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Warriors Carnival!(転)

見学するはずだった野営地は謎の集団に占拠されており、そしてその男達は魔法封じの防具を身に着けていた。

「ボク」はそんな状況で団長といわれる男に紹介された。

「ほんじゃ、俺っちは皇子様のお迎えに行ってきますわ。」

そう言って案内してきた男は扉から出てゆき、カギをしめられた。

これで恐らく、この目の前の男を倒さない限りこの部屋からは出られない。

けれど、あの男を同時に相手にする必要はなくなったのだけは救いか。あの男もこの大男ほどのものではないがマントをしていた。つまり魔法が効くとは考えにくい。


「どういうことよ、皇子にを探しにって。」

「ボク」の回復魔法によって少し落ち着いたエディアが小声で聞いてくる。それに対し、「俺」は微笑みで返した。聡明な彼女なら気が付いてくれるだろう。現状は控えめに見ても絶望的。この部屋の中だけで言っても、魔法の効かない大男相手に子供二人。そしてこの砦の周囲には手下が100人は下らない。こんな不公平なゲームを生き残るには、イカサマをするしかない。それも一つや二つではまだ足りない。だから「俺」は彼女と生き残るための相談を始めたのだった。


「どうした?お譲ちゃん達。お話合いは終わりかい?まだ続くのなら俺もまぜてくんねえかな?退屈してきたんでな。」

あらかた相談し終えたころに、大男はそう言いながら近寄ってきた。この男の目的は趣味だと言っていたが、おそらくあのマントの性能試験も兼ねている。エディアの魔法を受けたときに「これでもこの程度だ」と喜んでいたのがその証拠だ。であるならばわざわざ魔力が強いとされるエルフの「ボク」を連れてきたのもどの程度防げるかの試験、いや練習か?だから多少はこっちの小細工も受けて立ってくれると睨んだのだが、当たりだったようだ。まずは一つ目の賭けは勝利。これから全ての賭けに勝たなければ負ける、薄氷の上を歩くような勝負。だが、この部屋に入ってしまった時点で賭けは始っている。もう勝つしか生き残る道はないのだ。

(賭けには弱いんだけどな。)

そう呟きながらも、計画の第一段階を開始する。


計画の第一段階は、あのマントの性能の確認だ。エディアの強力な火炎魔法を受けた後、マントや服は一部黒ずんでいた。つまり、全く効かないわけではなかったのだ。

けれど、あれよりも強力な魔法を「ボク」が使えるわけでもない。学校の魔法陣を破壊したときの魔法はあれ以来使えていない。最悪一か八か、という時にはやってみないといけないが、今はまだ違う手段を講じるべきだと思う。

であるならば何を確認するか、というと「どういう原理で魔法を無効化しているか」だ。

現皇帝の詩魔法である魔法無効化は結界によるものだ。

聞いた話を総合すると、「そもそも発動しなくなる」のと「発動した魔法が消える」の二つ。リィンも体験したそうなので間違いないだろう。

だが、このマントに対しては、当然発動はするし、どうやら衝撃もあるようだ。(熱いとは言っていたから、温度も伝わるはず。)

つまり、魔法自体ではダメージは無いが、魔法の結果でならダメージを与えられるのではないかということだ。

これが、単純に全種類の攻撃に対して防御力が強い、という類であればかなり大変なことになる。恐らくあのマントを打ち破ることは不可能。無理でも近接攻撃、できるならば投げ技の(たぐい)を考えなければいけない。

「「水の矢」」

魔法を補助するワードを紡ぐ。正しくイメージさえすれば本来は言葉も要らないのだが、まだそこまでは慣れていない。思い描く形はダーツ。各指の間に2本づつ、両手に合計16本の圧縮して硬質化した水エネルギーのダーツを作成し、エディアから走って離れながら投げつける。これは本来なら直径1メートル近くの大木ですら削り取る威力があるのだが。

「カカカカカ、そんな小技じゃ効かねえよ。エルフの貴族様よぉ。」

16発中10発が命中。だが、少しへこんだ程度で効果は無い。けれど。

(計画通り。そして予想通り、マントに「着弾した時点」で魔法がかき消される。)

マントが少し濡れていた。これは、今回の水のダーツの作成をわざと出来の悪いものにしたからだ。攻撃魔法として使用する場合、本来は水魔法であっても濡れない。それはわざわざ「水」を作成してからぶつけるより、「水エネルギー」としてぶつける方が早いし、消費も少ないのだ。だから普通に使えばほとんど濡れない。魔法を使い始めてまだ数カ月だけれど、集中すればそれぐらいはできるのが普通。エディアの魔法で少し焦げたのは、隙を見て急いで放ったからだ。つまり、本物の炎が少し混じっていた。今回の結果、水エネルギーがぶつかった上で魔法耐性によって消されたのであれば、もう少し衝撃がある筈。けれどエネルギーとしてはかき消され、単純に水をぶつけた程度のへこみとなった。つまり、直前でキャンセルされているのだろう。

ここで、では本当の炎だけで攻撃すればいいんじゃないかということもあるが、それは少し違う。

本当の炎は、ただの炎なので操作ができない。そして燃え始めるのにも時間がかかる。そしてその間じっとしてくれるかというとそれはあり得ない。他の属性も同じだ。この世界で魔法とは、科学法則の上に成り立っている一つの要素に過ぎないのだ。一説によると、魔力を全く持たない存在には魔力エネルギーをぶつけても効果がないそうだ。まぁ現在そのような物質は発見されていないそうなので無意味な理論だが、魔力エネルギーとは、対象の魔力に作用することによって結果を得られる力であるのだろう。


一つ目の実験の結果、このマントは着弾の直前、またはした瞬間に魔力エネルギーを無効化、或いはかき消しているということが分かった。複数撃ったのは連射すれば通じることもあるかとも思ったのだが、そう甘くは無いらしい。だが、魔法の「結果」ならばダメージは与えられる。これが分かったことは大きい。

考えながらも、第二段に移るために水のダーツによる牽制を続ける。第二段は「ボク」に注意を集中させること。この男は戦い慣れている。こちらしか見ていないようでありながら、エディアが魔法を使い始めたらすぐに気がついて防ぐだろう。そして、彼女はさっき以上の魔法は使えない。ならばこちらに集中させる必要がある。そのためにはこちらがある程度「脅威」だと思ってもらわなければならない。歴戦の戦士に冷静でいられたまま勝てるとは思えないのだ。

慎重に間合いを計りながら円を掻くように動いてエディアと正反対の方向にたどりつく。その間にも牽制に水のダーツをぶつける。これで団長を挟んだ形になった。そんな不利な状況を許したのは、恐らく本気を出せば一瞬で片方をつぶせる自信があるからだろう。そしてその後、もう一方の魔法をつぶせばよい、そういう考えがあるからマントの試験代わりに小細工を受ける気になっているのだ。


ここで必要なのは「適度に」警戒させること。気を抜いて隙を見せてくれるような素人なら油断させるのだが、相手は余裕そうな顔をしつつも全方位に意識を回している。であるならば逆にこちらに集中させれば周りに隙はできる。けれどやりすぎるとマントの試験なんて放り出して殺しにかかるだろう。個人で倒せればそれでよいが、確率は低すぎる。

(そろそろ良いかな。)

水のダーツでマントが全体的に湿ってきたことを確認した「俺」はこの段階の占めに入る。雷の魔法の方が得意なのに水魔法を使用してきたのは理由がある。魔法を使った戦闘能力で平民と貴族に大きな差があるとするならば、それは魔力だけではない、魔法の使い方にも大きな隔たりがあるのだ。

「ねぇちゃん。そンな攻撃じゃ、おれっちのマントをぬらすだけだぜ?もっとすごい魔法見せておくれよ。貴族様よぉ。」

ニヤニヤしながら喋りかけてくる。そう、彼は魔法の使い方を学習しようとしているのだろう。頭の悪い筋力バカのような振りをしながらも油断がない。だが。

「そんなに見たいなら見せてあげます。」

そう言って今までの20倍以上、500発程度の水のダーツを彼の周りに顕現させる。伏線その1、水の魔力を周りに準備しておくことによって可能になる中級魔法だ。

「「嵐の矢」」

「俺」がワードを紡ぐと一瞬、彼の顔が真剣な様子になるが、すぐにマントを被って防御する。他の兵士のは兎も角、この男の分は全身を防御できるだけの大きさがあるのだ。そのため恐らく完全に防がれるが、これは伏線その2だ。

「水の魔法を水だけと思わないことです。凍りなさい、「氷の大地」」

瞬間、べとべとにぬれていたマントが凍りつく。この魔法は純粋に「温度を下げる」魔法。本来氷によって攻撃する魔法は水の魔術師の中でもかなりの難易度の魔法だ。それは、「温度」の概念を科学的には理解していない者が漠然と氷を作成しようとするからなのだが、「俺」はそれを水を作る、温度を下げる、の2工程によって得意でもない属性の上級魔法を再現している。

そして二段階目の最後の締め。

「「水の刃」」

一メートル程度の水を鋭く圧縮させてぶつける魔法。水のダーツより速さは遅いが、打撃力がある。

これで凍ったマントが破壊できればそのままエディアに攻撃してもらう。けれど恐らくうまくは行かないだろう。

「やらせるか!」

そういってこちらの意図を察知した男は固まったマントの一部を破き、少しを犠牲にして水の刃を避けた。まあこれで倒せるとは思っていないけれど、少し期待はしていただけに残念だ。


「やるじゃねえか、ねえちゃん。まさか初っ端から俺じゃなくてこのマント狙いとはな。護衛についてた野郎よりもよっぽどおっかねえじゃねえか。」

破けて二つに裂けたマントを両手で持ちながらも、楽しそうにそう語ってくる。破けてはいるが面積的にはあまり変わっていない。範囲攻撃には弱くなっているだろうが、もうそれは許さないだろうし、逆に小回りが利くようにはなっている。

氷の魔法という、あまり平民の間では見かけない魔法をインパクトがあるかと思って使ったのだが、少しやりすぎただろうか?

今にも襲ってきそうな男を見ながらそう思うが、もう遅い。このまま続けるしかない。


第三段階は心理戦。

エディアには言ってなかったが、この部屋に入ってきて少ししてから気がついたことがある。この男の素性だ。

「あなたこそ、残念です。去年の大会で優勝した貴方が、このような山賊紛いのことをしているなんて。」

そう、どこかで見たことがあるとは思っていたが、去年リィンと見に行った祭りの中で行われていた大会での優勝者だったのだ。「俺」がある程度余裕をもって居られるのは、この男の戦い方自体は知っているからというのもある。知っているからと言って勝てるわけではないが、どうすれば戦えるかということをリィンと考えたものだった。

男は「俺」の言葉にひどく驚いたようで、こちらに向かって歩み始めようとしていたのをやめた。

「へぇ・・・。貴族様が、魔力の少ない平民のおれっちのことを覚えてたのかい。」

「えぇ。貴方は魔力は確かに少ないようでしたが、それを補って余りある戦闘の才能と工夫で優勝していたのを感動したものでした。」

これは嘘じゃない。魔法は万能じゃないと再認識させられたきっかけでもある。

「貴方ほどの方なら騎士になることも、傭兵として名を上げることも難しくないでしょうに、何故?」

本心でそう思う。可能なら家庭教師として雇いたいぐらいだった。

「難しかったんだよ。」

だが、返ってきた言葉は否定だった。

「俺だってそう思ったさ。やっと報われる。魔力の少ない俺でもがんばったら報われるんだってな。けれど実際はほとんどが門前払い。良くて一般の兵士と同レベル。おれが準決勝で勝ったやつの部下になれと言われた時にはもう駄目だと思った。」

魔力の量は平民の中でも差別の理由としては一般的だ。彼は全く魔法が使えないわけではないが、平均よりは少ないほうだ。例え大会では勝ったとしてもそれはまぐれだと判断されたのだろう。

「そんな俺にきっかけをくれたのは、あの胡散くせえ男だった。」

どうやら、事情を話してくれるらしい。期待はしていなかったのだが、予想以上に時間を稼げそうだ。

時間を稼げばそれだけエディアの魔力が回復する。この勝負は、「俺」が隙を作り、エディアの魔法を直撃させることによってしか勝機はないのだ。

だが、胡散臭い男、とは「ボク」を連れてきたあの男か。飄々としていながら、全く隙のない男。この男のことを団長などと言いながらまったく敬おうとせず、だからといって反抗しているわけでもない男。なるほど、あれが原因か。ならばやはりあの男との戦闘を避けて正解だったか。黒幕なんてものはボスよりも強いか厄介だと相場が決まっている。


そして語り始めた内容は、案外すぐに終わってしまった。長話をするほどに愚かではないようだ。要約すると、この魔法を無効化するマントがあれば見返すことができる。そうすれば帝国に反旗を翻す勢力が貴方を放っておかないだろう。そんな話らしい。まぁ有りがちと言えば有りがち。そしてこの男は捨石なんだろう。

「なぁねえちゃん。俺らと一緒にいかねえか?」

最後にそう聞いてきた。小娘とはいえ、貴族に初めて認められたことがうれしかったらしい。この男には同情はする。

「それはできません。」

だが、この男と共に行くことなどできない。リィンのこともあるし、級友たちを傷つけたということもあるだが、それ以上に。

「やっぱり魔力の少ない平民なんかとはいやかい。」

「そうではありません。もっと単純な話です。」

そうもっと単純な話。

「絶対的な死よりは、絶望的な死の方が、まだ生き残る可能性がある、それだけの話です。」

その胡散臭い男かその組織にとって、この男はただの実験台だ。ここの男たちが何を持ってそんなに楽観ししているのかと思っていたがそれは「騙されているから」だろうと結論づけた。

「ボク」は知っている。この付近にはマックス率いる親衛隊が駐屯している。学園の遠征見学にここが選ばれたのはたまたまではない。ちゃんと有る程度の安全は確保してあるのだ。まして「ボク」程度でここまで戦える程度の欠陥品で本物の騎士団が相手に出来る筈がない。そしてそこへブルーノが救援を求めに行った。他の子供ならば初動に時間がかかるだろうが、「ボク」からの要請でブルーノが救援にいたとなればすぐに本気で動き出す。

またこの男の切り札であろう皇子は「ボク」だし、そして「俺」は皇子が切り札になりえないことは身をもって知っている。

この場所は帝都からはかなり東だが、そこより先に逃げるにはマックスの部隊を抜けなければいけない。

どんな増援が来ようとも帝国でも有数に強靭な彼らの部隊に勝てる兵力があるとも思えない。


「そうかい。おれっちはやっぱ死ぬのかい。」

冷めた様子で特に驚いた様子もなくそう言った。

「なぁお譲ちゃん。賭けをしねえか。大会でもあったろう、勝ち負けにお金をかける奴だ。」

「俺」は負けたけど、などとは言わないでおく。男の雰囲気が少し変わってきた。話をすることで油断を誘う算段だったのだが、どうも効きすぎたらしい。

「なあに簡単さ。おれっちがあんたをぶっ飛ばす。あんたが耐えればあんたの勝ち。気絶したら俺の勝ち。賭けるのはあんた自身さ。」

「拒否権はあるのですか。」

無茶なことをいう。そんなのこっちにメリットなんてないじゃないか。

そんな「俺」の言葉に、禿げた自身の天頂に手を置いて笑った後、姿が消えた。やばい、これはこの男の得意技、恐らく特殊な歩法による間合いを高速に詰める技だ。


ゴウッ


思った瞬間に体を横に避けたところへ、男の剛腕が通り過ぎる。間一髪か、いや。

「まだまだぁ!」

そう、決勝戦でみたじゃないか。この男の技は二連撃。一撃で終わることが多いだけで、本来はよけたところへの振り向きながらの追撃が本命。だが、これは避けられない。

ドンッ

振り向いて正面に拳をとらえた瞬間、世界が遠のいた。

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