケ部の連中は何も言わずその場に立ち尽くして此方を怯えた表情で見ている。まあ威嚇にはなったか。
「なに、簡単な質問だ。お前ら……バトミントン部の備品に手を出した事があるか?」
「な、ない! そんな事した覚えはない!」
「ああ、本当だ!本当なんだ!」
こいつらの目……本当っぽいな。
なら質問を変えるか。
「次の質問だ。お前らは何しにこっちのコートに突っかかって来た? ただバスケするだけでお前らやけに怒ってたな。何でだ?」
「そ、それは……言われたんだよ、部長に!」
「部長?それはバスケ部64のか?」
「ち、違う。バスケ部の……この学校のバスケ部の部長にだ」
だから何だよソイツは。すると不意に袖を引っ張られた。そこには桜坂が立っていて俺に耳打ちしてくる。いや、別に耳打ちする必要ないけどな。
「えっと、同じ部活が複数ある時はその部活動を統括する代表者を選ばなくちゃいけないんです。あの人達が言ってるのは多分、バスケ部の代表者の事だと思います」
「ちなみにバスケ部の数は?」
「えっと、確か三百以上はあったと……」
その中の代表者って事は相当人望があるって事か。こりゃちょっと厄介だな。
とりあえず、今回の問題に少なからずバスケ部が関わっているって事はこれで確認できた。大方バトミントン部を廃部にして活動範囲を広めようとでも考えたのだろう。明日にでもその代表者さんの顔だけでも確認しとくか。
あ、そういや掴んでたの忘れてた。
「なあ、その部長さんに言っとけ。明日二年の烏丸 天理がお伺いしますってな。あ、その部長さんの名前分かる?」
「さ、三年十二組の、原田 剛さんだ。コレでいいか? もうちょっかいなんか出さねえから」
「ふん、当たり前だ。もし次もちょっかい出しやがったら確実にその腕を殺す」
腕を離してやると連中はそそくさと退散していった。これでもうバトミントン部にちょっかい出す事は無い筈だ。
……だが、正直何かが足りない。
コレは本当に只のイジメなのか? バスケ部の練習時間を増やす為に妨害工作をしてるのか?
もし俺ならバトミントン部23だけでなく他の弱小部活も潰していく筈だ。なのに連中はバトミントン部23だけを狙ってきた。
もしも、本当にもしも、連中の狙いが他にあるのなら……俺は何を間違ったのだろうか。
……うん、今は考えないでおこう。てか、この俺が間違いなんか犯すわけない。
「あ、あの、ありがとうございます」
不意に声を上げたのは隣に立っていた桜坂だ。頭を下げているので表情は伺えないが、恐らくもう綺麗なブラウンの目から涙は流れていないだろう。
「バカか。まだ犯人を捕まえた訳じゃねえだろうが。感謝の言葉はその時までとっとけ」
正直、今まで感謝なんかされた事がないのでどう対応すればいいか迷ってしまった。結果、何時も通りの素っ気ない感じになってしまったが桜坂は何故か笑っていた。
「ふ、ふふ、烏丸さんて優しいんですね」
「は? 俺が? 優しい?」
コイツ今の今まで何処を見てやがったんだ。俺が優しいなら普通の人間は菩薩か仏にでもなれるんじゃないかってレベルだぞ。
今なら間に合うから結構有名な眼科でも紹介しておいた方がいいか?
「だって、先程も先輩達の腕、本当は握り潰すつもりなんてなかったじゃないですか。それって先輩達の事も気遣っての事ですよね?」
「はあ? 何で俺があんなゴミクズ共の事を気遣わなくなちゃいけないんだよ。アイツらが変な事したら即座に潰してた」
「はい、そういう事にしておきます」
なんか含みのある言葉だな、おい。
ったく、変な奴に絡まれたもんだ。まあ、さっき連中の前に一人で立ち塞がった事だけは褒めてやるよ。てか他の奴等は何してんだよ。
まあ、とにかく今日出来る事はコレで終わりだな。明日その代表者の原田 剛って奴の何処行って軽く尋も……お話を聞かせてもらうか。
じゃあ今日はもう解散ってことで。
「何処行くんですか烏丸さん。バスケするって言ったのは烏丸さんですよ」
え? マジでするの?
結局この後最終下校時刻直前までバスケをする事になった。スポーツなんて嫌いだ。
読んでいただきありがとうございます。