結
◆
あれからいくつかの日が経った。
夏もこれでもかというくらいにヒートアップ。
全国各地で最高気温の記録が大きく塗り替わっているのではないかと思わせるような今年の暑さだった。
「……あっちい」
そんな暑さのなか俺は学校の制服に身を包んで、今こうして太陽の光の下を歩いていた。
蝉がどこかでけたたましく鳴いているのを耳も塞がずに聞いていた。
それから俺はあの日のことを思い出す。
静夏さんがいなくなったあの日を。
実はあの日の最後までの記憶が俺にはないのだ。
というのも静夏さんの憑依の後遺症による疲労困憊。
言ってしまえば、あまりの心身のきつさに気を失ったのだ。
水野が泣き始めたところまでは覚えているが、その後のことは全くだ。
水野に訊いたところによると自分も泣くのに必死で俺が気絶していることに気付かなかったそうだ。
ひとしきり泣いた後に気付き、それから救急車を呼んで事態を収拾したそうだ。
もちろん、救急車を呼ぶというのは学校に来るということで学校側への事情説明に苦労したそうだ。
おおよそ、夏の暑さにバテていたというところが落とし所だろう。
それで色々あったあげく、やっと体調が回復した俺はまずやることがあった。
墓参りだ。
「……あっつい」
「暑いけどこれが夏の醍醐味だと思えば楽しいもんだよ。これを逃すとまた一年待たなきゃならないんだよ?さぁ楽しもう!!」
なんでこんな蒸し暑い時にはしゃげるんだよ……。
「おいこら。遊びで来てんじゃねぇんだぞ、水野」
「えー、でもせっかくの夏休みなんだから楽しまなきゃ損だと思うけどな~」
「生憎、俺は体中が汗でべとべとになっているこの今を楽しむほど落ちぶれちゃあいない」
楽しむなら他のことをしたい。
海とか、海とか、海とか、海とか。
「つーか、まだ着かないのかよ」
「ん。もうすぐだよ」
俺達の目的地というのは静夏さんの墓地だ。
先日、水野に静夏さんの墓参りをしたいと頼むと快く了承してくれた。
水野には何週間か前の俺が体験した静夏さんに関するあれこれをきちんと話していた。
決して楽しいものではないが、話すのが筋だと思った。
その話の流れで、俺が幽霊が視えることを今更ながら説明した。
もちろん俺の妹の更のこともだ。
短い間に随分と水野との関係は変わったと思う。
俺達は心の隙間を埋めるように互いに寄れかかっているのだと思う。
それは一概に正しいとは言えないけれど、俺達はそうやって生きることを選んだ。
結果として水野は以前のような明るさを取り戻し、良かったと思う。
そういえば先に更の墓に行ったんだよなぁ。
葬式以来、近寄りもしなかった場所だが墓自体は綺麗なままだった。
おそらく、親がちょくちょく掃除しているんだろう。
そこで俺は完全に更のことを断ち切り、後腐れなく参ることができた。
これも静夏さんのおかげだと思うと感謝だな。
「荘子くん、着いたよ」
回り道しながら、なぜか山を登ってやっとの思いでたどり着いた。
正直、もうくたくただが。
墓参りってこんなに身体的にしんどいものだっけ?
俺達は水野家と刻まれた墓石に向かって目を閉じて手を合わせる。
静夏さんに近況報告とかお礼とかその他諸々のことを語りかける。
そして最後に水野はちゃんと笑顔でいることを伝える。
すべてのことを語り終えて目を開けた時。
静夏さんが笑いかけていた気がしたけど、幻のようにすぐに消えていった。
「水野。一瞬だけだけど静夏さんがいたよ」
「うん」
「笑ってた」
「そうだね」
えへへ、と微笑む彼女。
「そうだ。荘子くん、そろそろわたしのことも下の名前で呼んでよ」
「いきなりなんだよ」
「お姉ちゃんばっかり、ずるいよ。わたしにもお姉ちゃんと同じ扱いをすることを要求します」
「下の名前なんだっけ?」
「ひどっ!?」
静夏さん。
俺も水野も笑顔で過ごせています。
だからアンタは安心して休んでくれ。
俺達は俺達なりに生きていくよ。
好きなように。
それがアンタと俺達の意志だ。
「じゃ帰るか―――――
―――――――翠」
この物語は妹を失くした少年と姉を失くした少女と自分を失くした幽霊が笑顔になるための物語だ。
これからの未来は知るよしもないけれど、ただひとつだけ言えることは。
俺達はしっかりと生きていた。
それだけだ。
◆
ここまで読んでくださってありがとうございます。
この作品は僕がこのサイトに一作品くらい残そうと思い、ほぼほぼ思いつきで書かせていただきました。
この『ユウレイダラケ』という作品ははじめは短編として書いていたのですが、なにぶん僕の四捨五入して処女作だったので勝手が分からず長く書き過ぎてしまい、結果、六話に分けての連載という形をとらせていただくことになりました。
この作品で少しでも「頑張って生きようかな」と思われたのでしたら幸いです。
話は変わりまして、タイトルが『ユウレイダラケ』というのにも関わらず実質、幽霊が一人しか登場していないことに僕は若干の不安があるのですが、いかがですか。
もし、続編を書くことになればたくさんとはいきませんが、何人も幽霊を出したいと思っております。
最後に、ここまで読んでくださった方々に最大限の感謝を贈ります。
批評、感想があれば是非僕にお知らせください。
あと、評価ください。
拳