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いきているということ

目がさめれば、そこは見知らぬ天井だった。


死んだ筈だ。そう思いながらも周りを見渡す。だが、どこを見ても見知ったものは見つからない。

だが、自らの手を見た瞬間に疑問は氷解した。

-あぁ、やはり死んだのだな。-

自分の手がどう見ても子供の手になっていることを発見し、そう思う。

ふと、自分が何者であったか思い出す。


大陸の大半を有し、1000年の歴史を誇る「帝国」

(皇帝とはこの国にしか存在しないため、「帝国」が国名である。)

その歴史の中でももっとも輝く時代を築いていると賞賛される現皇帝ザクセンベルク。

その皇帝にいる13人いる子供のなかの末子であり、9番目の息子であるテオドールというのが自分のことらしい。

ちなみに帝位継承権はいまのところ子供にしかないため9位だそうだ。

(皇帝の男兄弟はすべて、死んでいるか継承権をなくして辺境にいるかのいずれかのようだ)


知らない筈の知識。それが洪水のように襲いかかり、頭が割れそうになる。そうなりながらも何故ベットで寝ているかも思い出した。

「そうだ、庭で誰かに会った瞬間に何かが思い出せたような気がして、直後に頭が割れそうな痛みに襲われたんだったな。」

額の汗を拭いながら考える。おそらく何かのきっかけで死ぬ前の記憶を思い出したのだろう。


そうなると、憑依したわけではなさそうな気がする。それならば「思い出す」というような形にはならない筈だ。

「答えなど分かるはずもないな。」

そうやって疑問を無理やりどこかへ押し込むと、頭痛がすこしおさまっていった。そうするとまた新しい疑問が湧いて出てくる。

自分のしゃべっている言葉が分からないのだ。

頭の中でしゃべっているのは日本語だが、口から出てきているのはこちらの言葉。その音は知識としては理解できないのに、感覚で意味は分かるという奇妙な感覚。だが、深く考えるとまた頭痛が激しくなるため、無理やりそういうものだと納得する。


「皇子!目が覚められたのですね?」

急にここの言葉でしゃべりかけられる。この館の主であり、「テオドール」の母である「シャルル・オステルカンプ」だ。

「母上、今気がつきました。ご心配をおかけして申し訳ありません。」

そういうと、シャルルは驚いた顔で見つめてきた。そして重大な過ちに気がつく。

「ボク」はまだこんなにちゃんと喋れなかった。まだ8歳なのだ。内容は背伸びをすれば話すことはできても、とっさに、しかもこんな「慣れた口調」ではなかったはずだ。

「まぁまぁ、久しぶりに声を聞いたらこんなにもしっかり喋れるようになって!」

どうやら、良いように勘違いしてくれたようだ。「ボク」の知識から、半年ぶりであることが分かるが、これが親バカというやつだろうか。今後は気をつけるようにしよう。


「マックスのような野蛮な男に繊細な皇子が育てられるかとも思いましたが、なかなかどうしてうまくやっているようですね。」

マックスというのはシャルルの今の夫だ。ボクを産んだ後、現皇帝より武勲のあったマックスに下賜(かし)されたのだ。

シャルルは現在は没落した伯爵家の令嬢で、地方太守に過ぎないマックスを見下している。というより今でも帝妃のころの栄華を忘れられないのだ。

そして「ボク」の教育係にはマックスが皇帝より命じられているが、それが気に入らないためなんかと文句をつけている。今日は「ボク」の状態をチェックして荒さがしをするためにシャルルの館に呼ばれたのだ。(マックスとシャルルは別居している。)


「ですが、体調管理がなっていませんね。これは厳重に注意していただくよう皇帝陛下にお願いせねばなりませんね。大切な皇子の体に、なにかあっては困ります。」

嬉しそうな顔から一転、急に厳しい顔になってそういう。特大の「荒」を見つけたのだ。これを使わない手はないのだろう。だが、「ボク」としてはそれは困る。

ん?何故困るのだろう。あぁ、なるほど、「ボク」はマックスの厳しくも優しいところが好きなのだな。

しょうがない、ならば「俺」が一肌脱ぐしかないな。なにせ今「ボク」は「俺」なのだから。

「違うのです、母上。母上に良いところを見せるために爺には内緒でがんばってしまったのが悪いのです。母上に喜んでほしかったから・・・」

こう言っておけば、これを理由には責めれまい。

「まぁまぁまぁ!なんてかわいいわたしの皇子。でも駄目ですよ?わたしにとって皇子の体が一番大事なのですから。」

ちょっと効きすぎたようだ。まあ「俺」が頭をなでられまくって苦しいぐらいで済むのだから、結果は良しとする。


その後、見かねたメイドが恐る恐る止めに入るまで(1時間以上だろうか?)シャルルによる可愛がりは続き、手当をされたあと解放された。少し効きすぎたと後悔しても遅かった。


「やっと一息つけたな。」

目が覚めたときは、窓の外は明るかったのにもうすでに真っ暗だ。だが、いろいろ騒がしいうちに頭の痛さはいつのまにか消えていた。

窓には大きな月が見える。そしてそのすぐそばに小さな月もある。やはりあの時の世界なのだろう。

いろいろな疑問はある。

でも、「俺」は「ボク」になったのだなと、「ボク」としていきているのだなと、思っていると、意識は眠りへと誘われていき、体力的に疲れた「ボク」は、精神的に疲れた「俺」はその誘いを断ることなどできはしなかった。

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