金魚
金魚って、知ってる?
そうそう。小さい淡水魚。
お祭りとかでもよくあるだろ、金魚すくい。
赤とか黒とかのやつ。
あれ、飼おうとしてもすぐに死ぬのな。
一週間生きてたことないもん。
そんでさ、それはそもそも弱いやつを追いかけ回して疲れきったやつを捕まえてるからだって聞いたわけよ。
じゃあ、店のやつなら長生きするって思ってな。
行ってみたのさ、金魚屋に。
金魚専門店とかあんのな、マジで。知ってたか?
そんで、いざ水槽を覗いたら、ビックリだよ。
奇形しかいねぇの。
出目金は知ってたぜ、目が飛び出してるやつ。
でも、脳味噌が飛び出してるやつとか信じられるか?
うっすい膜みたいな皮から、ふよふよした頭が透けて見えんだ。
あとはほっぺがべろーんとのびてるやつとか。
ヒレが長すぎて体はどこよ?ってのもいたな。
しかもだ。そんな変な格好したやつほど、値段が高いんだよ。
高いやつは万とかするんだぜ。
でさ。やっぱりそいつら、奇形のとこから病気になることが多いんだと。
当たり前だよな、目が飛び出てるとか、普通に生活するのも不便だもん。
生きてくだけでも、他のやつから丁寧に飯や温度、一緒に暮らす仲間まで世話されなきゃなんねぇんだよ。
でもさ、そいつらがなんでそんな形してるかっていうと――人間のせいなんだよ。
ヒレが大きい方がキレイだからって延ばしたり、他と違う形がいいからっていろんなとこを飛び出させたり。
んで、それを皆がほめたたえるからどんどん変えられてくの。
本人は、いや、本魚か?
本魚はきついと思うぜ。
自分は必死に生きてるだけなのに、勝手に奇形に生まれてこさせられて、しかもそのせいで世話されなきゃ生きられなくなっちまって。
そんでも金魚なら――金魚なら、奇形がいいと喜ばれる。
生き物として不便でも、どんなけ世話がかかろうとも。
他と違う形をしているのが最高なんだ。
本人は世話されるのが当然ってツラして、周りに自分の姿を見せつけて生きてりゃいい。
好きに泳いでりゃ周りはその姿を見られるだけで満足なんだ。
だからお前も、自分は金魚だと思えばいいんだよ。
そう言って兄は、生まれつき脂肪も筋肉もつかないため骨と皮しかない、動かない私の手足を、愛しそうに、撫でてくれた。
独断と偏見に基づく描写です。金魚が生きる芸術だという側面は今回、あえて無視させてもらいました。