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Warriors Carnival!(承)

馬車酔いに苦しみながらもなんとか着いた目的地。

だが先に到着している筈の生徒たちの代わりに居たのは、胡散臭い男たち。

その男たちは「ボク」を捜していた。

兵士たちの駐屯地についたところで馬車から降ろされた。(もちろん、表向きは丁重に。)

その後、さっきの胡散臭い兵士が、皆がいるというところに案内すると言って前を歩き始める。

(この男だけが特別で、他は一応「ボク」の姿に驚いてはいるようだな。)

ひそひそと聞こえる周りを囲む兵士たちの声に、エルフを珍しがる声が多く含まれることで分かる。そして、その中に下卑た内容も含まれていることも分かった。子供だろう、とかそれがいい、とか。さすがに脱がされたらばれてしまうし、先に着いている筈の生徒たちが心配だ。まあ他人の心配をする余裕はないか。

さっきの「皇子を捜している」という質問には「前の休憩地点では見た。遅れてくるようだ。」と言っておいた。嘘じゃない。前に見たのはそこにあった鏡だ。それ以降「俺」は見てない。そして遅れてきているのも事実。ブルーノとヴェルナーもうまく合わせてくれたので今のところ信じてくれているようだ。


-周りは完全に包囲しているようだの。-

先に行っているネコから連絡があった。一応、地球の猫よりは全然動きが速いので、少しの時間でこの駐屯地を一回りしてきたようだ。

(戦闘を行った形跡はある?)

-いや、少なくとも最近行われた形跡は全くない。兵士たちはそれなりに怠けておるが、統率が失われているわけではないようだ。少なくとも素人はおらんな。-

ますますおかしい。山賊か滅ぼされた国の残党にでも乗っ取られたのかと思ったが、戦闘跡すらなく帝国兵がやられるとも思えない。ということはこいつらは、帝国兵か?装備は確かに帝国兵だが、貴族の子供にこんな対応をしてただでは済まないことぐらい、どんな田舎の兵士だって知っている筈だ。むしろ田舎の兵士にとって貴族とは神に等しいと教育されている。

だが、敵対勢力にしては緊張感がない。宣戦布告に等しいこの行為の後は、帝国軍との戦いがあると分かるはずだ。人質がいるから大丈夫だと思っているのか?そのために「ボク」か?それなら見通しが甘すぎるとしか言えない。逆に「ボク」ごと滅ぼされる。

(むしろ、時間がないのは「俺」の方か。)

折角皇帝の温情で生かされているのに、これでは問答無用で殺される。唯一の望みはリィンが来てくれることだが、その場合恐らく、「ボク」以外皆殺しにしそうだ。死にたくは無いが、そんなことは彼女にさせたくない。

(ネコ、ブルーノを逃がすことはできるか?)

-ふむ、騒ぎになっていない今なら可能じゃろう。お主ではなくても良いのか?-

(残念ながら、「ボク」がいなくなると騒ぎになる。それに、「ボク」の足よりもブルーノの方が早い。)

-そうかえ。まあ良い、一番監視の少ない場所に我が居るゆえ、そこからまっすぐ外に向かえば入ってきた道の脇にでる。けもの道故こやつらも気付いていないようじゃの。-

(ありがとう。それが終わったら引き続き情報収集をたのむ。)

-しょうがないのう。怖くなったらすぐに我を呼ぶのじゃぞ-

そういってテレパスが途切れる。呼んでも特に戦力にならないし、などとは思わないでおく。なんでもネジは生まれなおしたような形になっているため、今はほとんどの力が使えないらしい。あと1年もすればそこそこ魔法も使えるらしいのだが、今の時点では無い物ねだりだ。


前に歩く男が気を使っているのか使っていないのか、もうすぐ着くけど暇つぶしにとしょうもない話題を振ってくる。(内容は酒場ででも話されていそうな下ネタばかりだ。)

それに対し、適当に受け答えしていると森の小道に違和感を感じる場所があった。ネコがそこに居るのだ、と「俺」は分かる。

「ブルーノ、おしっこをしたいの?」

女だと思われているので、女らしい喋り方をする。急に話を振られたブルーノは一瞬びっくりするが、「ボク」の顔を見て意図を悟った。

「えと、うん。ごめんなさい。」

「坊主、がまんできねえのか?しょうがねぇなあ、そこらへんでしとけ。」

「じゃあボクが付きそうよ。あそこの建物なんですよね?」

案内役の兵士に対し、ヴェルナーがフォローする。このままこの兵士に残られては逃げられない。

「はっはっは、紳士だねぇ。まあ坊主も可愛いお姉さんにはみられたくないだろう。分かった分かった、先に行っとくから変なところには行くなよ?こわーいお兄さんにおこられちゃうかもだからな。」

この場には居ないが、少し離れた所には兵士がたくさんいるため安心したのか、簡単にだまされてくれた。「ボク」が女だと思っていることも効いたらしい。というかこうも簡単に騙せてしまうところに思う所がないこともないがいまは置いておく。

ただ、恐らく元々「ボク」だけを連れて来いという命令だったのだろう、と会話の中から想像がついたのでうまくいく可能性は高いと思っていた。

どうもここの団長、とやらがエルフの娘にご執心、なのだそうだ。やはりむしろ、「ボク」の方が危ないかもしれない。いろんな意味で。

ただ、魔力に興味がある、などということを言っていたので、隙をつけば一人なら倒せるかもしれない。

魔力は皇族の中では高くないが、現時点でもそれなりの強さはある筈なのだ。


案内役の兵士と二人きりになってからもかなり歩いた。相変わらずくだらない話を続けてくる男の機嫌を損なわないように気を使いながら周りの様子をうかがう。逃げる算段もそうだが、一つの疑問の答えを探していたのだ。その疑問とは、あまりにも簡単に生徒たちが捕まっていることだ。

完全に擬態している兵士で会ったのならともかく、こいつらは身なりこそ帝国兵だが、あきらかに礼儀がなっていない。教師陣もすぐに気が付く筈だ。それが満足な抵抗もできずに囚われているという事実。ネコもそう言っていたし、「ボク」としても魔力戦闘の残滓すら感じられない。

教師たちも仲間か、とも思ったがその可能性は低いと考える。それなら「ボク」を逃すような真似はしないだろうからだ。絶対に元居た馬車からは逃がさないようにするだろう。だが、全く情報がないわけではないようだ。最後尾の馬車に「エルフ」が居て少女のようであったとしても、少女と断定するということは「そこに少女がいる」という情報があったからと思われる。つまり現時点では「学園から出るまでの情報は筒抜けだが、出発した以降のメンバーには裏切り者は居ない」と考えられる。

ならば戦力差が圧倒的だったからかとも思ったが、この男は別格だがそれ以外は普通の兵士クラスのようだ。それならば貴族の子息はすでに魔力で大幅に上回る。教師陣も弱くは無いし、護衛を兼ねている教師だっているのだ。「俺」が遅れたのは小一時間程度。その程度で完全に制圧できるとも思えない。

そんなことを考えながら歩いていると、ふと疑問点がでてきた。ここはそんなに寒くない、そして雨も降らない季節であるのにほとんどの兵士が大きめのマントのようなものをしているのだ。確かに、部隊を見分けるために何らかの装飾をすることは珍しくないが、それにしても兵士に配るにはあまりにも高価なものに見える。どこかで見覚えがあるような模様が刻まれたそのマントは、貴族の生徒がしているマントにも劣らない品質だ。そういえば、聞こえてきた会話の中に、「このマントのおかげで」とか言っていた気がする。

なんとか材質を調べられないかと思ったところで、一際大きな扉の前につき、そして案内の男が立ち止まった。ここが目的地で、この砦の司令室であり、恐らくボスがいるところ、というところだろう。

「さて、お譲ちゃんは物わかりが良いようだから一つ言っておくとな。」

そう、案内役の男が扉に手をかける前に言ってきた。どうやら、「俺」が異変に気がついた上で服従していることに感づいているらしい。まあそうだろう。

「無理だと理解できたら素直に服従することだ。うちのボスは抵抗する奴をいたぶるのが好きなんだ。悪あがきは悪い方向にしかいかねえ。」

そうします、と答えると満足そうな顔をして、その後扉をノックする。

その瞬間、肩に重みを感じる。どうやらネコがやってきたらしい。それに対してこの男は気が付いていない。

「ボスぅ、エルフのお譲ちゃんをつれてきましたよー。」

緊張感のない声で呼びかけると、中から「おう、連れてこい」という野太い声がする。その声を聞いてから男は懐からカギをだし、扉を開けた。どうやらこの扉は両側からカギができるようだ。

今襲うべきか迷う。だが、この男も恐らくかなり強い。出来ることなら1対1が良い。

そう思って中に入ると、筋肉質の、というより山のような男が目に入った。鎧のようなものは着ておらず、代わりに皆がしているマントが大きいものになっていた。


瞬間、その男が燃え上がる。

「やったわ!これなら死んだでしょ、私をいたぶった罰よ!」

見ると、ぼろぼろになった制服を着たエディアがそこに居た。どうやらこれはエディアの魔法のようだが、前に見たときよりもより強く、収束するようになっている。これは並みの兵士どころか、騎士でもなかなか居ないクラスの威力のはずだ。

「くくく、あちいなあ。けどなぁ。」

炎が収まっていくと、マントをかぶった男が現れてくる。

「あちいだけだな、この程度じゃ。クカカカカカ!」

その男は服が少し焦げている程度でほぼ無傷。余裕なのか反撃のそぶりすら見せずに笑っている。

(最悪だな。)

今までの情報から可能性は考えてはいたが、やはりあのマントは魔法封じであった。模様に見覚えがあると思ったら、おそらく学園の儀式用魔法陣にある模様と同じか、それに近いものだ。性能も同じ程度であるならば、「ボク」の初めて放ったマグレ魔法以外では破壊不可能、ということになる。これは少し甘く見すぎていたかもしれない。知り合いを救えるかも、などと増長せずにわき目も振らずに逃げればよかったかもしれない。

「そんな、あたしの、全力でも」

おそらくドアに注意がいった瞬間に全力で魔法を放ったのだろう。それが難なく防がれた。

いつも強気な彼女が崩れ落ちて倒れる。

「エディア!」

「俺」は彼女に走り寄り、水の回復魔法をかけた。

絶望的な状況、それでもやはり、知り合いを見捨てる気にはなれなかった。これも「魔力」などという才能に少しは恵まれているという傲慢さからくるものだろうか?

「な?無理だって分かっただろ?」

そう言って案内してきた男が、駆け寄るのを止めもせずにへらへらと言う。残念だが、納得せざるを得ない。魔力があっても「ボク」らは子供で、相手は大人の中でも屈強の戦士なうえに魔法が効かない。こうやって2人になろうが、逃げ場のないこの部屋では籠の中の小鳥に等しいのだ。


恐らく同じ方法で魔法を防いで見せて戦意をそぎ、人質を取って教師や生徒たちを拘束したのだろう。

周りを見渡すと、何人かの生徒や教師達が倒れている。それは学園でも優秀だと言われている者たちばかりだ。それをこの男は一人で相手をしていたらしい。

その中で意識があるのはエディアだけ。半数は息をしているかどうかすらあやしい。首の方向があらぬ方へ曲がっている者すらいる。あれはもう無理だろう。


「クカカカカッカ。喜べおまえら。おまえたちはこれから始まる、俺様の、戦士の時代の始まりの生き証人になるんだからな。クカーカカカカカカカ!」

癇に障る笑い声。だが、それにムカついては居られないほどに事態に余裕はなかった。

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