天才少年、探偵になりました?
6話目です。
読んでくださった方、これからもよろしくお願いします。
突然の話で俺の思考回路が一度止まった。コイツ一体何を考えてんだ。
龍神峯は驚いた俺の反応を冷めた目で見ている。
「は? じゃないでしょう。依頼内容はさっき聞いた通り。貴方の探偵部入部条件はバトミントン部に害を与える人間を此処に連れてきて土下座させて謝らせる事よ」
おいおい、あくまで俺は付き添いのつもりだったんだけど。てか入部届出したら入部じゃないのかよ。入部条件とか何処のスポーツ漫画だ。
龍神峯は俺の目を見ながら、持ち前の毒舌を叩きつけてきた。
「あら、ごめんなさい。貴方ごときにこんな難しい依頼出来るわけなかったわね。ええ、貴方の頭の出来の悪さを考慮して発言するべきだったわ。えっと、なんでしたっけ? お前に俺の評価を改めさせてやるだったかしら? 一体どの口がそんな事を言うのかしらね」
「お前、いちいちムカつく言い方しやがるな。……まあ、ちょっとは退屈しのぎになるか」
「あの、依頼を……受けてくれるんですか?」
微かな希望が見えた桜坂の目は真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。俺は直ぐに目を逸らしたが、口で答えてやった。
「ああ、受けてやるよ」
「あ、ありがとうございます!」
立ち上がって頭を下げる桜坂とその仲間達。
礼を言われたのなんて随分と久しぶりだ。まあこの俺が力を貸してやるんだし……そのナメくさった野郎と龍神峯をバカにしてやる為に今日は何時もよりも頭を回してやろう。
龍神峯が別件で体育館を出た後、いよいよ犯人確保の為の情報を集める事にした。体育倉庫には錠が付いており、それを開ける鍵は体育館の中にある職員室で保管されている。
つまり、理由を付ければ誰でも鍵を取り出す事が出来るのだ。
「まずは、そうだな。この体育館を利用している部活に付いて知りたい。誰でもいいから分かる奴挙手しろ」
「それなら、玄関に一週間分の体育館貸し出しスケジュールが書いてあるボードがあります」
「よし、メモしてこい」
桜坂の後ろにいた男性に指示を出し、再び頭を働かせる。
無差別に備品を破壊していくのであればバトミントン部以外の部活も何らかの被害を受けている筈だ。それが無いってことは狙われているのはバトミントン部だけと考えていい。
では狙う理由はなんだ? こんな小規模の部活を潰した所で一体何が残る。
「メモしてきました。どうぞ」
戻ってきた男性部員からメモ用紙を受け取り、端から端まで見てみる。
月曜日 バスケ部 3 バスケ部 42
火曜日 バスケ部 64 バトミントン部 23
水曜日 バトミントン部 4 バレーボール部 56
木曜日 バスケ部 41 バレーボール部 24
金曜日 バトミントン部 17 卓球部 6
土曜日 卓球部 11 バスケ部 71
日曜日 休館
成る程。これがこの一週間のスケジュールか。こんなに広い体育館なのに使える部活はたったの二つだけって、なんか勿体無いな。それと日曜日は休館か。
「なぁ、この部活の後ろの番号ってなに?」
「あ、これは番号です。内の学校って部活動の数とても多いし、同じ部活が何個もあるので番号で見分けしてるんです」
「成る程。それで此処の部活は?」
「バトミントン部23です」
てことは活動するのは明日か。
一緒になるのはバスケ部64か。とりあえずチェックしておこう。てかバスケ部多いな。
さて、現時点でバトミントン部にちょっかいを出した連中は分からない。
だが、出す動機を持つ人間は沢山いる事がわかった。まずはそいつらの事をしらみ潰しに調べていくか。
いや、それよりも情報を一度まとめるのが先決だな。
「ネットが破られてたのは何時のことだ?」
「えっと、春休み中の……三月三十日の月曜日です」
「それは何処でだ?」
「あ、この第四体育館です」
「活動してるのはこの体育館だけか?」
「えっと、他の体育館でも少しだけ」
破られてたのはこの体育館か。
そうだ、ネットの保管状態は知っておかなければいけないな。
体育倉庫の中はまるで工場の様な造りをしていて、四桁のパスワード一つで必要な道具を取り出す事が出来る仕組みになっている。学園の中に本体となる倉庫が存在し、其処から各体育館の倉庫に地下通路を通って送られるのだ。
ボタン一つで欲しい物が手に入るなんてなんて近代的。
バトミントン部23のネットもこの倉庫に保管していたそうだ。そして次に活動する事が出来る体育館に移動しようとして、ネットを取り出そうと倉庫を覗いた時、破られていたネットを発見したのだそうだ。
「他のバトミントン部からネットを貸し出す事は出来ないのか?」
「む、無理です。私たちみたいな弱小なバトミントン部になんて貸してくれる人はいないですよ」
まあ、そうだろうな。倉庫の中を見渡し、セキュリティロックの前に立って適当な数字を打ってみる。当然、パスワードが違っていたのでロックは解除されない。
「おい、バトミントン部のパスは?」
「あ、はい。内のパスワードは2746です」
言われた通りのパスワードを打ってみるとロックが解除され、周囲から機械の動く音が聞こえてきた。数秒たつと、奥からラケットやハネが入っている籠がやってきた。
成る程な。こういう感じなのか。
これならパスワードを知ってる奴なら誰でも取り出せるって訳か。体育倉庫の鍵を取り出すのは誰でも出来る。しかし其処からパスワードを特定出来る人間はそうはいないだろう。
ここで一言。
犯人はこの中にいる!!
だって普通そうだろ?パスワードを知っているのはバトミントン部23の部員のみ。それならネットを取り出せるのも破れるのもバトミントン部23の誰かしかいないだろ?
よし! なら後は一人一人呼び出して脅しかければ簡単に自白するだろ。この依頼案外簡単に終わりそうだな。
「とりあえず知りたい事は知れたし……よし、そんじゃ今日は終わりだ。続きはまた明日行う」
「え、これで終わりですか?まだちょっとしか経っていませんけど……」
「大丈夫だ。案外簡単に終わりそうだしな」
「あの、まさかですけど……私たちの内の誰かがやったなんて事はありませんよね?」
「何だ?分かってるじゃねえか」
俺がそう言うと桜坂は酷く表情が歪んだ。いや、状況だけを考えればそうとしかありえないんだが。
つか、そろそろ帰りたい。早くゲーム屋に行かないとモンスターハンティング12が売り切れてしまう。今夜はモンハンをして夜を過ごそうと思ってたのに、これでは計画が台無しだ。
…………台無し?
…………計画が?
………………………、
「あの! あの人達は私が集めてきた大切な部員なんです!そんな、こんな事をするような人達なんかじゃありません。きっと、きっと違うんです。絶対に……私たちじゃありません」
「……あっそ。なら…………というわけだ。そんじゃまた明日」
「え、それって、あの……」
伝える事だけ伝えて俺は第四体育館を後にした。恐らく明日、何か起こるはずだ。いや、確実に何かが起こる。
そこからなら犯人特定もすんなり出来るかもしれない。
だから……精々俺の手の上で踊ってくれよ、ゴミクズ共。
ここまでお付き合いしてくれてありがとうございます。これからも頑張ります。