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初めての竜、初めての戦い

「なにか、外が騒がしいな?」

シャルルの家を出てから3日が経ち「俺」が馬車のひどい乗り心地になれた頃、今までほとんど無口に任務をこなしていた護衛の兵たちがなにかを始めている。夜営の時間にはまだ早い筈なのでモンスターでも出たのだろうが、爺の精鋭である彼らが慌てるような事態とは何事だろうか。


「痛つっっ」

心配になって小さな窓から周りを確認しようとしたところで、馬車が急停車したので壁に頭をぶつけてしまう。どうやらかなり荒っぽい止め方をしたようだ。

「申し訳ありません、大丈夫ですか?」

この護衛部隊の隊長が声をかけてくる。まだノイズのように彼の言葉が異国の言葉として聞こえるが、頭のなかで理解する。しかし、どうもかなり悪い状況のようだ、普段は「ボク」に対して笑顔で接してくることを忘れない紳士であるのに、今は顔色に全く余裕がない。

「少し頭を打ちましたが、大丈夫です。それより何があったのですか?」

これだけの急停車だ、何があってもおかしくない。念のためすぐにでも出れる準備をしながら隊長に質問する。まあ手荷物なんてほとんどないのだが。

「・・・ウォルフドラゴンに進路を塞がれました。3匹はいます。馬をやられてしまったので突破は無理でしょう。」

うん、かなり厳しい状況ようだ。ウォルフドラゴンとは、その名の通り狼のようなドラゴンで、竜種にしては小さく、そして弱い。だがその特性は狼で、竜種にしては珍しく群れて狩りを行うのだ。知性もかなり高く、必ず狩れる相手にしか行動を移さない。

つまり、俺たちは必ず狩れる相手だということだ。まぁ竜種3匹相手に勝てる戦力なんてそうそうない。その上、機動力の要である馬をやられてしまったので逃げることもままならない。

「ウォルフドラゴンを確認した時点で救援依頼は出していますが、間に合うかどうかは五分五分といったところでしょう。そのため、一番速度のあるわたしが、隙を見て貴方をつれて脱出します。よろしいですね?」

そうやって、目線だけで今まで来た逆方向を示す。森沿いに進む下り坂の一本道で、逆側はどうやっても登れなさそうな高い崖だ。この坂を上ってきていたわけだが、その速度が落ちたタイミングを狙ってきたらしい。

「彼らはどうなるの?」

「俺」には分かってしまった。彼らは逃げるための時間を稼ぐ、そのためにほぼ確実に死ぬであろうことが。だから「ボク」が聞いてしまう。あまり話したことは無かったけれど、「ボク」にとって物心ついたころから身近にいる存在だ。「そんなことはないよ」という言葉を期待して。

「残念ですが、貴方の身の安全には変えられません。」

嘘を着けない実直な彼は、絞り出すように真実を言った。彼も、例え結果は変わらなくても言いたくはなかったのだと「俺」には分かった。

そうしている間にもにらみ合いは続いている。隊長を除けば9人いるため、3人ひと組で一匹ずつ相手をしている。もちろん、相手をすると言っても牽制ぐらいしかできないが。初めから強硬突破されれば、もうすでに数人は犠牲になっているだろう。

「あれ?なんで襲ってこないんだろう。戦力差は明らかなのに。」

そう、「俺」は呟いてしまう。そう、仮にも竜種だ。1匹でもほとんど絶望的であるのに、3匹もいる。一方は切り立った崖である以上、三方から囲めば、1人か2人逃げれるかどうかというところ。

「さぁ、分かりかねます。ですが、なんにせよ逃げ道がまだあるうちに仕掛けなければいけません。」

牽制に徹すれば多少時間稼ぎはできるが、それでは一匹こちらに向かってくるかもしれない。だから、「ボク」を逃がすために望んで竜種に向かっていかなければいけないのだ。生き残れる可能性を放棄することが分かっていてもだ。

確かに、隊長は護衛のなかでは一番実力もあり、足も速い。「ボク」を担いでも1分でも距離を稼げればなんとか逃げ切る可能性がある。(幸い、ウォルフドラゴンは鼻は悪い。)

だが、「俺」は何かが引っ掛かる。「ボク」が彼らを助けたいと思っているからというのもあるだろうが、それ以上に何かがおかしいと思っているのだ。

必死に考えるが分からない。逃げる方向をみると大小さまざまな鳥が飛んでいるのを見かけ、まるであざ笑っているのかとまで関係ないのに思ってしまう。

「ん、鳥、がたくさん?」

関係ない、のか?

俺が呟くと、必死にタイミングを見計らっている隊長が、片手間に、しかし律儀に答える。

「そうですね、この時期にしては珍しいです。」

そう言いながらもドラゴンたちを見据えながら徐々にこちらに近づいてくる。

だが、「俺」にはパズルのピースが今まさに埋まろうとしていた。

何故か勝てるのに襲ってこない相手、そして何故か逃げ道がある。そしてその逃げ道は普段通りではない。そこから導かれる答えは一つしかない。

「だめだ、こっちからは逃げられない。待ち伏せされている!」

そう、相手は確実に「無傷で」狩るつもりなのだ。ウォルフドラゴンは狼よりも大きいが、その分成体になるまで時間がかかる。だから、日常の狩りごときで死ぬ危険は可能な限り冒さないのだ。そして、そのために獲物を逃がす、というようなこともする気がないのだ。

そして、隊長は俺の声に驚いて森のほうを確認した。少しの間確認した後、また視線を元に戻した。

「どうやら、そのようですね。モンスターとはいえ竜種、この程度なら知性はある、か。ですが、ならばどうすれば。」

最初はこちらへの応答であり、途中からは独り言のようだ。彼は迷っているのだろう、と「俺」には何となくわかった。

彼は命じられているのだろう。「危機的状況になった場合、何を犠牲にしてでも皇子を連れて逃げろ」と。だが、伏兵の存在によってその逃げれるという確率はほぼなくなってしまった。これならまだチームで防戦したほうがだれかは生き残れる可能性が高い。

しかしそれでは命令違反ではないだろうかと。


正直、怖い。ドラゴンと少し目が合うだけで足が震えて止まらない。

でも「ボク」はできることならみんなに生き残ってほしかった。

でも「俺」は少しでも生き残れる方に賭けたかったし、無力な自分のせいで誰かが死ぬということにも耐えれなかった。

だから「ボク」は、だから「俺」は、なけなしの勇気を振り絞ることにしたんだ。

「「帝国」皇子テオドールとして命じる。」

声が震えそうになるのを、無理だとわかっていても必死で抑え込む。

「獲物としてボク達を選んだことを、このでかいトカゲどもに後悔させてやれ!」

なんとか最後まで言った。強がりだなんてことは誰でも分かるだろう。

事実、隊長は驚いてこちらを見ている。だが、すぐにこちらの意図を察してくれたようだ。

「皇子殿下、了解いたしました!おら、おまえら!陣形組みなおすぞ!ぐずぐずしやがったら将軍直伝の訓練追加だ!」

そういって、隊長は指揮を飛ばしながら前線に参加していった。明らかに兵たちの顔から絶望の色が薄くなっていることがわかる。

これでもう「俺」の役割は終わっただろう。こういうときに素人ができることは「プロの邪魔にならないこと」だ。

そう、最後の役目は馬車の物陰に隠れ、信じて待つことだ。


少し長いので2話に分かれます。

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