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星無き夜空に

「今日も曇りか。せっかく空の旅だというのに星空が見れた試しがないなあ。」

小さな窓から空を見上げて、そうつぶやく。

今は空飛ぶ乗り物に乗って帝都に向かっているのだ。

「俺」が今まで経験したどの乗り物とも違う乗り心地のこの「魔導船」は、名前の通り?魔法で導かれて進む船で、陸上十数メートルあたりを移動する。

(ホバークラフトに一番近い乗り心地かな?)

取材に行った先で内戦に巻き込まれ、脱出する際にのせてもらった軍のものだ。あれよりはスムーズに動くが、やはりどうも地面の状態によって衝撃があるようで、「飛行している」訳ではない様子である。


「結局「彼女」は何者なんだろうか?」

4日前に、絶体絶命の危機を救ってくれた少女のことを思い出す。

あの少女は昔「俺」を殺した「彼女」に違いないと思う。見た目は耳以外は全く似ていない。肌の色も「彼女」はかなり黒かったが、あの少女は透けるような白さだった。年齢も違うだろう。

でも「俺」はなぜか「彼女」の転生かなにかだと確信していた。

(「俺」も転生しているしな。)

しかし、「俺」と「彼女」が同じ時代、同じ場所に転生するというのは偶然なのだろうか?

あれから少し調べたが、二つの月の周期から、1000年は経っているということが分かっている。

あの時はかなり月が離れていたが、今はほとんど近い。そこまで変わるのに1000年から1200年程度はいるそうだ。(もう一周していればもっとだが。)

人が必ず輪廻転生するにしても、そうそう同じタイミングにおこるものなのだろうか?


「それに、「皇帝陛下」の態度も気になるよなあ。」

「ボク」が帝都に向かうことを決めた張本人である。

あの後、少女は驚くボクの手を少し握った後、やはり名乗らずに去って行ってしまった。(魔法で移動したようだ。)

その直後に爺に迎えられ、彼の居城に戻ったらそこには何故か「皇帝陛下」が訪れていた。

爺も知らなかったようで、ものすごく慌てて皇帝のもてなしにかかってしまい、その後は話せていない。

そして次の日に「皇帝陛下」に呼ばれて白いウォルフドラゴンについての話があった。

要約すると、「皇帝陛下」の狩りの際に一匹のがしてしまったのがそれで、追撃のためにこの居城によったようだ。だが来てみるとすでに息子が討取っていた、すばらしい、褒美をやるから帝都にこい、となり今に至るわけだ。

もちろん「ボク」が討取ったわけではないのでそれを話そうとしたのだが、一切喋ることは許されず、報告は帝都で聞くとの一点張りであった。また、その場でこの船に連れられてしまったので城のものには全く挨拶できていない。


「やはり、あの子がカギ、なんだろうな。」

急いでいるにしても、いくらなんでも不自然な「皇帝陛下」のその態度に、思い当たるのは「誰にも紹介されていない皇族」であるあの少女ぐらいだ。

表ざたにされるのが困るのだろうかと思った「俺」は途中で無理に喋ろうとするのをやめた。「ボク」の立場からして、あまり「皇帝陛下」の不利益なことをすると息子であっても、いや息子であるからこそ殺されかねないからだ。「ボク」の身はまだまだたくさんある後継ぎのスペアの一つに過ぎない、自分の所有物に過ぎない息子ならどうとでもしようがある。


「特に、この世界では魔法の使えない10歳未満は人間という扱いじゃないしな。」

帝都までの道のりは何もすることがない。特に部屋から出ることを禁じられているため、僅かにこの船にある本を読みあさるしかないのだ。(まだこの船が皇帝直属の船であるから、そのような本もあるが、それ以外であれば全くすることがなかっただろう。)

それらの本を読んで分かったことがいくつかある。

まず、この帝国の法律的には10歳未満の子供は「モノ」扱いなのである。10歳になる年のうち、一番その土地の魔力が安定する日を選ばれ、魔力を封じている腕輪を外す。生まれたときから着けられている腕輪が外され、魔導杖と呼ばれる、そのものが生まれた土地の土と樹で造られた杖を代わりに渡される。

そしてそれが手渡された瞬間に、今までたまっていた魔力が溢れだすのだが、その色でそのものの「属性」が決められる。その時初めて戸籍が登録されるのだ。

戸籍には魔法色が記録され、それは個々にほぼ完全にユニークであるらしく、また偽装もできないらしい。識別するにはそれなりの機器がいるようだが、「帝国」ではそれを住民管理に使用している。

まだ魔法の使えない「ボク」がそれなりの扱いを受けているのは「皇子」だからであり、親が身分があるからだ。


また、魔法についてだが、この世界では7つの属性があるとされる。

「木」「火」「土」「雷」「水」そして「光」と「闇」。

「光」と「闇」はエルフの血族にしか使えない属性とされ、現在のところイレギュラーは存在しないようだ。逆にエルフは得意かどうかは兎も角、「光」か「闇」のいずれかは使えるようだ。(だから、「ボク」も10歳になれば使えるのだろう。)

また、それぞれ人には得意な属性があるが、それ以外の属性も使えないわけではないようだ。ある程度なれたものは3属性程度、エルフであれば一応一通り使えるらしい。というより、初級の魔法以外はほとんどいくつかの属性を組み合わせた魔法だ。


「あれだけの威力を見せられたら、魔力で地位が決まるといわれてもしょうがないと思えるな。」

あの少女が使って見せた「詩魔法」を思い出す。なにせ絶対勝てない存在と思わせたあの竜を跡形もなく消し去ったのだ。

「ボク」についていた護衛の彼らも、兵の中では強い方だが、彼らは平民の出身であり、あくまでも人間同士のなかでは強い方という範疇である。(それでも火の玉を飛ばせば地面に穴はあくし、風を起こせば人ぐらいなら吹き飛ぶのだが。)

だが、あの少女には絶対勝てないと思わされるだろう。現に、彼らは救われたにも関わらずあの少女のことを恐怖していた。この世界ではあの少女は異質なのだろう。

(だから「俺」が怖がらなかったのを驚いていたのか。)

人は分からない物事を恐怖する。

火や風は分かるが、ブラックホールが分からないから恐怖する。「俺」には原理は分かる。その違いだろうか。

魔法が便利すぎる分、科学が全く進歩していないため、そのあたりの解明が進まないのだろう。


「まだ起きておいでですか?」

ノックと共に、ここ数日の唯一の話し相手が声をかけてきた。

帝都に着くまで、ボクについた新しい護衛だ。(道中の彼らもこの船に乗っているが、乗員ではないため彼らも部屋に籠っているのだ。)

彼女は「帝国」騎士中尉ユール。近衛騎士のひとりで、まだ16だというのに騎士中尉にまでなっているエリートだ。(普通、騎士になるのですら20になってからだというのを考えると、家柄だけではそうはなれないだろう。)

ちなみに「帝国」では騎士は貴族にしかなれず、騎士しか将校になれない。また、それぞれ試験があり、騎士試験はともかく、将校試験はそれなりに難易度がある。中尉への昇進には実技試験があるため、家柄だけのボンボンであれば騎士少尉が精々であるようだ。

そんなエリートだが、鼻にかけることもなく、親切に接してくれている。(「ボク」が皇子だから、でもあるだろうが。)


「すみません、ユールさん。今日も星がでないなあと、残念に思っていたところです。」

「皇帝陛下」についての疑惑を考えていた、なんて答えられないので、当たり障りのない言い訳をしてみた。まあ残念なのはうそではない。こちらに来てから10日程度、月以外一度も見ていないのだ。これだけ空気がきれいなら、さぞかしはっきり見えるだろうに。

「え?ホシ、ですか?」

彼女の返答内容、特に「ホシ」の音がおかしいことに気が付き、はっとする。

そうだ、この世界には「月」以外の星がないんだった。「ボク」と「俺」に共通する単語は自動的に翻訳してくれるが、無いものはそのまま出てしまう。月は大きな「闇月」と小さな「光月」しかなく、それは「月」であって「星」という認識ではないのである。

「え、えっと鳥の一種だよ。こういう夜にはそういう鳥が飛ぶことがあるって聞いたことがあって!」

そうやって強引にごまかす。爺にならともかく、彼女に「俺」の正体を明かすメリットは無いし、それほど親しくもない。

「そう、ですか。聞いたことないですね。もう帝都に近いからあちらの鳥はいないのかもしれませんね。」

なんとかごまかされてくれたようだ。

「それよりも、明日の朝早くには帝都に着きます。早めに寝ていただかなければ明日が辛いですよ?」

そう優しく諭されると、少し罪悪感が湧いてくる。だからボクは了解した旨を伝え、寝台に入った。


「天体観測も趣味の一つだったのになぁ、ある意味一番ショックだ。」

などと思いながらも、軍用船にしては寝心地の良い寝台に揺られて眠りについた。まだ体は8歳のままなのだから、夜遅い今であれば眠たいのは仕方がないのだ。







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